e8.転生者、神崎拓也
―side・拓也―
俺の名前が知りたい?
そうだな。一目惚れしたのに名前も知らないというのはつらいだろうな。教えてあげよう。
俺の名は神崎拓也。転生者だ。
生前の俺については・・・いや、やめておこう。そんな過去よりも、今や未来のことの方がいいだろ?
まあでも、俺の活躍を知りたいと言うのであれば教えようか。
生前の俺は、はっきり言って容姿が地味なオタクだった。
有名な作品はほとんど知ってる。だけど地味だったから、相手にされることはなかった。
けれどあの時、あの真っ白な世界に来た時、俺の運命は変わった。
「申し訳ありませんっ!!」
そう言って土下座をする、中年男性。
この空間で、見知らない人から謝られて、すぐに理解した。
転生フラグが来たと!
「わ、私のミスで、あなたを死なせてしまいました!なので責任を取って、転生させたく思いますっ!!」
さらに聞く話だと行きたい場所を選べる上に、俺に何でも1つの力と願いを3つ叶えてくれる!これは使わない手はない!!
「それと、生活に必要なだけの環境、物語に関わることになった場合に必要なだけの力とアイテムを差し上げます!」
「必要なだけの力ってどのくらいですか?」
「それは必要な分としか言えません。ちなみに容姿もランダムです」
チッ、足元見やがって!
だがまあ、特典があるからいいだろう。それなら・・・、
「なら、僕をリリカルなのはの世界に転生させてください!願いはSSS+の魔力と、金髪イケメンの容姿、それから・・・・・・ユニゾンデバイス!ユニゾンデバイスをください!あと力は・・・・・・」
これでも物語に関わる分には十分かもしれないが、念には念をだ。力は万能型がいい。
あらゆる作品があることだし、その中にチートな能力があるのも確か。だが・・・
「魔法やレアスキル、相手の能力を、相手より上回る性能にコピーする能力!これをつけてください!」
俺はあえて、そういう原作チートではなくオリジナルチートにした。
相手を上回るコピー・・・これがあれば、俺は無敵だ!
「は、はいっ!あ、ユニゾンデバイスの容姿はどうしますか?」
「勿論、リインやアギトみたいなかわいい感じで!」
俺はロリコンではないが、やはりこれが安定的だろう。
「はい!では転生させます!能力やデバイス等については転生ど同時に送らせていただきます!あ、それと同じ世界に他の転生者がいる場合もございますのでご了承ください・・・」
俺だけじゃないのか・・・。
まあいい。もしこれから俺のハーレムを邪魔する愚か者がいれば、潰してしまえばいい。
「では、転生します!!」
「え?あ、うわああああああっ!?」
落ちることぐらい言え〜!!
そんな感じで、俺はリリカルなのはの世界に降り立った。
赤ん坊からのスタートで黒歴史を見たが、ハーレムのためと我慢した。
そして5歳になり、魔法の練習を始めた。
能力の検証をした。俺の思った通り強力な能力だということが確認できた。
ユニゾンデバイスも優秀だ。ちなみに、名前は『フィオ』と名付けた。
原作が始まる前にひとりぼっちだったなのはと触れ合って好感度を上げておいた。今やもう満タンを過ぎてオーバーになってることだろう。
そして原作開始直前に、転生者に気づいた。
そいつは、無印時代にフェイトが暮らすマンションに済んで、フェイトを待ち構えていた。フェイトがその転生者に毒されないようにするため、その転生者のやつの存在を消しといた。予想通りチートの能力だったため、コピーを発揮させて瞬殺だった。
そして原作が始まった。
立場的になのは側についた俺は、なのはがフェイトにジュエルシードを奪われるのを全部阻止した。フェイトには少し申し訳ないが、おかげでなのはの好感度は鰻登りだったろう。
海のイベントは俺も見たかったためスルーしたが、それ以外のジュエルシードは全部俺が回収したため確定だろう。
プレシアは原作以上に狂っていて、余計に嫌いになった。俺やなのは達が時の庭園に突入した時には、自ら虚数空間に飛び込んだのかどこにもいなかった。
フェイトがかわいそうだったから、慰めておいた。ニコポ・ナデポは持ってないが、これから撫でていけばフェイトも虜になるだろう。
まあ、最終話はそのままだったため結果オーライだ。
次に半年後のA’s。そのうちぶつかり合うために半年も我慢していたシグナム達と初対面した。
シグナムは原作で見た通りおっぱいがでかかった。シャマルも意外といい感じだ、ヴィータも、ロリがいい。
原作通りに何度もぶつかっていき、クリスマスイブ。闇の書が覚醒した。
予想以上に闇の書の意志・後のリインフォースは強かった。
そしてみんなで協力して防衛プログラムも破壊して、運命の別れ道。やはりリインフォースは、自らを破壊する道を選んだ。
しかし、奇跡が起きた。
夜天の書のプログラムが、改悪前に戻っていたのだ。
いったい何が起きたのかわからない。リインフォースが旅立つ場所に着くとリインフォースは倒れてて、そこにはやてもやってきて、リインフォースが起き上がった時にはすでにプログラムが治っていたのだ。
本当に奇跡だ。他の転生者が来たとも考えたが、それなら今まで現れないはずがない。だから、奇跡だ。
リインフォースは夜天の書を抱いて、助かったこと、元に戻った喜びで嬉し涙を流していた。そこに俺は優しい言葉をかけてやった。これで、リインフォースも落ちるだろう。
それから後は管理局で力を発揮し、エリート街道まっしぐら。ただ、エリートの階段を登りすぎて忙しくなったせいでなのは達が寂しい思いをさせてしまったかと、なのはの負傷を阻止できなかったことは誤算だった。
学校もちゃんと行っているし、アリサやすずかを始めとした学校の女の子達にも平等に優しく接した。おかげて俺は一番の人気者。
しかしみんなに均等に接していったせいか、なのは達が嫉妬してしまったようだ。やれやれ、ハーレムも大変だな。二次創作の主人公達の苦労がよくわかった。
だがそんな学校生活の中で、変なやつがやってきた。
小5の時だ。1人の男が復学してきた。
名前は忌束キリヲ。制服の上にコートを着て、右手にだけ革手袋をはめ、左手には包帯を巻いた、無口な奴だった。
キリヲは空いた席――特に変哲もない席だった――に座った。コートも手袋も着用しっぱなしで、ずっと無言だった。そのせいでクラスの雰囲気も悪くなっていた。
ホームルームが終わってから、俺が先陣切って挨拶した。コートはコート掛けに掛けておくように注意もした。
だけど奴は俺を無視した。
微動だにせず、ただどこでもないどこかを見ているような感じのままだった。もう一度、今度は声を少し大きくして言った。また奴は無視しやがった。
A’s編ぶりに苛立った。ここまで無視されると誰か思うか?思わないだろう!
だがだからと言って復学初日のやつに怒る訳にもいかず、とりあえず肩を揺すってみた。
揺すっていた手を払われた。
キリヲはチラッとこっちを見た後すぐに視線を戻し、ポケットからメモ帳とペンを取り出して何かを書き始めた。
さすがに無視するなと怒るのもよかったが、クラスメイトだったすずかを怖がらせたくなかったため、俺は視界からキリヲを外した。
その間に何があったのか。
ちょっと視線を彼に戻すと、すずかが笑顔でキリヲとメモ帳に何か書きあっていた。自己紹介とか好きな食べ物とか趣味とか。筆談というらしい。
なんだ、障害者か。そう思った瞬間に、俺の怒りもいくらか冷めた。
だが、“いくらか”であって全部冷めた訳ではない。だいたい、耳が聞こえないなら周囲を気にするはずだ。
それに、俺のすずかと仲良くしているのも気に入らない。すずかが優しい性格なのは勿論把握してるが、あいつは絶対に鼻の下を伸ばしている。それが気に食わん。
そして思いついた。
俺を無視し続けた奴(キリヲ)に痛い目に遭わせられる手段を。
普通にやっても、聞こえないから無意味だ。だが、その性質を利用する!
俺はキリヲについて定着するより前に、学校での部下達を使ってキリヲの情報を流した。
忌束キリヲはどんな人の言葉も無視する不良だと。
作戦は成功した。奴が常にコートを着ているのも助力して、その情報はすぐに行き渡った。ついでに流した呼び名――サイレンスも広まった。
そしたら予想以上に最高だった。サイレンスを見たらすぐに遠巻きにし、後ろから声をかける、メモ帳やペンを壊すといった行動に走る奴も出た程だ。先生達も一部サイレンスの呼び名を使う程だった。俺には策士の才能もあるようだ。
だがサイレンスもタフだった。どんなことされても気に止めず、仮に奴の命とも言えるメモ帳やペンを壊されても、すぐに替えのものが湧いて出た。
さらに奴は、すずかの何かしらの弱みを持っているらしい。すずかとの筆談もやめなかった。すずかはサイレンスに、俺だけにしか向けないはずの笑顔を向けていた。いや、向けるのを強要させられた。
すずかに、奴に無理しなくていいと何度か言ったが、すずかはサイレンスとの筆談が楽しいんだと言う。
ありえない・・・俺のすずかがあんな障害者との音のない会話で笑顔になるなんて、絶対に。
いや、心配しすぎてるようだ。そう、あんな障害者にすずかが虜になることはありえない。必ず俺のところに帰ってくる。信じて待つ、というのも大事だろう。
そうやって、今度はサイレンスを無視するようにした。そうしたらサイレンスを気にすることもなくなり、仲間達もそれを読み取ってか、サイレンスに対する無視で定着していった。
そして、中学。
俺は原作キャラでははやて、すずかと一緒のクラスになった。
他の原作キャラ3人はサイレンスと一緒のクラスだった。いつ、どんな手でなのは達に毒するのかわからない。そのクラスにいた部下にサイレンスの監視を命じた。
まあそれよりも、少女達に挨拶だな。まずはクラスメイトから行くか。
「やあはやて。同じクラスだね。今年もよろしく!」
「あー・・・そやね。それじゃ・・・」
そう返して、はやてはすぐに立ち去っていった。照れてるようだ。かわいいなぁ。
「すずかも、同じクラスだよね。嬉しいよ」
「う、うん・・・」
すずかも俺を避けるように立ち去った。最初にはやてに話しかけたから、拗ねたのかな?確かに任務ではやてと一緒にいることもある分、すずかとはあまり接してないかな。ちょっと調整しよう。
次は、なのは達がいるクラスだ。
「やあなのは。クラスが違っても、俺達はずっと一緒だよ」
「えーと・・・ごめん、ちょっと用事あるから・・・」
俺の言葉が嬉しかったのか・・・照れ隠しで立ち去ってしまったようだ・・・ん、視線・・・?
・・・ああ、アリサか。自分より先になのはが話しかけられて嫉妬したのかな?
「ああ、アリサ。どうしたんだい?せっかくの綺麗な顔が台無しだよ?」
「・・・別に」
「そんなこと言わずにさ。悩みがあるなら相談に乗るよ」
「しつこいっ!!ほら、行くわよフェイトッ!」
「わわっ、アリサッ・・・」
あー、随分拗ねちゃってるね・・・さすがはツンデレのアリサ。それはそれでかわいいなぁ。
さて、と・・・
「さっきの大声でも、相変わらずの無口無表情だな。さすがサイレンス」
アリサの右斜め後ろに座り、呑気にラノベを読んでいるサイレンス。
どうやら目の前にいるのにも関わらず、シカトを強行するようだ・・・仕方のないやつだ。これだから障害者は。
俺はサイレンスが読んでいるラノベを取り上げる。サイレンスが読んでいたのは、『キ○の旅』だった。
俺にラノベを取り上げられてようやく、サイレンスはゆっくりと顔を上げた。
ふん、話を聞かないのが悪いんだ。
そう思ってると、サイレンスは突然俺の肩を掴んできた。
俺もすぐに身構えたけど、それより速くサイレンスは俺を乗り越え・・・・・・俺を強く踏み、その力で教室の出入り口前まで跳躍、着地後すぐに廊下に出て走っていった。
あの野郎っ・・・俺を踏み台にしやがったな・・・!
最近はなのは、フェイト、アリサの弱みも掴んだらしいし、少し灸を据えないとなっ・・・!
覚えてろよ・・・必ずお前を潰して、なのは達を救出してみせるっ!!
―side・out―
―soundonly―
:違うクラスでよかったと思ってたけど、やっぱ来たよアイツ・・・
:教室に入っていきなり声をかけて、あの台詞はないよね
:甘いでアリサちゃん、なのはちゃん
うちとすずかちゃんなんてクラスも一緒やもん
:加えてはやてちゃんの場合は、お仕事でも一緒なんだよね?
:そーなんよー
「はやては後衛型なんだから、前衛はこの俺に任せてくれ」って
シグナム達をなめとんのかとイラッときたわー
:まあ、拓也は力は本物だから・・・
最近、色々地位も上がってきてるし・・・
:校内でも調子に乗り始めたし・・・
そろそろ、ガツンと言っといた方がいいかしらね
:逆にアリサちゃんが色々危なくなる気がしてならないの
:私もなのはに同感
:自分で言ってて、それが自爆特攻だって自分でもわかったわ・・・でも、どうにかしないといけないのは事実じゃない?
:それは言えとるなぁ
何かいい案ないかな?うちら、無駄に拓也君のことよう知っとるけど・・・
:それ、拓也君の前で言ったら危険だからね?
:「俺のこと、そんなに知ってくれているんだね。嬉しいなぁ。俺のことを本当に好きでいてくれてるんだね☆」
:・・・どう思う?
:ごめんすずかちゃん。リアルに言ってきそうで怖かった
:私も・・・
:あたしも・・・
:一旦紙を捨てて、気持ち切り替えよか
ビリビリ
:さて、別の話題にしよか。できればあまり想像できないもんがええなぁ
:想像できないったらキリヲじゃない?
アイツのこと、すずか以外はサッパリだし
:すずかって、キリヲのことどのくらい知ってるの?というか、すずかってなんでキリヲに詳しいの?
:5年生と6年生の時一緒のクラスだったからね。互いに好きなものとか趣味とか、好きな本とか色々話し合っていたよ。あの時は拓也君達からキリヲ君を庇いながらの生活だったから大変だったな・・・
:うわ、始まった。すずかちゃんの惚気話
:惚気てないよ!?
:どうだかなぁ
:ところで、キリヲ君って5年生から復学したんだよね?最初の頃はどうだったの?
:ああ、それあたしも聞きたかった。やっぱ筆談でも言葉遣いとか変わったりしたの?
:うん。昔と比べると随分変わったよ
最初の頃は、ホントに周りに壁を作り気味で、言葉も固かったり荒かったりで、いじめもすぐに始まったから字ももっと荒んで・・・落ち着いた感じになったのは、今年の始めぐらいからかな
:ほとんど最近やん
:キリヲ君がいじめられる直前の文字はまだましで、だからかな。キリヲ君の心を表す文字を、もっと綺麗なものにしてあげたいなって思って
あと、純粋に筆談にハマっちゃって
:確かにいいよね。この筆談
:そうだね。紙とペンがあれば図書館でも気軽にできるし
:何より書く音だけやから、無駄に地獄耳な拓也君でもわからんなぁ
:だね。結構本音も言えるし
:ブームにできへんかな?
:それはやめた方がいいんじゃないかな?
ブームって、冷めたら飽きてやらなくなるし、酷い場合には時代遅れだっていじめになることもありえるよ
:あー、わかる気がする
流行語とかって、入賞した次の年には全然使わなくなっちゃうよね
:うん、なのはの言ってることと同じだよ
だからブームに乗せるんじゃなくって、あくまで会話の手段としてわかっておく。それがいいんじゃないかな
:オッケ
そういえばさ、キリヲの声って出せたとしたらどんな感じなんだろ?
:考えたことなかったなぁ。そやな・・・これこそイケメン男子の声優のような声やないか?
:あー、わかりそうな気がする。媚びすぎない美形だから、声もいい感じっぽそうだよね
:でもいつもコートに右手だけの手袋はめてるし、ちょっとドスの効いた低い声音もありかも
:あー、すずかの意見もわかるわー
:えっと、台詞の再現試してみるわ
「チッ・・・なめんなよクズ共っ・・・」
・・・どう思う?
:結構いい感じじゃないかな?
でもキリヲが普段書いてる口調には似合わないかも
:あー、そっかー・・・
:わからないものを想像するって楽しいね〜
:うん
「・・・おっ、こんなところにいたのか。何の話だい?」
:やば!拓也君来た!
:はやてちゃん!書いてる場合じゃないよ!
:すずかもでしょ!ってそう書いてるあたしもね!
「隠す必要はないじゃないか。それとも、話題の本人が来たから恥ずかしいのかい?」
「そんな訳ないでしょ!」
「だったら見せてくれよ〜」
「こっち来んなぁぁ!!」
「プライバシーを勝手に覗こうとするのは、どう考えてもないと思うの」
「それ、私も同感するよ・・・」
―sound・out―
―おまけ―
ちなみに・・・
「ぐはぁっ!」
「ぐべぅっ!!」
「ひ、ひぃぃっ!」
バタバタ・・・
「え、あ、あの・・・その・・・ありがとうございます・・・」
「・・・・・・・・・」
キリヲは昼休みに、理不尽矯正をしていた。
ちなみに救出したのは、1年の男子生徒だった。
―おまけ・end―