「おはよう」
「おはよー、リト」
「あ、おにいちゃん。おはよー!」
「おはよう、リトくん。今日は早いんだ」
「雪が降るかもね」
「きっと槍が降ってくるよ」
「二人とも、気持ちはわかるけど言っちゃダメだよ」
「…言ってくれるな。そんなに珍しいか?」
「そりゃあ、ね?」
「去年はおにいちゃんいつもギリギリだったよ」
「うん。私も覚えてる中では数回しかなかった」
「………ヘルメット用意しておこう」
自分でも珍しく思うが、今朝は走らずに登校できた。
今日から通うララを職員室まで送り、近くにいた校長との話し合いでは、快くララを迎え入れてくれた。
鼻息荒くララに近づいたときは、つい口よりも先に手が出てしまったが。
「そんなことより。リト、ホントに今度の休み空いてるの?」
「あぁ、大丈夫だって」
「そう言って、だいたい急用が出来るんだよねぇ」
過去に裏付けられた言葉は耳に痛い。
実際に、急用が入って帰った事が何回もあるわけで。
「むぅ〜。じゃあバイトはいつ来てくれるの?」
「んー。来週はどうだ?」
「来週、ってシフト入ってない!?…うぅ、誰か代わってくれるかな?」
「ムリに入れなくても、一緒に客で行けばいいだろ」
「一緒……その方が牽制になるよね」
「どうした?」
「おにいちゃん!一緒に行こうね!!」
「あ、あぁ」
落ち込んで俯いたと思ったら、勢いよく詰め寄ってくる。
ミオらしい感情に素直な行動は、時々わからない。
「ね、ねぇ、三人とも。何の話をしてるの?」
置いてけぼりになっていた春菜が、妙に暗いオーラを出しながら参加してきた。
「何の話って、休みに出かけようか」
「デートの約束をしてたんだよ」
「デートの約束を……じゃないな。リサ、デートではない」
「なんで?男女が一緒に出かけるのはデートでしょ」
「そう…なのか?」
「世間一般ではデートになるね。だから私ともデートだよ!」
「なるほど。…春菜、デートの約束をしてたんだ」
「そんな!?」
バックに雷が落ちてそうなほどショックを受けた様子の春菜。
なんでだ?デートなんて初めてじゃないだろ。
「おーい、春菜?…完全に固まってる」
「よっぽどショックだったんだよ」
「言葉が違うだけで、結構出かけてるよな?」
「それに気付かないのが春菜だよね」
「…おにいちゃんも気付いてなかったのは、私もショックだけど」
「…私も落ち込んできた」
リサミオも沈みだした。
周りに助けを求めても、男子からは殺意の視線が俺へと、女子からは羨望の視線が三人へ。
差し違えても…、爆発しろよ!、いいなぁデート、じゃあ私もデート?、など好き勝手に言っている。
とても当てには出来そうにない。
……仕方ないか。
「ほら、戻ってこい。じゃないと、この写真を…」
懐から取り出したるは、なんの変哲もないただの手帳。
そこに挟まっている三枚の写真。
あれだ、若気の至りという名の恥ずかしい思い出。
「わーーー!リトくん待って!!」
「戻った!戻ったから!!」
「だからそれだけは勘弁してよ!」
「冗談だ。他の人に見せる訳がないだろ」
俺も写っているから見せられる訳がない、が正しい。
大げさなくらいほっとしてる三人に、少し悪いことをしたかと思えてくる。
罪悪感を払うため、つい美柑にするように頭をなでなで。
「ほら、席に着きなさい。ホームルーム始めます」
いろいろやっている間に、お爺ちゃん先生が来ていた。
三人娘は、早足で席に戻って行く。
「えーー。突然ですが、転校生を紹介します」
全員が席に着いたのを確認すると、先生はそう切り出した。
「入ってきなさい、君」
「ハーイ!!」
手前のドアから、明るい返事とともに入ってくるのは…。
「やっほー、リトーー!!同じクラスだね!」
予想道理のララ。
Vサインをしながら、満足げに笑っている。
ひらひらと手を振り返すと、教室内の視線が痛かった。