琥珀は半べそかきながら自分の持ってきたコンテナを開く。
中には漆黒に輝くプロテクトスーツ一式と組み立てれば琥珀の身長以上の大きさにもなるだろう円錐形のランスが入っていた。
琥珀は一式の中の仮面を顔に被せる。
すると仮面は首周りと顔の側面へと展開していき、彼女の長髪だけが剥き出しになる状態になる。
そして続いてスーツに手を掛け、手早く着替えていく。
「終わったか?」
翡翠は着替え終わったのを確認する為に後ろを振り向く。
「…私が返答してから振り向いてよ」
運良く琥珀は着替え終わっていたが彼女は少し照れた様に口調が不機嫌になる。
女にそのプロテクトスーツは体にピッチリと張り付く様になっているので、ある意味では反則だと翡翠も感じていた。
ボーっとしている翡翠に琥珀は急に満面の笑みを浮かべたようで、声を弾ませる。
「那美の面影を感じちゃった?」
翡翠は『那美』という名前に反応して表情が変わる。
今になって彼女の名前を聞く羽目になるとは思っていなかったのだ。
今は仮面を被っていて顔をは見えないが、琥珀と那美の顔は同一である。
しかし全てが同じだという訳ではなく、体格と目の色に違いがあるのだが…。
翡翠は琥珀の首元より少し下を目をやり、壮大に溜め息を付く。
「…今、乙女に大変失礼な事を考えたよね?」
「いや、一番末っ子である筈の紫苑にさえ負けてるんだなって」
「まさかの追い討ち!?!?」
『…こほん』
突然、翡翠と琥珀の頭の中に紫苑の声が響き渡る。
「起きてたのか、紫苑。」
『はい、他の姉様達が…夫婦漫才はやめてさっさと帰ってこい!!!…って拗ねちゃってますよ。それに相手の方にも動きがあります』
紫苑は翡翠と琥珀の頭の中に再度、映像を直接送り込んだ。
そこでは数台の例のDAもどきが倉庫の中から出てきていた。
『どっかの町か村を襲いに行くんですかね?』
「森の中での戦闘は避けたいな…急ぐぞ、琥珀」
『あっ…あと、琥珀大姉さま。最後に一つだけ』
「どうしたの?」
『女の価値は胸の大きさだけじゃありませんから安心してください。それでは…』
紫苑はそれだけ言い残すと翡翠達から接続を解除した。
当の琥珀はその場に呆然と立ち尽くしてしまう。
翡翠と琥珀の間には気まずい空気が流れる。
「ねぇ、翡翠」
「ど…どうした?」
「強者が欲しい」
「…は?」
「古今東西、雑兵の機体の色は緑よね…」
「まぁ、奴らの機体の色は緑だけど…。っかどこ情報だ、それ…」
「指揮官は赤…」
「…もしも〜し」
琥珀はブツブツと「赤、赤…」と呟きながらコンテナからランスを取り出す。
「赤、赤…赤はどこだぁぁぁぁ!!!」
次の瞬間、琥珀の髪の色が黒から琥珀色に変わり、仮面の目の部分も禍々しく琥珀色に輝く。
そして琥珀色の生命エネルギーを壮大に振り撒きながら、秒速100メートルという驚異的なスピードで相手の根城の方向へ飛んで行ってしまった。