「ただいまー」
「おっかえりーー!」
玄関の扉を開けた瞬間、ピンク色が突進してきた。
避けるわけにもいかなく真正面から受け止めると、嬉しそうににやけている顔が。
腰にまで回ったララの手が外れそうになく、抱きつかせたままリビングへ。
キッチンでは、エプロン姿の美柑がすでに夕食の準備をしていた。
鼻歌を機嫌良さそうに歌いながらテキパキと作っている姿は、若すぎるが主婦のような慣れを感じる姿だな。
「あっ、お兄ちゃんお帰りー。もうすぐ出来るから着替えてきてね」
「おう。ただいま」
「美柑、今日の晩ご飯は?」
「トンカツとしじみのみそ汁だよ。ララさんもお兄ちゃんに抱きついてないで手伝って」
「はーい!」
素直に手伝いに行くララ。
身長や年齢は逆なのに親子みたいな二人が微笑ましい。
「ん〜〜〜!おいしーー!」
「ふふ。そう言ってくれると作った甲斐があるよ。ね?お兄ちゃん」
「ああ、今日もおいしいよ」
「…それだけ?」
がっかりしたと目で語りながら聞き返してくるが、生憎と何を言って欲しいのかわからない。
隣に座っているララを見ても、おいしそうに食べていて会話すら聞いてないご様子。
「どのようにお答えすれば?」
「毎日このみそ汁を僕のために作ってくれ。…とか?」
「…それ、あのドラマの台詞だろ」
その台詞を彼女に言った後、主人公は包丁を持った義妹に襲われてた。
女友達にも知られたら襲われていたし。
「一回だけでいいから…ね?」
「……毎日このみそ汁を俺のために作ってくれ」
妹にフリとはいえプロポーズする兄。
……フリなら問題ない、よな。
「ねぇ、リト」
「ん?」
「さっきのって、どういう意味?」
地球の、日本独特の言い回しは宇宙のお姫様にわからないらしい。
教科書に載っているようなことじゃないから仕方ない。
「ララさん、あれは所謂プロポーズなんだよ」
「へぇ〜…リトー」
「断る」
「ぶー。まだ何も言ってないのに」
言わなくてもわかることもあるんだよ。
「…いいもーん。その代わり、一緒にお風呂に入って貰うから!」
「ダメー!!」
美柑がテーブルを叩いて立ち上がる。
被害が無いように食器を退かしておこう。
「お兄ちゃんとお風呂に入っていいのは家族の私だけ!」
「家族になるんだからいいの!」
「それなら私が入る!」
「美柑はこの前入ってたからダメ!」
あれ、ララ知ってたんだ。
食後のお茶で一息つきながら、観客気分で傍観。
当事者を置いてきぼりで盛り上がってるし。
「「うーーー!!」」
睨み合いになった両者。
今にもキャットファイトになりそうな雰囲気にまで。
そろそろ止めるか。
「二人とも、あんまり長引くなら先に入ってくるからな」
「ら、ララさん!」
「わ、わかってるよ美柑!」
いざとなったら、たとえ敵でも協力する潔さ。
いや、原動力が欲望なら潔くはないのか。
「あと、風呂が狭いから、三人ってのは無しだ」
「うっ!」
「…考えてたのか」
美柑らしい妥協案だが、あの風呂では入れない。
「しつもーん!」
「ん?」
「お風呂が狭いから、三人で入れないんだよね?」
「ああ」
「なら、三人で入れる広さがあればいいの?」
「……ああ」
「へぇ…」
かかったな、と言わんばかりにララが似合わない黒い笑みを浮かべた。
「ちょっと待ってて」
パタパタと二階へ上がっていった。
…早まったかもしれない。