「力を得たが為の衰退か…」
彼らの保有していた力は明らかに突出していた。
今の先進国の中でさえ、あれだけの戦力を持った軍など滅多にお目にかかれないだろう。
しかし、だからといってそれらが彼らを強くしたかと言うとそれは間違いだ。
もし彼らが自分達の力に過信し過ぎなければ、冷静な判断によって撤退などの選択肢も上がり、全滅などといった結果にはならなかった。
国の極度な繁栄によってその国の衰退が始まる例は歴史的観点から見ても良くある事である。
「…やはり私には人間という生き物が良く分かりません」
紫苑は辺りを自分の生命エネルギーで調査しながらポツリと呟いた。
「何故、人間は過去の教訓を蔑ろにしてまでして力を欲するのでしょうか?」
「…安心しろ、俺にも分からない」
「翡翠様にも…ですか?」
紫苑は目を驚いたような声を上げる。
実際この様な形で活動をしている以上、翡翠に自分の考えがあるのかと思っていたようだ。
「…1年前、俺が人間社会で暮らしていた時の事を話したよな?」
「はい、覚えています」
翡翠は中学生へとなる年齢になった年に研究所から一般中学への進学を言い渡され、日本が中国から本州明け渡し勧告を受けた時期、翡翠が高校1年の時の2学期までは一般市民として生活をしていた。
あの頃は彼自身、人間になろうと努力してみたのを覚えている。
しかし、結局のところ途中で自分自身の存在を再認識させられる形で断念したのだ。
「その時、とある知り合いに言われた事があった」
翡翠は遠くに浮かぶ入道雲を見つめている。
頭の中で誰かを思い出している様だ。
「…戦争の無い世界が果たして本当に平和な世界なのか…ってな」
「夏樹といい、翡翠様には曲の強い知り合いが多いのですね」
「…否定はしないでおく」
紫苑特有の容赦ない一言には翡翠自身ももう慣れてしまった。
翡翠は苦笑いを浮かべながら話を続ける。
「それを踏まえた上で分かった事が1つだけある」
「…それは?」
「人間ってのは争い事無くして生きていく事は出来ないって事だ」
“生きる事こそが戦いだ”等と良く聞くが、その言葉こそ翡翠の考えを裏付けている。
人間は無意識のうちに争い事を見つけ出そうとする性質があるのだ。
学校という施設で、「成績」という形で生徒達に優劣をつけるし、強い立場の者が弱い立場の者を罵る光景も翡翠は良く目にしていた。
そして社会人にもなるとそれらは一層激化し、個人個人によって収入の差、個人の能力による仕事の有無なども出始める。
所謂、格差社会だ。
それらを忌み嫌い、共産党と言うものも出てきたが実際の中国では全然機能しておらず富裕層との間には途轍もない壁が出来てしまったのも人々の内なる闘争本能故ではないのか。
「…やっぱり戦争のある平和な世の中の方が私にはしっくりくる世界の在り方だと思います」
紫苑は建物の中に入っていくと一言だけ付け足した。
「所詮、私達は兵器ですから…」