小説『[完結]180秒のサイレンス【掌編集】』
作者:九路間 二四()

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第五話 「闘う男」



三分間――。
私が地球上で戦うことを許された、唯一の時間だ。

そう、たったの百八十秒で、凶悪な宇宙怪獣を殲滅し、決めポーズを披露して飛び去らなくてはならない。
地球を守る――難儀な職業だ。
それゆえ、時給はそれなりにいいのだが……なんせ一日の内、三分間しか就業時間が設けられていないため、月末の給料袋は、切ないほどに薄っぺらい、雀の涙ほどに。
それなのに――地球防衛軍の奴らときたら、やれ重要文化財を壊しただ、やれ避難経路を塞いでしまっただと難癖をつけ、保証金と称してなけなしの金を巻き上げていくのだ。
一体、誰があんたたちの家族を守っているのだ! そう叫び出したい衝動に駆られる日々だ。

……転職しよう。そう思い立ったことは必然と言える。
さっそく私は、さまざまな業種の企業に履歴書を郵送してみた。
しかし、どの会社も「不況」とかいう地球独特の苦悩を内包しているらしく、ことごとくいい返事を貰えない。
私の背丈が、地球人の何倍もの大きさであることもネックとなっていたらしい。
半ば自暴自棄になった私は、明石山脈のふもとにちょこんと腰かけ、人生について考えた。
その時、不意に着信音が鳴った。
……出動命令だった。栃木県某所に宇宙怪獣が出現したらしい。
「やってられるか! 地球人どもでなんとかしろ!」
気が付くと、司令官に向かってそう叫んでいた。この仕事を始めてから、最初で最後の上司への反抗であった。
勢いよく携帯電話を切った私は、その場にごろんと寝転んだ。

「この前、助けた少年は元気かな……? また、あの少年みたいに危険な目に遭う地球人がいるんだな……」
おもむろに起き上がった私は、「えい、クソ!」と吐き捨てながら、栃木方面へと飛び立った。
仮にこのまま宇宙怪獣を倒しても、今回の報酬は「業務命令違反」とかなんとか託けて、捲き上げられるだろう。
――それでもかまわない。今、できることをしよう、と強く思った。
「これじゃあ、まるで――」
私は苦笑する。「ヒーローみたいじゃないか……」



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