「んむぅ……?」
「あっ、起きちゃった」
朝、何かが動く気配で目が覚めた。
まぁ、大体の予想はついている。
寝起きの頭でもすぐに答が出てくるぐらいには。
「で?」
「ん?」
「朝っぱらから寝込みを襲いに来たのか?」
「うん!!」
朝日が眩しい太陽と同じくらいの笑顔。
元気なのはいいことだ。
「ララ、今何時だ?」
「えーと……四時だよ」
……おやすみなさい。
「寝たらダメ!」
いやだ。
布団を頭まで被って断固拒否。
やめろ揺らすな、頭を働かしたら眠気が去ってしまうだろうが。
「リートー!」
「うる、さい」
布団に引きずり込んで拘束、この前は美柑にもやったなぁ。
このお姫様、力が強いからこれ以上は布団が破れてしまいそうだし。
「ララ」
「な、なに?」
「お休みなさい」
「おやすみ?」
良くできました、と頭をなでる。
照れくさそうに赤くなるララに眠気が後押しされた。
もうさ、今ぐらい二度寝する程度の贅沢は味わってもいいんじゃないかな。
俺の勘が、これから先は面倒になると断言しているんだよ。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「…はい」
現在、ララとベッドの上で正座。
起こしに来た美柑に、とりあえず座ってと言われたから。
朝から恐ろしいものを見てしまった。
「どうしてララさんが一緒に寝てるの?」
「それは…」
「リトが引きずり込んん!?」
ややこしくなる前にララの口を塞ぐが、美柑からの視線が痛い。
誤魔化し失敗か。
元からできるとは思ってなかったけど。
「へー。そうだったんだ……」
「美柑?」
「大丈夫、だよ。私は…怒って、なんか……っ!」
言葉とは裏腹に、今にも髪の毛が天を衝きそう。
「ほら、深呼吸だ。一旦落ち着こう」
「…そうだよね」
深呼吸を繰り返すたびに、目に見えて落ち着いていく。
噴火は回避できたようだ。
「ふぅ…」
「落ち着いたか?」
「うん。それで、なんでお兄ちゃんとララさんが一緒に寝てたの?」
「ララの……夜這い?」
「お日様が昇ってたから、朝這いかな?」
「どっちでもいいよ!…つまりは、ララさんが原因なんだ」
ビシッとララを指さす美柑。
人に指を向けてはいけません、なんて軽くツッコミを入れられそうにない。
俺が入った方が、経験上色々と疲れることになる可能性が高い。
というわけで、朝から疲れないうちに退避。
「夫婦なんだから……!!」
「それなら兄妹の方が……!!」
廊下に出ても聞こえてくる喧騒を無視して朝の支度。
今日の朝ご飯は何にしようか。
魚があるから、日本人らしく焼き魚かな。
「お兄ちゃん!!」
「リト!!」
「あーあー。何も聞こえない」
耳を手で塞ぎながらキッチンへ。
そんなことしても意味がないのは分かっているが、やることに意味があるんだと思う。
「そんな子どもみたいなことしてないで、ララさんに言ってよ」
「リトは私と寝たいよね?」
「あ〜〜。ほら、今はそんなことしてる時間は無い」
思っているより時間が過ぎるのが速い。
今日は日直当番だったはずだから、早く学校へ行かなければ。
「う〜…」
「むくれるなって。帰ったら聞いてやるから」
「……わかった」
よしよしと美柑の頭を撫でる。
照れた笑顔を浮かべながらも、すぐに準備しに部屋へ向かっていった。
……ララ、そんなに物欲しそうな顔しても時間がない。
「………」
「ララも着替えて準備しろよ?」
「じーーー」
口で言っちゃってるよ、このお姫様。
「………」
「じーーー」
「ララ?」
「…じー」
だんだんと涙目に。
流石に不憫というか、罪悪感が…。
「わかったわかった」
おいでおいでと手招きをすると、喜色満面で飛びかかって来た。
「よーしよし」
「えへへ〜〜〜」
ついつい構い倒してしまい、ララが恍惚としたところで終了。
復活したララはすぐに飛び立っていった。
なんか用事があるんらしい。
「で、だ」
ララが来るまでは二人だった、いつもと同じ朝食。
それなのに、ちょっとだけいつもと違っていた。
「どうしたの?」
「いや、珍しいなぁ…と」
最近までは向かい合って食べていたはずなのに、今は隣同士。
俺が定位置に座ったら、なぜか美柑も隣に座ってきた。
「そんな日もあるよ」
「そうなのか?」
「そうなんだよ」
「そうなのか」
丸め込まれてしまった。
「ねぇお兄ちゃん、昨日みたいに食べさせて?」
「はいはい。ほら、あーん」
「あーん」
摘んだ焼き魚を、口をあけて待っている美柑にあげる。
自分でも食べてみるが、なかなかの焼き加減で美味しい。
この調子で料理の腕を取り戻していこう。
「次は何がいい?」
「ご飯が食べたい」
「あーん」
「あむ」
「……ところで美柑」
「うん?」
「…いや。次は何がいい?」
時間のほうが迫ってきているとは、とてもじゃないが言えなかった。
ひとり分を食べさせるだけならギリギリ間に合いそうだし、美柑が可愛いから仕方ない。
もし危なくなったら美柑を抱えて走れば大丈夫だろう。
切り札は切り札でも、ジョーカーだからあまり頼りたくないけど。
「お兄ちゃんにもやってあげるよ。何から食べる?」
「米」
「あーん」
あっさりと切り札を出してしまったが、後悔なんてものは無い。
食べ終わったら、また走って行かないと……。