小説『ハイスクールD×D〜闇皇の蝙蝠〜(第二部)』
作者:サドマヨ()

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「……祐斗は苦労して発現したってのに、一度見ただけで創りやがったのか……!」

龍殺し(ドラゴンスレイヤー)を初めて受けた新

龍殺し(ドラゴンスレイヤー)は例外無く全てのドラゴン属性に絶大な効果を発揮する

意識が吹き飛びそうになる激痛を痩せ我慢で耐え、首を掴んだ左手の力を強める

「……油断大敵って四字熟語、知ってるか?両手両足が使えねぇなら――――頭を使うまでだァァァァァァァァァァァァァァッ!」

「……ッ!?き、貴様――――」

ドズッ!

最大級の頭突き、新は額から隆起する角を『ネメシスの眼』に突き立てた

刺した箇所から徐々に血が滴り落ちる

真っ当な生物の血ではなく、紫色の血が……

角を引き抜くと『初代キング』の全身が震えていき、口からも紫色の血が流れる

「ガ……ッ、アガァァ……ッ!バカな……バカなァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

『初代キング』の口から黒い霧が吐き出され、骨のみで構成された肉体は崩壊した

全ての肉体が崩壊すると『ネメシスの眼』は地上に落ち、血管をばたつかせて這い回ろうとする

しかし、直ぐに生命力が尽き果て……二度小さく跳ねた直後に細かな粒子となって消滅した

本体の消滅を感知した分身達も怨念めいた絶叫を上げながら消え、新の全身を突き刺していた剣の群れは儚く散る

金属片が音を奏で、新は溜め息と同時に血の塊を吐き捨てた

「……終わった、のか。……いや、まだみてぇだな……!」

安堵しかけた新が上空を見る

そこには先程吐き出された黒い霧がドラゴンの頭部を形作っていた

『残念だったな……ッ!余の実態は「闇」その物!あらゆる生物の邪念なのだッ!たかが一撃で滅びる程、我が「闇」は軟弱なモノではないッ!またあの女に憑依して、再び肉体を作る!依り代となる物がある限り――――余は決して滅びの道を辿らぬわッ!グハハハハハハハッ!』

そう……『初代キング』バジュラ・バロムの正体は怒り、悲しみ、妬み、恨みなどの邪念が集結した存在

負の感情とは絶対に無くならない

小さな負が新たな負を生み出し、更に大きな負を生み出す

この世の生物全てから無限に沸き出てきた「闇」を消す事は――――不可能、出来る筈が無い……普通ならばそうだ

「俺は終わらせる……!テメェの悲しみも、憎しみも!全部終わらせるッ!」

『無駄な足掻きを!どうやって「闇」その物である余を滅ぼすと言うのだ!』

「……滅ぼすなんて考えちゃいねぇよ……ッ。今の俺には封印技術なんてまどろっこしい物も無いしな……。出来るとしたら――――喰らう事だけだ」

喰らうと発した新は全身に魔力を注ぎ込み、闇を放出し始めた

闇は空間を塗り潰しながらもう1つの「闇」――――『初代キング』の周りを囲んでいく

意図を察した『初代キング』は驚愕の声音を上げた

『貴様ッ!まさか「闇」を喰らう気か!?全ての怨念が集まった――――この「闇」をッ!?』

「あぁ、そうだ。それしかねぇよなぁ……。俺の『極限捕食者(オーバー・グリード)』で――――テメェの全てを喰らってやる……!」

『……狂っているのか!?余には生物全ての怨念が込められている!それを喰らえば貴様の肉体など「闇」に塗り潰されるのだぞ!?喰らったモノは全て貴様に行き交う!貴様と言う人格が消滅するかもしれぬぞ!?』

「俺は……今まで何度もそんな境遇を味わってきたんだ。曹操とか、リュオーガ族とかよ……。あの時はマジで死ぬかもって思った。けど、俺は生きてる……ッ。だから――――今度も生き残ってやる!いや、生き残らなきゃならねぇんだッ!『極限捕食者(オーバー・グリード)』ォォォォォォォォォォォォォォッ!」

『初代キング』を囲う新の闇が手の如く広がり、不気味な音を響かせて飲み込もうとする

『初代キング』は逃れようとしたものの、決死の覚悟を決めた新の闇に追い付かれ――――飲み込まれていく

『き、貴様ごときに我が「闇」が……!我が「闇」が喰われるなど……ッ!貴様は己を失う覚悟で余を取り込むつもりか……ッ!?下手を打てば「闇」に人格を支配されかねんと言うのに……!貴様はッ、貴様の欲望はいったい―――――』

「ワリィな……今、答えを考えてる暇はねぇんだ……!仲間との約束を、守らなきゃならねぇからよぉ……ッ!」

『ぐ、お・の・れェェェェ……ッ!』

新の放出した闇が『初代キング』――――もう1つの「闇」を喰らい尽くした……

崩壊していく疑似空間の中、持てる力の限りを尽くした新は膝から崩れ落ち、地面に手を付いて血を吐く

龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の影響で気力と体力が著しく低下し、追い討ちをかける様に『極限捕食者(オーバー・グリード)』を使って『初代キング』を飲み込めば至極当然の結果になる

しかも、『初代キング』――――「闇」は喰られたにも拘(かか)わらず、新の全身を乗っ取ろうと左腕から黒く染め上げていく

「……チッ。やっぱ完全に意識を絶てる訳じゃなかったか……」

龍殺し(ドラゴンスレイヤー)による激痛、『極限捕食者(オーバー・グリード)』使用による疲労を顧みず体を起こして未だ崩壊していないホテルに向かう

その時、ホテルの屋上から何かが飛び立つ光景が目に入る

それは旧魔王派のシャルバ・ベルゼブブで、一誠は屋上から両翼のキャノンを展開していた

「吹き飛べェェッ!クリムゾンブラスタァァァァァァァアアアアアアアアアッ!」

『Fang Blast Booster!!!!』

「フハハハハハハッ!どうせ貴殿もサマエルの毒で死ぬのだッ!赤龍帝ェェェッ!」

一誠のキャノンから放射された紅い砲撃が絶叫するシャルバを包み込み、旧魔王派トップは跡形も無く消し飛んでいった



――――――――



「よう、新。そっちも倒したみてぇだな」

「当たり前だ、一誠。つーか、さっき聞こえたけどよ……サマエルの毒をくらっちまったのか?」

「……まあ、な。今も体がバラバラになりそうだ。そういう新だって傷だらけじゃねぇか」

「ヘヘッ、こっちは龍殺し(ドラゴンスレイヤー)付き魔剣聖剣の串刺しフルコースをくらっちまってさ……。正直、意識が朦朧としてきた。オマケに『初代キング』を喰ったしっぺ返しに腕がドス黒くなってら……」

2人は互いの負傷度を言いながら縛られたオーフィスを解放し、オーフィスが一誠に問う

「赤龍帝、どうして我助けた?」

「お前、アーシアとイリナを助けてくれたじゃねぇか」

「あれ、あの者達への礼。赤龍帝が我助ける理由にならない」

「アーシアとイリナは俺達の大事な仲間だ。それを助けてくれたなら、俺もお前を助ける理由が出来ちまう。――――俺はお前が悪い奴には思えなくなってきたんだよ」

「……そうだな。本当に全勢力の敵なら、そんな事をする必要が無い。オーフィス、なんでシャルバや曹操達と手を組んだ?」

「グレートレッドを倒す協力をしてくれると約束してくれた。我、次元の狭間に戻り、静寂を得たい」

ただの口約束的な答えに新と一誠は呆気に取られてしまった

今まで非道な行為をしてきた連中がそんな口約束を律儀に守る訳が無い

「あいつらがお前との約束を果たす訳ねぇだろ。随分利用されたんじゃないのか?」

「グレートレッド倒せるなら、我はそれで良い。だから蛇を与えた。赤龍帝の家に行ったのは、我が望む夢を果たせる何か、あるかもしれないと思っただけ。普通ではない成長。そこに真龍、天龍の隠された何かがあると思った。我、何故存在するのか、その理由、あると思った」

「……そっか。ようやく分かったわ」

新と一誠はようやくオーフィスの正体を理解出来た

オーフィスはただ純粋なだけで、その純粋さを旧魔王派や英雄派が担ぎ上げて利用した

自分達の私利私欲の為に

『禍の団(カオス・ブリゲード)』の野望は世界を手中に収めたり、超常の存在との戦いを望んだりと様々

しかし、それはオーフィスにとってどうでも良い事だった

ただグレートレッドを倒して、元の世界に戻りたかっただけ

オーフィスは全勢力の敵じゃなく、『禍の団(カオス・ブリゲード)』と言う組織が作り出した――――仮初めの首領

単に強く、無限だっただけの純粋で何も知らないドラゴン

それを皆が恐れ、神聖化してしまい、テロリストのトップにされてしまった

「なあ、オーフィス。俺と、俺達と友達になるか?」

「……友達?それ、なると、何かお得?」

「せめて、話し相手にはなってやるよ」

「そう。それは楽しそう」

「……だとよ。あんたはどうする?『初代クイーン』」

新は『初代クイーン』に歩み寄り、手を引いて彼女の体を起こす

『初代キング』にされていた『初代クイーン』はようやく立ち上がり口を開いた

「新しい『闇皇の鎧』を持つ者よ。お主はどうしたい?今まで王になっていた私を」

「……あんたも利用されてただけ……なんだよな。だったらよ、これから俺達の所に来ないか?あんたが良ければ俺達は歓迎するぜ」

「……良いのか?」

「あぁ、ただ……名前、教えてくんねぇか?あんたの本当の名前を。元々は『クイーン』だったんだ。名前はあるんだろ?」

「……良かろう。私の本当の名は――――オリヴィアじゃ」

「オリヴィア、か……。良い名前だな」

新と一誠は立ち上がって歩き出した

仲間達のもとへ帰る為に――――

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