小説『始まりはいつも唐突で』
作者:孤狐()

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「リトー、お風呂空いたよー」

「わかったから、せめて服を着ろ。タオルぐらい巻け」

「えー!夫婦になるんなら、当たり前じゃないの?」

「承認してない。あと、俺は恥じらいを持っている子が好みだ」

「みーかーーん!!タオルどこーーーーー!!!」

嘘も方便。
特に好みなんて持ってないけど、言っておけばいいだろ。
ララが恥じらいを持つのは、ずいぶん先になりそうだ。

「すまなかったな、ちょっと騒がしくて」

『いえ、そんなことはありません。ララ様がお楽しそうで、私は大変嬉しいです』

「そう言ってくれると助かる」

『とんでもない!地球に来られる前は、いつもつまらなそうにしておられたララ様が…』

電話の向こうですすり泣く声が聞こえる。
涙もろいのは相変わらずか。

「泣くなって。それで…あー…あのバカは?」

『それなんですが…』

「どうした?歯切れが悪いな」

『言いにくいのですけど…』

「ああ」

『……来ます』

「…どこに?」

『地球です』

「………」

あいつは…。
まぁ、直接会って言いたいこともある。
ララ達のことや部下のこと、仕事のこともあるし、他にも……。
この前の電話で言い足りなかったことを、思いつく限り言ってやる。

『あの…』

「ああ、悪い。バカのことで考えてた」

『その…私たちはどうすれば?』

「そうだな……しばらくは船で待機していてくれ」

バカが来るなら、一応でもいてくれた方が少しは気が楽になりそうだ。
宇宙人関係の問題も起こるかもしれないし、いや、絶対起こる。
俺の勘が確信している。

『わかりました。なにかありましたらご連絡下さい』

「頼りにしてるぞ」

『はっ!』

切れた電話を戻す。
…よし。
がんばれよ、未来の俺。
今の俺は現実から逃げだしたい。

「お兄ちゃん、誰との電話だったの?」

アイスを銜えた美柑が、ひょっこりと現れた。
電話が終わるのを待ってたのか。

「ララの父親の部下。情報交換だ」

「ふーん。あ、お兄ちゃん」

「なんだ?」

「あの、ね……その…」

アイスを両手で持って、恥ずかしげに視線を彷徨わせる美柑。
…アイスが溶けるぞ。

「お兄ちゃん!」

「おう」

意を決した、真剣な視線が向けられる。
…アイス、垂れてきてる。

「いいいっしょに、お、お風呂に、入ろう…?」

さっきよりも顔を真っ赤して、だんだんと窄みながらも視線は外さない。
昨日は乗り込もうとしてたのにな。
…熱でアイスが危ない。

「そうだな、入ろうか」

「ほ、本当?」

「本当。だから、アイスを助けてやれ」

「え?…ああ!?」

「あーあ、ここに付いてるぞ」

美柑の腕まで垂れていたアイスを舐めとる。
うん、夏にはやっぱり冷たい物が一番。
俺も風呂上がりに食べよう。

「おおおおお兄ちゃん!?」

「風呂行くんだろ?先に入ってる」

更に赤くなりすぎて、湯気が出そうだ。
倒れないだろうな。

-11-
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