小説『みん』
作者:喰原望()

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「僕って頭いいー」
「いや、おかしいの間違いちゃうか?」
 さっきからべらべらと無駄口を叩き続けている中村さん。全く、これだから思慮深さに欠ける人間は。少しはなっきーのことを見習えばいいのにと、心底思う。
 よしそれでは、まずは手頃なボランティア活動から始めるとしようか。そうして、心優しき高校生、中村幸之助として名があがれば、マスコミに取材をされ、話題の人として彼女と同じ番組に出られるかもしれない。僕の心優しき純潔なる魂に、彼女は惚れてしまうだろう。
 全国のファンからの嫉妬はものすごいだろうけれど、愛の力でそれぐらいは越えてみせる。
「おい、ほんまに大丈夫か? なんか遠い眼してるけど」
「大丈夫だよ、中村さんは自分の嫁入りのことだけを心配するべきだ」
 優しさゆえに彼女の将来を心配する気持ちもアピールしつつ、やんわりと心配しないように伝える。流石の中村さんと言えども、今の一言だけで僕の優しさは十分に理解してくれただろう。
 中村さんは得心いかないような顔をして、去っていった。僕にばかり気を遣われるのがしゃくなのだろう。
 まあ、中村さんのことなんて放っておこう。今大切なのは何度も言うようになっきーだ。
「僕たちの戦いはこれからだ!」
 打ち切り漫画の捨て台詞、もといステキ台詞を吐いて颯爽と歩き出す。僕を迎えるのは試練かそれとも楽園か。先は見えないけれど、彼女の為に僕は歩き続けるのだ。

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