小説『[完結]180秒のサイレンス【掌編集】』
作者:九路間 二四()

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第二話 「妄想サヨナラホームラン」



 ブラスバンドが奏でる応援歌が、球場に充満する熱気に吸い込まれる。
 地区大会準決勝、九回の裏、一死、ランナー二塁。
 スコアは四対五、我が校は敗戦ムード濃厚な訳だ。

 バッターボックスには、極度の緊張状態で顔を引きつらせている正史がいる訳だ。
 正史はきっと凡打を打つ訳だ。
 そして諦めの溜息が充満する中、この俺に打順が回る訳だ。
 俺は、起死回生の逆転サヨナラホームランを放つ訳だ。
 そして派手なガッツポーズを繰り出して、ゆっくりとダイヤモンドを一周する訳だ。
 ホームベースを踏んだ途端に、マネージャーの美保ちゃんが俺の胸に飛び込んでくる訳だ。
 そこで俺はこう言う訳だ。
 ――これは、君に捧げるホームランだよ。
 そう、これで完璧な訳だ。

「あっ! 危ない!」
 そんな妄想に耽っていた俺に、正志が打ち上げたファウルボールが直撃した訳だ。

 気が付くと、医務室で横になっていた訳だ。
 そばには心配そうな表情の美保ちゃんが付き添っていた訳だ。
「――良かった。気が付いたんだね……」
 美保ちゃんが大きな瞳を潤ませながら、胸を撫で下ろしている訳だ。
「し、試合はどうなったの?」
 俺は尋ねた訳だ。
「勝ったよ。正志くんが逆転サヨナラホームランを打ったの……」
 俺はあんぐりと口を開ける訳だ。
「――実はね、正志くんが試合前に約束してくれたの。『お前の為に試合を決めるホームランを打つ』って……」
 美保ちゃんは、はにかんだ笑顔で、「正志くんったら、『お前の彼氏は絶対に約束を守るから』って、手を握ってくれたの」と言う訳だ。

 俺は思った訳だ。
 ――試合に勝って、勝負に負けたな、と。
 そして、苦笑する訳だ。

 ――俺の夏は終わったけど、俺達の夏はまだ終わらないんだな、と。




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