小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e61.リインフォースと初デート(後編)





気を取り直してもう1回・・・の前に、案外区切りがいい時間帯なため少し早い昼食を提案。
どこか手頃な店はないか見渡そうとすると、

「あの・・・こういう時は弁当を作ってあげるべきだと、我が主が」

そう言ってリインフォースが弁当箱を取り出してきた。大きさは、よく運動会とかで親が持ってくるような大きさ。それを風呂敷で包んでる。

「リインフォースが作ったのか?」

「あ、ああ。初めてだから、口に合うかどうかわからないが・・・」

・・・うん。八神家の料理は基本はやてが担当だろうからな。
それはいいとして。リインフォースが弁当を作ってきてくれたのであれば、それを断る訳はない。
そういう訳で、リインフォース作の弁当を食すべく、先ほど立ち上がったばかりのベンチに座り直す。

さてと、それじゃあ中身は・・・?

包みをほどいて中身を見てみる。
弁当箱の半分のスペースにはサンドイッチ。少し小さめで、玉子とかサラダとか種類が多い。
もう半分には玉子焼きやサラダ、ウィンナー、ミートボール、春巻きなど、こちらも色んな種類を少しずつ入れてある。フルーツもいくつか入っている。デザートといったところか。

「ど、どうだろうか・・・?」

リインフォースが不安混じりな様子で尋ねてくる。
うん、一部少なすぎる気がしなくもないけど、全体的にいい感じだな。
・・・いや、というか普通、これって言うべきなのは味の感想の方じゃないか?というかリインフォース、質問のタイミング早すぎないか?

そこまで思考が至った俺は、とりあえずサンドイッチを1つ手に取り、食べる。

偶然取ったやつの具がレタスとハムだった訳だけど・・・普通は挟むだけだが、これソースを付けてるな・・・うまい。

「うん、うまいな」

「ほ、本当か!?」

「ああ。リインフォースも食ってみろよ」

言われてリインフォースは俺が取ったのと同じサンドイッチを取った。
彼女が食べている間に、俺は今度は玉子焼きに手を付けてみる。
・・・うん、少し味が薄い気がするけど、それでもうまいな。
ただ、やっぱ量が全体的に少ないな。

「種類は多いけど、料理1つ1つの量が少ないんじゃないか?味はどれもいいんだし少し種類を減らして量を増やしてもいいと思うぞ」

「そ、そうか」

・・・あれ、これって次また作ってくれって言ってるようなもんじゃね?
それってつまり・・・またデートしようって言ってるってことじゃね?





昼食を食べ終え、俺達は来た道を戻るようにして改めて商店街を歩く。
今度はちゃんとリインフォースと速さを合わせて並んで歩き、彼女が何に興味を持つのか知るためにチラチラとではあるが様子を伺う。少しでも彼女の目が止まったら、できるだけ自然な誘導をするつもりだ。

―――その彼女の目が、一瞬止まった。
だが、すぐ別の方に顔を向けてしまった。
気のせいか?
だが一応確認のため、リインフォースの目が止まっていたと思われる方向に顔を向けてみる。

・・・ゲーセン?
いや、ゲーセンというよりはクレーンゲーム専門みたいだな。店頭のやつに入ってるのは・・・ぬいぐるみ?

・・・ひょっとして。

「リインフォース」

「・・・なんだ?」

「ぬいぐるみとかに、興味があったりするか?」

「・・・・・・」

顔逸らされた。



―――ストレートすぎるだろ、俺っ!
何が自然な誘導だ、めちゃくちゃドストレートじゃねぇか!そっぽ向かれるのも仕方ないよ!

・・・でも、そっかー。リインフォースってかわいいもの好きなのかー。
いや、意外だったけど否定的な訳じゃないよ?むしろいいじゃないか。女の子らしくて。

って、そんなこと考えてる場合じゃねぇや。状況確認。
リインフォースはそっぽを向いたまま歩いてる。このままだと立ち去ることになってしまいそうだ。恥ずかしいのかそれとも遠慮してるのかが微妙なところだが。

「あーもうっ」

もうまどろっこしいのはやめだ。第一、俺に器用さを求めることが無茶だったんだ。

リインフォースの手首辺りを掴み、すでに通り過ぎていた例のゲーセンの元へと道を逆走を始める。

「き、キリヲ!?」

「興味があるなら入るぞ。元々行き当たりばったりなデートなんだし、興味があればまず入る。それでいいだろっ」

もう、強引でもいいや。
リインフォースは遠慮しすぎだ。多少強引なぐらいでないと遠慮したままだろう。
それにもし仮にこの強引さが原因で振られたとしても、元より本当の付き合いなんかじゃないんだし。

・・・さて、着いた。

「で、どれなんだ」

「い、いや・・・前に見たことがあるが、こういうのは難しいのだろう?無理をしなくても・・・」

「早 く 言 え」

もはや強引を超えて威圧的な状態になってるが、俺の中ではもう気にしちゃいない。
俺にはクレーンゲームの極意なんてもんは一切ないが、もうこうなったら取る。絶対取る。意地でも取る。

「えっと、じゃあ・・・あれを」

俺の凄みに肩を縮こませながら、リインフォースはガラスの壁に指を突き立てた。
彼女の指に視線を合わせて見ると、その先にあったのは少し大きめなクマのぬいぐるみだった。黄色い体に赤い服のアイツではないぞ。ポケ○ンの金銀で登場したアイツに近い。名前忘れたけど。

「あのクマのぬいぐるみか?」

「あ、ああ」

確認を取った後、財布の中身を確認。
500円玉は・・・2枚。このクレーンゲームは500円玉を入れれば6回出来る仕組みになってるから、チャンスは12回だと思えばいいか。

500円玉投下。まず6回分のチャンスを得る。
右、上のボタンを押して、狙いのぬいぐるみの頭上へ操作する。
アームが降り、ぬいぐるみの頭を掴んだ。
そのまま持ち上がるが、一番上まで来たところで反動で揺れて落ちてしまった。

「あっ・・・!」

残念そうな表情をするリインフォース。
・・・大丈夫だ。まだ5回あるんだから。
2回目、持ち上げて少しは進んだが落ちる。
3回目、掴む場所をしくじって失敗。
4回目と5回目、なんとか穴のすぐそばまで寄せた。
そして5回目でぬいぐるみを引っ掛けることで転がして・・・

「よし取った!」

ぬいぐるみゲットに成功。
取り出し口からぬいぐるみを取り出し、リインフォースに差し出す。

「ほら」

「・・・ありがとう」

嬉しそうに受け取り、そしてそれが恥ずかしいと思ったのか、リインフォースは口元を隠すようにぬいぐるみを抱き締めた。
その反応に、俺は少しドキッとした。彼女の普段見ることはない、普通のかわいい女の子らしさを目の当たりにしたからか。

「じゃ、次行くか」

「・・・ああ、そうしよう」

再び並んで歩き出す。
次は、どこになるのやら。





―side・はやて―


「・・・はぁ。なんだか自分が惨めに思えてきました・・・」

「あかんでシャマル・・・やのうてS-02!心を折ったらあかん!」

肩を並べて歩くリインフォースとキリヲ君を後ろから私とシャマルで追ってると、シャマルが落ち込んだ様子で言った。
無理もない。午前中はとにかくあたふたしてばかりやったけど、今の2人はデートを楽しんでるように見える。
微笑ましい反面、彼氏がいない私達にとって精神的にキツいものがあった。

「はやてちゃん、さすがにもうやめませんか?」

「・・・もうちょい、もうちょいや。アルバムに入れるにしては物足りひん」

今明かすんやけど、2人の尾行をする理由は2人の思い出アルバムを作るため(本人達には非公開)。
思い出は残さんと損やろ?非公開やけど。
せやのに、せやのにヴィータはキリヲ君がぶっ倒れる事件が起きた後、「もう付き合ってらんねー」って言うて帰ってもうた。続いてシグナムも帰ってもうた。乗り気やなかったんかい。
ザフィーラは元から参加せえへんかったし、残るメンバーは私とシャマル、リインの3人のみになってた。

『R-02からH-01へ。目標が左折しましたー』

レシーバーからリインの声が鳴った。
よし、ここを左折やな。リインはよく動いてくれるから助かるわー。純情やからなー。
念の為、バレないようにまずは壁から覗くように――

「何をやってるのかなはやてちゃん?シャマルさん?」

・・・あれー?
なんでなのはちゃんが目の前におるんやー?

「偶然会ったヴィータちゃんから聞いたよ?なんだか楽しそうなことしてるみたいだね?」

「あー、い、いや、それほどではあらへんよ・・・あ、あははは・・・」

「あわわわわわわわわ・・・!」

目が笑ってないなのはちゃんの笑顔を見て、滝のような汗を流す私達。シャマルはもうガタガタ震えている始末。
いや、そういう私も泣きたいくらいやねんけど。

「ちょっとあっちで、O☆HA☆NA☆SHI・・・しようか?」

「・・・や、待って。待ってやなのはちゃん!これにはちゃんとした理由が!」

「ごめんなさいごめんなさい、だから許してなのはちゃーーーんっ!?」

O☆HA☆NA☆SHIモードになったなのはちゃんにかなうはずがなく、私達はO☆HA☆NA☆SHIという地獄を見ることとなった。
ちなみにリインについては、純情故の行動ということで免罪となった。

・・・リインの卑怯者ー!


―side・out―





―side・リインフォース―


商店街を歩きながら、店の看板に視線を巡らせる。
それとともに時々、キリヲの様子も確認する。
キリヲが取ってくれたぬいぐるみは、左腕でしっかりと抱いている。
あれからキリヲは、私が少しでも興味を持った店を察知してはそこまで誘導してくれた。
無論、あまり高い出費はできないためほとんど見るだけであったが、それでもその気遣いが嬉しかった。
・・・だが、キリヲに気遣われてばかりはいけないだろう。
そもそも、我が主提案のこのデートで、私はキリヲに償いの1つでもできればと思っていた。
しかし見ての通り、私が気遣われているという始末だ。
これではいけない。
償いをするべき相手に、償うどころか迷惑をかけっぱなしなのが、自分として許せなかった。
次に償えるチャンスがいつ来るか・・・そもそも、今後こうしたチャンスが来るかもわからないのだ。
あの事件の、追跡の時に知り合った、尾崎優香。あの人は、キリヲを好いている。
我が主の話によると、主のご友人、月村すずかもキリヲを好いているらしい。
キリヲは、あの2人のどちらかと付き合うだろう。
そうなった時、私が償いができる時は来るのだろうか。

ズキリ、と胸の辺りに痛みを感じた。
罪悪感とは違う、甘く切ない感覚。
原因はわかっている。というより、我が主から教わり、今となっては私も自覚できている。

私も、キリヲに恋してる。

一緒に歩くだけで、私の身体は焼けるように熱く感じる。私のことを思ってくれたり、私のことを見てくれていると思うと、とても嬉しく感じる。
キリヲが遠くなる、キリヲと会えなくなると思うと、とてもとても切ない気持ちになる。
できることなら、望めるものなら、ずっと彼と一緒にいたい。キリヲはずっと私を見てほしい。それが素直な私の気持ちだ。
だけど、いいんだ。
私にそんな資格はないし、私なんかがキリヲと釣り合うとも思えない。
私にできることと言えば、キリヲが幸せになることを望み、協力すること・・・。

「どうした?リインフォース」

「え・・・いや、なんでもない。キリヲは、どこか寄ってみたい場所とかないのか?」

「俺か?俺は・・・まあ歩きながら考えるさ」

でも・・・今この時は。
キリヲと一緒にいるこの時は、キリヲと共に楽しんでいたい。
できるだけ心残りがないように。キリヲが誰かと付き合うことになっても、笑顔で応援できるように。

ズキンと、また胸が痛んだ。


―side・out―





デートは夕方まで続き、そして最後にリインフォースを八神家まで送った。
今は八神家の玄関前。そこで俺とリインフォースは向かい合っている。

「その・・・すまない。今日もまた多くの迷惑をかけてしまった・・・」

「迷惑って、ありゃ俺の勝手なお節介だ。というか、それは俺の台詞だろ。午前中はあの様だし、午後もお前を引っ張り回してばかりだし」

事実、俺の強引っぷりにリインフォースは何度か表情を暗くしていた。強引でもいいとか思ってた自分を今すぐ殴り飛ばしたいぐらい後悔している。

よし、自分を叩き潰すために早く撤退しよう。

「じゃあ、またな」

「あのっ、キリヲ!」

軽く手を振って立ち去ろうとして、すぐ呼び止められた。
・・・なんだ?できるだけ早くリインフォースの視界から消えて、そして俺に罰として壁に頭を打ちつけたいんだが。とりあえず出血するまで。
そんな感情が表に出ないように、ただ疑問を持った表情を取り繕って振り向く。

「そ、その・・・」

「どうした?」

「・・・・・・いや、なんでもない・・・またな」

「?・・・おう」

なんでもありそうな気がするが、ここにまで強引さを持ってくることはないだろう。そのうち彼女から話してくれればいい。
じゃあ帰るかと、再び踵を返そうとした時、

「あのっ!」

再び、リインフォースの呼び止めが入った。
もう一度振り返る。

「・・・なんだ?」

「あ、その、すまない。何度も呼び止めて・・・」

「それはいい。で、なんだ?」

俺が問うと、リインフォースは恥ずかしそうに俯いた。
しばらくその状態が続いた後、彼女が意を決したかのように顔を上げた。

「そのっ・・・!こ、今度もまた、付き合って!・・・くれない、か・・・?」

勢いに乗せて言おうとした彼女の声は、途中から小さくなっていき・・・最後になるとなんとか聞こえる程度にまで小さくなった。
言い終わった後、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
が、話の内容は十分伝わりはしていた。

「へ?・・・あ、ああ、いいぞ。俺で良かったら」

「・・・そ、そうか・・・では、な」

「あ、ああ・・・」

ぎこちない別れを告げ、妙に高ぶりだした心臓の鼓動を感じながら俺は帰路についた。





歩き始めて数分後。
八神家が見えなくなったのを確認してから、俺は空を見上げる。

「はぁ〜〜〜っ」

長いため息。
思い起こされるのは、つい数分前にリインフォースが発した言葉。

『そのっ・・・!こ、今度もまた、付き合って!・・・くれない、か・・・?』

自分の身体が熱くなってるのがわかる。
心拍数も上がりっぱなしだ。
あれって、またデートをしようってことなんだよな・・・?
まさかリインフォース、俺に・・・・・・。

・・・いや、それよりまずはこっちの話だ。
あの言葉を聞いてから、鼓動の高ぶりが治らない。
それだけじゃない。今日のデートの時の彼女の仕草、表情の1つ1つが忘れられないし、思い出すだけでドキッとくる。
これは・・・・・・

「好き・・・・・・なんだよなぁ」

恋の経験がないからって、ここまでくれば自覚できない方がおかしい。二次元ではそういう奴もいなくはないが、あくまでそれは二次元だからだ。
間違いなく、俺はリインフォースのことが好きだ。アニメキャラとかそういうのではなく、リインフォースという人に俺は惚れている。
今すぐ道を引き返して八神家に突撃、リインフォースに告白・・・というのはさすがに無理だが、できることなら彼女にこの感情をしっかりぶつけたい。高望みができるとしたら、そのまま恋人として付き合いたい。
・・・けど。

「無理な願いだよなぁ・・・」

もう何度も考えてきた通り、俺には無理だ。まず俺に告白の権利なんてあったもんじゃないし、俺だとリインフォースとは釣り合わない。そして俺は危険すぎる。恭也さんやクロノにあれこれ言われたが、それでも俺の影(シャドー)化の危険性に巻き込むのは嫌だ。

「はぁ・・・」

ため息が漏れる。

なんで、あの時しっかり決めなかったんだろう。
あの時――転生する時に得る力を、もっと普通のものにすれば、こんなことにはならなかったはずだ。
残る願いのストックは2回。その2回分をプレシアとアリシアに使っていたら、才能の必要性なんて一切なかった。
能力についてはテンプレなチートにすれば戦闘面で困ることもなかった。さらに言えば、影(シャドー)化によって起きたあの事件も起こらなかった。
俺の選択によって、今こうしてめんどくさく、悩ましいことになっているのは紛れもない事実だ。



今、はっきりした。
俺はセコくて、ヘタレで、めんどくさがりで、見栄っ張りで。その他諸々で。

そんな、最低な転生者だ。

なら、なおさらだ。





そんな俺に、彼女と付き合う権利なんてない。

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