小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e60.リインフォースと初デート(前編)





夜に携帯の着信音が鳴ったのが、事の始まりだった。
発信元ははやて。
ボタンをプッシュ。
耳に当てる。

「なんだ?こんな時間に」

「あ、キリヲ君?ごめんなぁ、こんな時間に」

「いいから。で、なんだ?」

謝罪の言葉は気にせず、要件を急かす。

「うん、いきなりなんやけど・・・



明日、リインフォースとデートしぃ」

爆弾発言が返ってきた。





AM8:32

俺は待ち合わせ場所である公園に向かっていた。
服装はいつも着ている、安物のTシャツとジーンズに、いつものコート。しかしフードは被ってない。で、右手には革手袋。古傷の関係上、服の判断基準は安さしかない。
待ち合わせ時間は9時であり、まだまだ時間はあるのだが、デートではある意味お馴染みの、

「ごめん、待った?」

「いや、今来たところ」

を、実行するためのものだ。

・・・別に、デートを楽しみにしてた訳じゃないよ?俺がリインフォースより後に来るというのはまずいって、そう思ってただけだよ本当だよ。
大体、デートを持ちかけてきたのははやてなんだ。リインフォースははやての無茶ぶりに付き合わされている可能性が高い。なら、少しでもリインフォースが満足できるように、俺がエスコートに徹するべきだろう。デートと言われたからって浮かれてはいかん。
・・・ああ、ついでに言っておくけど、昨夜のあの時、あまりに急な話だから断ろうとしたよ?だけどはやてに言い負かされ、結局デートはやる羽目に。
まあ、リインフォースとデートできるっていうのが、嬉しくないと言えば嘘になるんだけどさ。



さて、もうすぐ公園だ。
どこで待っているべきなんだ?やっぱここは入り口辺りで待っておくべきなのか?


―――ドンッ


考え事に気をとられていたらしい。誰かにぶつかってしまった。

「ああ、悪い・・・」

「いえ、こちらこそ・・・」

フードを取り、謝ろうと相手の顔を見て・・・

「「あ」」

ぶつかったのが、デートの相手のリインフォースであることを確認した。

「・・・よ、よぉ・・・随分早かったな・・・まだ30分近くあるんだぞ?」

「き、キリヲこそ・・・」

いかん、なにこれ、超気まずい・・・!
大体リインフォース、なんで待ち合わせ30分前には来るって手法知ってんだ。あ、はやてか。アイツならあることないこと色々言ってそうだな。

「あぁ、えぇっと・・・」

「うぅ・・・」

目を泳がせる俺と、縮こまるリインフォース。
まずい、こうして面と向き合うと、何をすべきかわからなくなって頭が真っ白になる。
落ち着け・・・リインフォースが満足できるように、エスコートするんだ。

「えっと、じゃあ・・・少し早いけど、行くか?」

「あ、ああ」

ぎこちないながらも、とりあえずスタートを切ることはできた。
目指す場所は駅前商店街。互いにデートは初めてなんだし、まずは慣れた場所を一緒に歩くのがいいだろう。
俺達は並んで歩き出した。手は繋いでいない。恥ずかしいから。というか、デートだからって、必ず手を繋がんなきゃいけないもんなのか?



2度の人生の中で初のデートにテンパっていたからか、俺は後ろからつけてくる影に気づいていなかった。





―side・ヴィータ―


あたし達は今、キリヲとリインフォース、2人の後をつけていた。
なぜかって?あたしが聞きたい。

『コードH-01からコードV-01へ。どうや?目標は補足できてるか?』

尾行する前に渡されたレシーバーから、渡した張本人のはやての声が聞こえてきた。

「なあはやて・・・やっぱやめよーぜ?2人の尾行なんてさ・・・」

『はやてやない、コードネームを使うんや!H-01やで私は』

いや、まずそのコードネームって何だよ。
それに、こんなスーツにグラサンとか、怪しい以前に暑苦しい服装にまでさせられるし・・・。
・・・はぁ、しょうがない。
あたしはレシーバーを切り替え、口元に近づける。

「え〜っと、シャ――じゃねぇや・・・コードS-02、聞こえるか?目標は十字路で右折した。どーぞ」

『コードS-02。ええ、確認したわ。ヴィータちゃ――じゃなくて、V-01はそのまま後を追って』

「りょーかい」

S-02・・・もういいや。シャマルの指示に従って、2人が曲がっていった道に入る。

「V-01、こっちです!」

角を曲がると、あたしと同じ格好をしたリインが手招きしていた。
正直もうどうでもいいけど、リインのコードネームはR-02だ。
・・・リインは随分ノリノリだな。

「目標は、このまま真っ直ぐ歩行中。ここからでも目視できます」

「へいへい」

ノリノリなリインの言葉に適当に返す。

もうわかると思うけど、2人のデートを八神家総出で尾行している。
あたしは反対したんだけどなぁ・・・はやてがどうしてもやるって言うから・・・。どうなっても知らねーぞ、2人とも、バレた時にどんな仕打ちしてくるかわかったもんじゃねえ。

アホらしーことやってる自分に溜め息をついてると、レシーバーから音声が流れた。

『コードH-01からみんなへ。そろそろ、サーチャーの音声を念話として再生するで』

サーチャーって・・・ホントやめとけよ。あたしまで巻き込まれんの嫌だぞ。

・・・まあ、せっかくだし、聞くだけなら・・・。
・・・べっ、別にあたしはデートってのに興味がある訳じゃねーんだかんなっ!!

・・・誰に言ってんだあたし・・・。
そう思いながらも、頭ん中に流れてくる音声に集中する。





『・・・』

『・・・』

『・・・・・・』

『・・・・・・』

『・・・・・・・・・』

『・・・・・・・・・』





「・・・おい、何にも聞こえねーぞ」

「聞こえないと言うより、2人とも何も喋ってないみたいです。サーチャーに異常はありません」

『何やっとんねん2人とも』

あたしもそう思う。

『2人とも、緊張してるみたいね。相手から切り出すのを待っている状況よ』

『しかし、それも難しいぞ。忌束の歩きが速すぎる。上がりすぎて周りが見えていない。リインフォースはそれについていくのに精一杯のようだ』

2人の後ろをついて行きながら、シャマルとシグナムの話を聞く。
・・・なぜかシグナムも乗り気だかんなぁ・・・なんでだ?

しかし、上がりすぎか。
・・・しょーがない、フォローしてやっか・・・。

ポケットに手を突っ込み、魔力を固める。
魔力はシュワルベフリーゲンとか、コメートフリーゲンでよく使う鉄球に変化。けどサイズはシュワルベの時よりももっと小さい、10円玉程度の直径しかない。この小ささなら、魔法陣を展開する必要もない。
生成した鉄球をポケットから取り出し、あたし達の10メートルかそこら先を歩くキリヲを見据える。
・・・グラサンが邪魔。だから外す。

「・・・あれ?V-01、どうしました?」

「・・・リイン、人の恋路に首を突っ込むってのは野暮で、やるべきことじゃねーんだがな・・・」

キリヲを見据えたまま、作った鉄球――名付けてミニマムフリーゲンを持つ右手を振りかぶる。

「さすがにあの純情馬鹿共には、フォローを入れてやんねぇと・・・なぁっ!」

上に向けて鉄球を、投げた。
不自然にならない程度に誘導を行い、鉄球は山なりの軌道を描いて・・・


―――ガンッ!!


キリヲの脳天にぶち当たった。
直後、キリヲがぶっ倒れた。

『っ!?き、キリヲ、どうしたんだ!?キリヲ!』

リインフォースの慌てた声が聞こえてきた。
通行人が、次々とキリヲがぶっ倒れた地点に集まっていく。

『V-01、何があったん!?いきなりキリヲ君が倒れたで!?』

『失神してるみたい!一体何が起きたの!?』

レシーバーから、はやてとシャマルの声が鳴った。

やっちゃった。


―side・out―





時は少し前から。

俺達は駅前商店街を歩いていた。
最初は並んで歩いていたのだけど、いつの間にか俺の方が前に出てる。

・・・やべーよ、マジでやべーよ!一体何をすればいいのかわかんねぇ!
デートプランなんか、昨日言われたばかりだから俺は勿論考えてないし、言い出しっぺのはやてがデートとだけ言ったからリインフォースも考えていない。完全にノープランだった。
エスコートしなくてはとか思ってた俺だけど、ぶっちゃけエスコートの手段がわからない。何をすべきかわからない。

ショッピングをする?
リインフォースが何を欲しがっているかわからない。まず、リインフォースが何かを欲しがっているかすら怪しい。

映画館で映画を見る?
リインフォースの映画の好みを知らん。

遊園地に行く?
リインフォースがそういう場所を好むとは思いづらいし、ここからでは遠い。

・・・いかん、どうすりゃいいんだ・・・。
とりあえず、道の適当なところで右折。

試しに周りの店とかを探してみるが・・・店を見ても頭に入らない、入れられない。

「・・・」

「・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

密かにリインフォースからの声を期待するも、互いに完全沈黙。聞こえるのは周りの雑音と、不気味なくらいはっきり聞こえてくる、俺と彼女の足音。
ヤバい。ホントにどうすればいいんだ・・・。何か・・・何かこの状況を打破する手段は・・・


―――ガンッ!!


俺の頭に、何かが直撃した。
反応する間もなく、俺の意識はブラックアウトした。





ぼんやりと、視界に景色が戻ってきた。

「うぅっ・・・んぅ・・・?」

「キリヲ!よかった・・・」

視界がはっきりすると、リインフォースの顔が鮮明に映った。
えぇっと・・・?・・・ああ、今まで気絶してたのか?うわ・・・物理的に気絶させられたのって、なんだかんだで初めてだ・・・。
つーか、一体何があったんだ?

「まだ少し、安静にしておいた方がいい。腫れているから・・・」

言われて、自分の頭が、何か湿ったもので押さえられていることに気がついた。多分、濡らしたハンカチかなんかだろう。

・・・あれ、そういや思ったけど、ここってどこだ?
というか、リインフォースの俺を見下ろす角度がかなり急だ。自分の足元を見るような角度。
そして、後頭部に伝わる柔らかさ。

・・・・・・膝枕されてる?

やべぇ、リインフォースの膝枕だと思うと急に興奮してきた・・・!
・・・いかんいかんいかん!何俺ばかりが得してんだ!これはそう、償いなんだ。俺が満喫なんてしちゃだめなんだっ!
その考えに至った俺は、先のリインフォースの言葉を無視することとして、起き上がる。

「あ・・・」

なんかリインフォースが残念そうな表情をしていたが、これ以上リインフォースに迷惑をかける訳にはいかない。

そういや、今何時だ?
携帯を開いて確認する。
AM11:32・・・そう携帯の画面が示した。

・・・うわ、もう3時間も経ってんのかよ。
つーか、始まってから今まで歩くと気絶しかしてねーじゃんか。
・・・最悪だよ。3時間完全に無駄にしたよこれ・・・。

「・・・すまん、リインフォース。とんだ迷惑をかけた」

溜め息を吐き出し、リインフォースに謝罪する。謝られたリインフォースは控えめに手を振った。

「いや、気にしないでくれ。キリヲが気絶したのは事故なんだし、その前についても、何も話題を振らなかった私に非がある」

いや、非があるのは俺の方だろ・・・。
初めてだったとは言え、俺がエスコートする側だったんだ。しっかりすべきだったのに、上がって何もできなかった。完全に俺の責任だ。
・・・けど、そうやって言い合おうとしても平行線を辿ることになるのは予想できた。リインフォース、妙なところで頑固だし。
つまりやるべきことは、これからは彼女をちゃんと楽しめるようにすることだ。

とりあえず、状況確認。
場所は・・・さっきまで歩いていた場所から近い休息所か。気絶する直前に見た店が見える。
それと、駅前商店街の道はもうほとんど終わりだな。まあ、歩くだけだったらすぐに端まで着くか。

「リインフォース、今まで見てきた中で気になった店とかあったか?」

「え、ええっと・・・」

試しに問い掛けてみると、リインフォースは目を泳がせた上に口ごもった。
これは・・・俺の歩きが速すぎたんだな。ついていくので精一杯だったみたいだ。
こりゃあ、やり直した方が良さそうか?

「・・・もう1回、見て回ってみるか?」

「・・・ああ」

俺の提案に、リインフォースは申し訳なさそうに頷く。
いや、同じ道を辿る原因は俺にあるんだけど。リインフォースがそんな表情する必要なんてないんだけど。

「えっとだな・・・先を行き過ぎて悪かった。今度はゆっくり歩くようにするから」

「いや・・・こちらこそすまなかった。私ももっとちゃんとするべきだったから・・・」

「いや、だから・・・・・・どっちでもいいや。こんなことより、今は楽しむ方がいいだろ?」

「あ、ああ」

つい言い合いになりそうになったのを、なんとか打ち切る。
さっき言ったように、互いに平行線を辿るようなことのは避けた方がいいだろう。最悪、険悪な状況になりかねない。

「じゃ、行くか」

「ああ・・・あの、キリヲ?」

「ん?」

「もしよかったら、その・・・並んで歩かないか・・・?その方が、話しやすいだろうし・・・」

やや遠慮がちにリインフォースが提案。やはりリインフォースは自分から意見をするというのが少ないと思う。
まあ、提案は尤もだな。そうするべきだろうし、俺もそうしようと思っていた。
が、そんな風に言うのはさすがに心無いだろう。

「ああ、そうしよう」

「・・・ありがとう」

リインフォースも立ち上がり、今度は並んで、彼女の速さを意識して歩き出す。

リインフォースとの初デート。
前半は物凄く出鼻を挫くこととなった。

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