小説『始まりはいつも唐突で』
作者:孤狐()

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「いってきまーす!」

「いってきます」

「いってらっしゃーい!」

久しぶりの誰かに見送られながら出発。
やっぱり返事が返ってくるってのは良いな。

「じゃあ美柑、また放課後に」

「わかってるよ。じゃあね」

美柑と別れて、一人寂しく登校。別に友達が少ないわけじゃないんだ。
誤魔化しに飴を食べるけど、少し早歩きになってしまうのは仕方ないよな。
気を紛らわそうと、今日の献立を考えながら歩みを進める。
昨日の通りに、美柑の好きなのでいくべきか。

「お?」

「あっ」

「おはよう」

「おはよう、リトくん」

春菜がこんな時間にいるなんて珍しい。
いつもの時間だと教室にいるはずなのに。

「どうしたんだ?」

「うん、ちょっと…」

言いにくいことなのか、目を合わせようとしない。

「…昨日、犬の散歩でリトくんの家の近くに行ったの」

「ああ」

「それでね、その、黒い服を着た男の人たちが入っていくのが見えたから、大丈夫かなって…」

目撃されてんじゃねえよ。大雑把すぎだ部下AB。
報告内容にまた一つ追加だな。

「心配ご無用。あいつらは、まぁ知り合いみたいなもんだ」

「リトーーーー!!!」

「こいつの」

空から降ってきたお姫様、ララを指さしながら言う。
家に帰ったら、一般常識を教えなければ。

「……どちら様?」

「私? 私はララ・サタリン・デビルーク。ララでいいよ!」

「私は…西連寺春菜です」

「じゃあ春菜って呼ぶね!」

春菜が尻尾や飛んでたことに触れないで助かった。
誤魔化す気は欠片も無いけど、説明はどうしたらいいか分からん。

「…あの、ララさんとリトくんの関係って?」

「私とリト?」

「うん」

俺とララの関係……家主と居候?

「リトはね、婚約者だよ!!」

「こん、やくしゃ?」

「そう!!」

自信満々に胸を張るララ。その自信はどこから来るのやら。
大事なところが抜けているし。

「ララの自称だ」

「むーー。いいもーん! すぐになるんだから!」

「なーんだ」

ほっと胸をなで下ろす春菜。
昨日の美柑と似たようなリアクションだな。

「で、ララはどうしてここに?」

「そうだった!お弁当を届けようと…」

「そのお弁当は?」

「え?……置いてきちゃった」

目に見えて落ち込むララ。
行動力はあるんだが、相変わらず行動が空回りするやつだ。

「ありがとな。その気持ちは嬉しい」

「でもっ!」

「一日くらい昼飯抜いたって大丈夫だ」

「……せっかく役に立てると思ったのに」

「次に期待してるよ。っと、そろそろほんとに時間が危ない」

腕時計を見てみると、走ればまだ間に合う時間。
俺だけなら別にいいけど、優等生の春菜まで遅刻させるのはよろしくない。

「本当!?急がなきゃ!」

「ララ、お弁当は好きにしていいからな。残すのも勿体ない」

言うだけ言って、春菜の手を取って走り出す。

「リ、リトくん!?」

「言い分は、無事に着いたら聞いてやる」

逃避行する二人のように走り出す。
結果としては、ギリギリだったが間に合ってよかった。

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