小説『始まりはいつも唐突で』
作者:孤狐()

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「ただいま」

「おっかえりー!」

玄関のドアを開けた途端、飼い主にじゃれつく犬。
いや、ララの事なんだが。
なんか…犬っぽい。

「どう思う?美柑」

「おかえり、お兄ちゃん……なんでララさんに犬耳付けてるの?」

「似合うと思って」

ポケットから取り出した犬耳を付けてみた。
この尻尾ってどうやって付けるんだろ?

「確かに似合ってるね」

「えへへ〜」

「良かったなララ。ほら、お手」

「ワン」

「おかわり」

「ワン!」

「……おぉ」

改めてララの純粋さを思い知った。
ここまで素直にやるとは……撫でてあげよう。

「よしよし、良くできました」

「クゥ〜ン」

「食後のデザートを追加しよう」

「ワン!」

「先に行って、夕飯の準備をしてきてくれるか?」

「!」

たたたー、とボールを追いかける犬みたいに走り去って行くララ。
あ、犬耳取ってない。

「いいなぁ…」

「美柑?」

「…ちょっと羨ましい」

犬耳を付けられて、犬の真似事をやらされるのが?
美柑も難しい年頃になってきたってことか。

「なら、美柑にはこれをプレゼント」

制服のポケットから取り出した物を、美柑の頭に装着。

「これって……」

「そう──猫耳だ」

黒い猫耳。
宇宙規模で研究を重ね、ついに完成した逸品。
手触りはもちろん、感情によって動く。ついでに言うと、ララの犬耳も。
尻尾はどっちも付け方が分からない。

「お兄ちゃんって、猫好きだよね」

「犬か猫、どっちかっていうとな」

好きと大好きの差。
動物なら全般で好きだが、個人的に猫が一番。

「猫ってどんなことするの?」

「招き猫みたいなポーズがメジャーじゃないか?」

軽く握った手を顔の横に持ってきて、にゃー。

「にゃ、にゃー」

「おぉ。かわいいぞ」

「にゃ〜あ」

ついつい撫で回してしまうほどに。

「ごろごろー」

「にゃあ〜」

本当の猫なら喉が鳴っていそうな美柑。
ごろごろごろごろ〜。

「っと。そろそろご飯作るか」

「にゃ〜〜……」

「正気に戻ったか?」

「……………にゃ」

やってしまったと見てわかる顔をしたまま固まった美柑。

「にゃー」

猫の真似をする美柑の真似をしてみる。

「にゃ〜〜〜〜〜〜!!」

はやー。
赤くなって部屋に駆け込む美柑を見送り、手に持った尻尾を見つめる。
これも動くらしいけど、ホントにどうやって付けるんだろ?
付けた奴は一人しか知らないし、今度聞いてみるか。

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