「で?」
「な、何でしょうか結城さん」
「いや、なぜ敬語なんだ弄光」
バッターボックスに立ち、ピッチャーである弄光を見る。
いかにも緊張してますって顔で冷や汗を流してるな。
「なんでこんな勝負をしたんだ?」
「それは、その…勢いといいますか、つい…」
「勢いやついで彼女になって貰うのか?」
「いえ、そんなことは…」
ララも面倒な事をしてくれたものだ。
なんでも、遊び心で野球部の練習に入り、弄光の投げたボールを(ララ本人にとっては)軽く打ったら彼女になれと言われが、それを即答で断ったら一球勝負しろだとか。
でも、これ以上目立つのはまずいとペケが止めた所、偶々通りかかった俺に代打を任命。
「とりあえず、さっさと投げろ。まだ仕事があるんだ」
「はい!」
表情が堅いまま振りかぶって、全力の投球。
いつも軽い奴だが、野球は本気でやっているらしい。
なかなかの速さの球だが、
「よっと」
全力ではないが、それでも場外に飛んでいく白球。
弾道にいた弄光をはね飛ばしたような気がしたが、勝負は終わったんだから気にしない。
「さっすがリトーー!」
飛びついてきたララを受け止める。
この大きなお子様は、何処にいても騒ぎを起こすらしい。
後ろで春菜が苦笑してるぞ。
「ララ、あんまり羽目を外し過ぎるなよ」
ふにゃっとした頬を左右に引っ張って言い聞かす。
引っ張られながらも嬉しそうなララには効果が期待できそうにないか。
「全部回ったか?」
「ふぁふぁふぁふぉ」
まだだよ。
たぶんそう言ったんだろう。
面白い顔になってきたところで手を離す。
「春菜、また頼むな」
「うん。部活見終わったら帰るけど、リトくんは?」
「俺はまだ掛かりそうだ。悪いな、誘って貰ったのに。じゃあ」
「いってらっしゃーい!」
「がんばってね」
「おう」
走ってさっさと作業に戻ろう。
気分転換の散歩だったんだが、時間が掛かってしまった。