小説『始まりはいつも唐突で』
作者:孤狐()

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「お兄ちゃん!」

「おー美柑」

放課後、校門の前で美柑が待っていた。
小学生が高校に一人で来るとは、度胸のある妹だ。
変態に見つかったら危ないぞ。この学校には変態が多いんだから、筆頭は校長。

「変な人に声をかけられなかったか?」

「んー……無駄に歯を光らせる人と、抱きつこうとした太った人に…」

弄光と校長だな。
小学生相手になにしてんだよ。

「よく無事だったな、そんな二人に絡まれて」

「お兄ちゃんの妹ですって言ったら、走って逃げ出したよ」

校長はわかるが、弄光は全く心当たりがないんだが……まぁいいや。

「そうか。それじゃあ行こうか」

「うん!」

手をつないで歩き出す。
嬉しそうな美柑を見ると、家族のふれあいの少なさを痛感した。
家にあんまりいない両親の分まで頑張ろう。




と、思い立ってみたものの……。

「なぁ、美柑さんや」

「ん?お兄ちゃんどうしたの?」

「あー…いや、その服も似合ってるぞ」

「ありがと!ほかにもねぇ…」

ただいま美柑の服を買いに来たんだが、終わる気配がしない。
服の感想も、六回目にもなると誉める言葉が月並みになってきた。
それでも喜んでくれる美柑に癒される。

「んー。これもいいけど、こっちも…」

「決まらないのか?」

「うん…これかな。でもこっちの方が…」

服を前に、腕を組んで考え込む美柑。
……よし。

「迷ってるのはそれで全部か。なら大丈夫だな」

「え?ちょっと、お兄ちゃん!?」

「ほら、さっさと行くぞ」

服をレジまで持って行く。
我が儘を言わない美柑のことだ、一着に決まるまで悩むだろう。
それか、買わないまま終わりかもしれない。

「ありがとうございました」

店員に見送られて店を出る。
予想より荷物が増えたが、まだ許容範囲。

「さて、次はどこ行くか…」

「お兄ちゃん」

「どうした?行きたい場所でもあるのか?」

「ううん。……よかったの?記念日でもないのにあんなに買っちゃって」

戸惑いながら申し訳なさそうに聞いてくる。
美柑はもっと欲を出してもいいと思うんだが。

「日頃の感謝だと思って受け取ってくれ」

「でも…」

「まぁまぁ。ほら、次はあれでも食べよう」

たい焼き屋を指さして無理矢理な話題変換。

「…ありがと」

「おう」

妹が兄に気をつかってんじゃねぇよ。

-9-
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