小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e7.俺の仕事はこんなもん





今日は休日。

休日の俺の過ごし方は、寝るかラノベ、後は“仕事”だ。

うーん、“仕事”でもすっかな。当たりが出るとは限らないけど。

パソコンの前に座る。
パソの電源をON。
そして、俺が経営している非合法依頼遂行屋『大火星王の宴』を開く。

――『大火星王の宴』。

エニグマ原作では、数奇ケイが運営するオカルトサイト。しかし俺の場合は、上記の通りに非合法的な依頼を受け付けるサイトになっている。

非合法と言っても、犯罪ばかりではないし、犯罪を目的とするような場所ではない。合法なものもある。

早い話、警察とか政府とか――管理局では相手にしてくれないものを受け付けるということだ。

実はこのサイト、次元を超えて存在している。
というか、活動範囲は主にミッドチルダだ。そこでよく依頼をこなしている。

ちなみに、このサイトは理不尽を受けた者の悲鳴を聞き、その望みを叶える・・・そんな厨二臭い都市伝説風に書いてある。
どうでもいい依頼の牽制になればなと思ってる。

第一、こんなサイトを見てみろ。期待以前に怪しさ満天でまず依頼を書き込まねーよ。

つまり、その怪しすぎるサイトに依頼をするということは完全な冷やかしか、こんなのにすがるしかない程の事態になってるかの2つに1つ。そうなれば判別がつきやすい。

さて、今回の依頼はっと・・・・・・。

・・・はぁ、冷やかしばかりだな・・・まあ仕方ないけど。よく書き込もうと思えるな。逆探知されても知らんぞ・・・。

・・・ん、この依頼は?


ニックネーム:R

内容:父さんが冤罪を着せられて殺人犯として捕まった。
父さんには僕と一緒にいたというちゃんとしたアリバイがあるのに、管理局は話を聞いてくれない。
報酬ならいくらでも出す覚悟はある。
父さんの無実の証明、あわよくば、犯人の逮捕のために力を貸してほしい。


ふむ・・・冤罪か。

依頼としては申し分ないな。俺が受けたいのはこういう依頼なんだよ。

返信を書く。


内容:『大火星王の宴』運営者のエニグマです。依頼を読ませていただきました。
あなたのその願いを叶えたく思います。
直接会って話を聞きたいです。本日の何時に、どこで合流するかの記述をお願いします。
参考にできる資料があれば、それも持ってきてください。


送信。





着信。


ニックネーム:R

内容:ホントですか!?ありがとうございます!
場所はミッドチルダ北西部、噴水公園で待ち合わせしましょう。できればすぐに来てください。私もすぐに待ち合わせ場所に向かいます。


返信。


内容:わかりました。私もできるだけそこへ早く行きます。
よろしければ、胸にあなたにニックネームを書いた紙を貼っておいてください。それを目印にします。
私は黒いコートと、右手だけに黒い革手袋をはめています。
それでは、現地で会いましょう。


さて、行くか。

魔導師であることもすでに知っているおふくろに一言伝えて、俺は転移魔法でミッドへ跳んだ。





待ち合わせ場所の噴水公園に到着。

辺りを見回す。R、Rはどこだ・・・?
・・・ん、誰かがこっちに近づいてくる。茶髪でスーツを着た青年だ。胸元に何か張ってる・・・Rだ。

メモ帳を出して、書く。そして差し出す。


:あなたがRさんですか?
エニグマです。話は筆談でお願いします


Rは筆談という手法に唖然としていたが、すぐに気を取り直し、メモ帳とペンを受け取って書く。


:僕がRです。依頼を受けてくださってありがとうございます。

:さっそくですが、話を詳しく聞きたいです。近くのベンチに座って話にしましょう。


そう綴って、俺とRは近くのベンチに座った。

それから、Rは具体的に、当時のことを書き始めた。

:当時の夜僕は、家で父さんと2人で酒を飲んでいました
結構な量を飲んだのでだいぶ酔ったのですが、確かに父さんと飲んだという記憶はあります
しかし翌日、管理局の人がやってきて、突然、父さんを逮捕すると言ってきたんです
父さんと飲んでいた時間に起きた、家から少し離れた場所で起きた、一般女性が刺殺された事件で、父さんが凶器であるナイフを持って襲ったのを見た人がいるというのです
私はすぐに言い返しました
父さんは僕と一緒だったって。2人でお酒を飲んでいたって
でも局員は信じてもらえず、逆に酒の酔いで一緒にいたと勘違いしてるんじゃないのかと言われ、そのまま父さんは連れていかれました
何度も刑務所に行って私が無実を訴えても局員は聞いてもらえませんでした
痺れを切らした局員が、証拠を見せてやると言ってビデオを見せてきました
ビデオにはナイフを持った父さんが、女性に何度もナイフを振り下ろしている映像が入っていました
・・・愕然としました
それでも食い下がろうとしましたが、管理局の人に追い払われてしまいました
父さんは、今も刑務所にいます
裁判もまだ続いています・・・


Rの手は震え、顔は涙と鼻水でグシャグシャになっていた。

なるほど。なら必要なのは、そのRとその親父が事件当時に飲んでいたという証拠と、そのビデオが偽の証拠である証拠だな。

なら、いけるか。


:わかりました。行きましょう

:行くって、どこにですか?

:無実を証明できるものが置いてある場所にです

俺達は立ち上がった。





Rの案内を受けながらついた場所は、Rの親父が収容されている刑務所だった。


:ここに、あるんですか?

:ええ。行きますよ


刑務所の入り口に向かって歩き出す。

途中で警備員が俺達・・・というか、後ろをついてくるRを見つけてしかめっ面をした。Rはずいぶん足を運んでいたようだ。

『お前、また来たのか?何度言っても証拠は変わらないんだよ!帰った帰った!』

後ろでRが反論しているかどうかわからない。しかし俺はそれを気にせずに、警官に向けてメモ帳を見せた。


:すみません。後ろの方のお父さんが起こしたという事件について、尋ねにきました


そう書かれた紙を見た瞬間、警備員は片眉を上げた。

『はぁ?なんだこれは?お前の口は飾りか?』


:ええ、食事の時以外はただの飾りですね


警備員の口を読んで返事をすると、警備員は目に見えて驚いた。

『なんだよこいつ、気持ち悪いな・・・!』

気持ち悪くて結構。

この世界では読唇術はあまり知られていないらしい。まあ、音が聞こえなくっても出した言葉を瞬時に文字化させるシステムもあるからなぁ。ミッドチルダは便利だ。


:その、証拠であるビデオを見せてくれませんか?





カウンターで渡されたのは、この世界では珍しい手持ち型のビデオカメラだった。読者には、普通に俺達が使っているビデオカメラを想像してくれれば間違いない。カメラの底には、三脚と繋げるための部分を普段は隠すための蓋がある。

ビデオを再生する。

再生されたビデオには、ナイフを何度も振り下ろす男性と、何度も刺される女性の姿が映し出されていた。この男性が、Rの親父だろう。

・・・・・・。


:どうだ?あんたも、これを見て信じないと言う口か?


警備員が聞いてくる。俺は返答を書いた。


:この証拠を提示したのは誰ですか?

:ガイ・メーラーだよ
被告が働いてる会社の課長だ
何度もこのカメラで殺人現場を撮って、犯人逮捕に助力した勇敢な人だよ

:撮影したのも、その方ですか?

:そうだよ


殴り書きで書かれた警備員の文字は読みづらい。機嫌がよくない証拠だ。

・・・さて、ぶっちゃけて、このビデオにはツッコミどころがあるんだが、今言った方がいいだろうか?


:音声がないですね

:古いやつだから、壊れてて音が拾えないんだとよ

:普通はこのようなカメラではなく、もっとちゃんとした端末があるんじゃないですか?画像も鮮明にできますし、魔力反応とかも見れますし

:そいつはこういうタイプのカメラの方が好きなんだと


こういうのが好き、ねぇ・・・。

だいたい証拠を曖昧にする言葉は好きだとか趣味だとかだ。ま、こんなオンボロカメラを使ってくれたおかげで、無実と言うこともできるんだけどさ。


:変身魔法の可能性は考えなかったのですか?

:それ、あいつも言ったけどよ。原告のガイさんの証言は具体的で、このビデオとの食い違いはない。犯人の口調も、被告と同じだったって話だ。間違いねぇよ


この発言に意義を言いたかったのかRが乗り出そうとしたが、俺が押さえた。

まだ聞きたいことはある。


:そのガイさんは襲われなかったのですか?

:映像をよーく見てみな。最後に襲われそうになってるだろ。死角から撮影していたことに感づかれて、被告が口封じで殺そうとしてきたから逃げたんだよ。


確かに、映像には途中で男がこちらを向いた直後から映像が激しく揺れて、その途中で映像が終わってる。


:わかるか?もしそれが偽もんだってのなら、逃げる必要がねえだろ。

:そうですね
最後に1ついいですか?

:・・・しょうがねえな
なんだ?

:そのガイさん、とても勇敢ですね。殺人現場に遭遇したと言うのにビデオを用意して、しかもこんなにブレずに撮り続けることができたのですから

:何が言いたい?

:私ならまず逃げますよ。僕が襲われるかもしれないのでね。仮に映像を撮るにしても、怖くて手元がブレてしまいます
この人にはそれがないですね
僕ならこんなこと、劇の中でしかできませんよ

:お前、なんだ?ガイさんを疑ってんのか?

:そういう予定があって、襲われない確信があるならブレないでしょうね


書いた直後、警備員が机を両手で強く叩いた。
俺にはその音は聞こえない。警備員も無意識なんだろう。

『帰れ!!お前にこれ以上見せるものなんてねぇよっ!!』

そして興奮で顔を真っ赤にした警備員が怒鳴った。

そして追い出された。





:どうするんですか?追い出されてしまったし、結局収穫は0じゃないですか


刑務所を追い出されてからしばらく歩いて、Rがそう書いてきた。

俺はその文字を見た後、返事も書かずにまた歩き続ける。


:聞いてますか?いや、読んでますか?


読んでるよ、ちゃんと。

移動した先は、人気がないところ。特に通りもなく、死角である。

さて、ここならよさそうだな・・・。


:あの、本当に父さんを助けてくれるんですよね?

:ええ、依頼は叶えますよ。ただし、本当にお父さんを救い出すのは私ではなくRさん、あなたです


数十分ぶりの返事に驚き、同時に返事の内容に怪訝そうな顔を浮かべるR。

そんなRに、俺は右手を差し出す。手の平が上だ。

手の平の上に、小さな粒がある。


:行きましょう。真実がある場所へ


そう書いて、俺は右手に左手を被せる。
そして意識を手の中に向けた後。左手を離す。

すると


ズズズッ・・・


粒が大きくなっていき、それ――カメラが、姿を現した。

『うわあっ!?』


:静かに。私にはいろんな力があります。その力で先程のカメラをビデオごと複製、縮小していたんです


勿論使ったのはコピーと三次減算である。
カメラを見せてもらったのは映像を確認するよりも、このビデオそのものの入手のためだ。


:そして私の力でこの映像の中に入ります。そこで真実を見てきます。ここでその様子を見るのでも構いません。寧ろ入った後でカメラが壊れれば命の保障はできません。どうしますか?


FLATでビデオ内に侵入、真実を確認する。これが俺のプランだった。

俺の説明を聞いて、Rの表情が変わった。

それは、決意の表情だった。


:行きます。行かせてください!


:わかりました。では、私に掴まってください


俺に言われた通り、俺の肩を掴むR。

そしてFLATを発動。ベロンと紙のようになった俺とRは平面世界へと踏み込んだ。





『ここは・・・?』


:平面世界・・・ビデオで撮られた当時の世界です


目の前では、Rの親父による惨殺が行われている。


『お、おい!やめるんだ!』

止めに行こうとしたRを止める。


:ここは現実ではありません。止めに行っても無駄ですよ。それどころか、下手すればあなたが死にます
それと、私の後ろを見てください


『後ろ?・・・あ!』

やっと気づいたか。

俺の後ろに、あのカメラを構える中年の男がいた。彼がガイ・メーラーだろう。

だが、その彼のカメラの構え方は、この場にとっては異常だった。

『三脚!三脚がついてる!』

そう、三脚がついてるのだ。それもしっかりと開いて、地に固定されてある。

これがブレない理由であり、かつこれが作った殺人である大事な証拠だ。


:撮影をお願いします
多少離れた場所から、殺人と撮影者が同時に入るように、写真を

:はい!


Rが携帯していた端末で写真が撮られていく。この世界では時間軸とかも同時のものを指す。それに魔力反応とかも同時の反応が再現されている。


:殺人犯の写真も
変身魔法が使われたという証拠があればいいので、同じ場所から犯人だけを

:わかりました


さて・・・一体犯人が誰なのかについてはいずれわかるだろう。次行くか。


:あなたのお父さんが無実である証拠も撮りましょう。自宅への案内をお願いします


親父を解放できる嬉しさで涙を流すRを連れ、道を歩いた。

そして辿り着いたRの自宅で、そこそこ酔っていたRの親父と当時の時間を記した時計を撮影した。





それから数日後。

Rの親父は無罪であることが証明され、無事に解放された。

それと共に、ガイ・メーラーとRの親父になりすまして殺人をした犯人は逮捕された。

ガイ・メーラーは殺人風景のビデオをコレクトするという狂った奴で、今回の撮影もそれが目的だった。彼の押収物から、今回のを含めた殺人の瞬間のビデオのコピーが大量に出てきたそうだ。

犯人がRの親父になりすました理由は、実行犯も課長クラスのやつだったのだが、横領や着服をする最低なやつで正義感の強いRの親父はやめるように強く何度も言っていたらしい。それで邪魔だったから、刑務所にぶち込もうと考えたんだそうだ。

これで冤罪は晴れた。Rの父親は、今新たな仕事を探しているらしい。魔力がないため管理局には入れないが、その正義感はどこにでも役立っていけるというのがR談。

ちなみに報酬は貰ってない。というか、貰うつもりはない。
元々理不尽を潰すために立ち上げたこの『大火星王の宴』だ。報酬目的ではない。

だがRもそれでは引き下がらず、なんとかお礼をしようとしてくる。

そこでRの親父・・・もう面倒なので本名を出すが、カルキ・リョウがデバイスマイスターの資格を持っていて、デバイスを開発することができるそうで、その技術を伝授してもらうことにした。つーかカルキさん、デバイスマイスターの資格あるなら、それで管理局員として働いていれば良かったじゃないか。なぜにジョブチェンジしたし。

まあ、そんなこんなで、俺は週に2、3回リョウ家を訪ねてデバイスマイスターとしての勉強をしている。

ガーディアンは防御と援護魔法以外何もできないからな。攻撃ができるデバイスを、デバイスマイスターとしての技術を手にしたら造ろうと思う。コピーをしたらなのは達から強力なデバイスが手に入るけど、オリジナルって憧れるじゃん?

そういうことで、俺は学校とリョウ家、2つの場所で勉強に勤しんでいる。なかなかに退屈しない。

いいね、こういう生活!



あ、ちなみにRとはリョウ家のこと、Rの本名はコール・リョウだ。

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