小説『ハイスクールD×D〜闇皇の蝙蝠〜(第二部)』
作者:サドマヨ()

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≪赤龍帝不在、闇皇戦闘不能≫


中級悪魔の昇格試験から2日程経過した昼頃

木場祐斗はグレモリー城のフロアの一角にいた

城内は非常に慌ただしく、使用人だけでなく私兵も慌ただしく動いていた

理由は現在冥界が危機に瀕しているからである

旧魔王派のシャルバ・ベルゼブブと闇人の神風による外法で生み出された『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の巨大モンスター軍団は冥界に出現後、各重要拠点及び都市部への進撃を開始

フロアに備え付けられている大型テレビではトップニュースとして、進撃中の巨大魔獣が映し出されていた

『ご覧ください!突如現れた超巨大モンスターは歩みを止めぬまま、一路都市部へと向かっております!』

飛行船やヘリコプターからレポーターがその様子を恐々と報道している

冥界に出現した巨大魔獣は全部で13体、そのどれもが150メートル程の大きさがあった

テレビにもそれら全ての様子が克明に報道され、チャンネル毎に各魔獣の様子が見られる状況にいる

疑似空間では姿が鮮明ではなかったが、冥界に現れてから姿が変わったらしい

人型の巨人タイプもいれば四足歩行の獣タイプもいる

人型は二足歩行であるものの、頭部が水棲生物になってる物や1つ眼、腕が4本生えている物もいる

一言で表すなら合成獣(キメラ)のようだ

四足歩行タイプも同様にあらゆる生物や魔獣のパーツで構成されていた

魔獣達はゆっくりと一歩ずつ進撃を続けている

このまま行けば今日明日にでも重要地点に到達するだろう

更に厄介なのは、魔獣達が進撃を続けながら小型モンスターを独自に生み出していた

各部位が盛り上がり、そこから小型モンスターが誕生していく

大きさは人間サイズだが、一度に数十から百体程生み出されるので数が多い

魔獣達が通り掛かった森、山、自然は無惨に破壊され、そこに住む生き物も食らい尽くされていく

悪鬼のごとき魔獣達が通ったあとは何も残らない

同じ創造系の神器(セイクリッド・ギア)を持つ祐斗は『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の生み出した異形に畏怖するばかりだった

神に匹敵すると称される異能、世界を滅ぼせる能力を現在進行形で見せつけられている

その中でも群を抜いて巨大なのが、魔王領にある首都リリスに向かっている人型――――神風がブラック・ウィドーズを取り込ませた規格外の魔獣だった

一際巨大なその魔獣を冥界政府は『超獣鬼(ジャバウォック)』、その他12体の魔獣は『豪獣鬼(バンダースナッチ)』と呼称していた

これらはアザゼルがルイス・キャロルの創作物にちなんで付けた名である

テレビの向こうで『豪獣鬼(バンダースナッチ)』を相手に冥界の戦士達が迎撃を開始していた

正面、側面、背面からほぼ同時攻撃を撃ち込み、周囲一帯が強大な質量の魔力で覆い尽くされる

強力な攻撃を繰り出す迎撃チームは最上級悪魔とその眷属

普通の魔獣ならば間違いなく滅ぼされているのだが――――

『なんという事でしょうか!最上級悪魔チームの攻撃がまるで通じておりません!』

戦慄しているレポーターの声が聞こえる

魔獣は最上級悪魔チームが放った攻撃を全く意に介さなかった

体の表面にしかダメージを与えられず、致命的な傷を加える事が出来ない

迎撃に出ている最上級悪魔チームはどれもがレーティングゲームの上位チーム

それでも効果のある迎撃が出来ず、小型モンスターを壊滅させるので精一杯だった

各魔獣の迎撃には堕天使が派遣した部隊、天界が送り込んだ『御使い(ブレイブ・セイント)』、ヴァルハラの戦乙女(ヴァルキリー)部隊、ギリシャから戦士の大隊が駆けつけ、なんとか最悪の状況は脱している

しかし、問題は山積みしていた……

1つは『豪獣鬼(バンダースナッチ)』よりも強大な『超獣鬼(ジャバウォック)』

昨夜、レーティングゲーム王者――――ディハウザー・ベリアル率いる眷属チームが迎撃に出た

『超獣鬼(ジャバウォック)』にダメージを与える事は出来たものの、歩みを一時しか止められなかった

『超獣鬼(ジャバウォック)』はダメージを速効で再生、治癒してしまい、何事も無かったかの如く進撃を再開させた

その事実は衝撃的なニュースとして冥界中を駆け回り、民衆の不安を煽る結果となってしまった

『あの王者とその眷属が出撃すれば強大な魔獣も倒れるだろう』

そう信じ切っていた分、覆されて生まれた不安が大きい

もう1つはこの混乱に乗じて各地で身を潜めていた旧魔王派が頻発させているクーデター及び闇人の乱入

恐らく魔獣群の進撃は旧魔王派の計画通りの事態であり、それに合わせて各都市部で暴れまわっている

闇人も恐らく神風が煽り、各地で暴れさせているのだろう

そちらの迎撃にも冥界の戦士達が派遣され、混戦の一途を辿っていた

更に、この混乱が切っ掛けで上級悪魔の眷属が主に反旗を翻したと言う報告も届く

無理矢理悪魔に転生させられた神器(セイクリッド・ギア)所有者がこれを機に、今までの怨恨をぶつけているのだろう

アザゼルが言うには各地で禁手(バランス・ブレイカー)のバーゲンセール状態、そこにも各勢力の援軍が向かっている

しかし、これ以上戦力を割く事は出来ない

魔獣によって都市部と重要拠点が失えば、敵対組織にとって美味しい侵略条件となってしまう

冥界は深刻な危機に直面していた

旧魔王派と闇人による巨大魔獣の進撃――――これを裏で促したのは冥府の神ハーデス、主な実行者は神風

疑似空間では英雄派がハーデス、神風、旧魔王派に一杯食わされたのだが、テロリスト故に計画外だったこの状況でも何をしでかすか分からない

魔獣の迎撃に神仏や魔王が赴く事が出来ないのも、聖槍を持つ曹操が何処で狙っているか予想出来ないからだ

現状で神仏や魔王が一名でも滅ぼされたら、今後の各勢力情勢に何が起こるか……

様々な事柄を司る神仏と魔王は各世界にとって重要な存在である

黒幕と言うべきハーデスも大人しくしているとは限らない

幸いなのは各地域の民衆の避難が最優先で行われており、大きな死傷者は出ていない

悪魔がこれ以上の打撃を受ければ種の存続が危ぶまれる

シャルバ・ベルゼブブの怨恨と神風の黒後家蜘蛛が融合した魔獣の力は計り知れない

「『超獣鬼(ジャバウォック)』と『豪獣鬼(バンダースナッチ)』の迎撃に魔王さま方の眷属が遂に出撃されるようだ」

突然の声に祐斗が顔を向けると、そこにはライザー・フェニックスがいた

「兄貴の付き添いでな、ついでにリアスとレイヴェル顔でも見に来たんだが。やっぱり状況が状況だからな。……察するぜ、木場祐斗」

眉を潜め、深刻な表情をするライザー

新の再起不能、一誠の死は届いていたようだ

グレモリー眷属はこの一件の発端となった事件で赤龍帝の一誠を失い、闇皇の新は再起不能に陥った

新と一誠はシャルバ・ベルゼブブに拉致されたオーフィス、『初代キング』に偽者として狙われた『初代クイーン』オリヴィアを奪還する為に疑似空間に残った

元の世界に戻った祐斗達は龍門(ドラゴン・ゲート)を開いて2人を呼び寄せようとしたのだが……帰ってきたのは一誠の『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』――――『兵士(ポーン)』の駒7つと、ドス黒く変色して変わり果てた姿の新とオリヴィアのみだった

龍門(ドラゴン・ゲート)から一誠の駒と共にサマエルのオーラが微量ながら感知されたので、シャルバとの戦闘中にサマエルの呪いを受けたと考えられ、そのせいで一誠は帰還出来なかった

ハーデスが裏でシャルバと取り引きした事も予測し、魔力に不得手な一誠がサマエルの呪いをくらえば助かる見込みはまず無いとアザゼルからもハッキリと告げられた

駒だけが召喚に応じる現象は過去にもあったらしく、その場合も確実に本人は生きていないと聞かされた

駒だけでも主のもとに帰すと言う強い意志を持つ眷属がその現象を起こすが、その際に帰還した駒は機能停止して二度と使用出来なくなる

宿主が死ねば赤龍帝――――ドライグは自動で次の所有者に宿るので、天界に赤龍帝の魂がどうなったのか調査してもらった

グリゴリの神滅具(ロンギヌス)観測機関も現在進行形で調査を進めているが……どちらも詳しい情報が全く現れなかった

そして同行していたであろうオーフィスも行方知らず

そのまま次元の狭間に留まっている、又はサマエルの呪いで滅びてしまったのか……そちらの調査も継続中だった

しかし、祐斗達はオーフィスがシャルバの手によってハーデスのもとに行った可能性は無い……一誠がシャルバを仕損じる筈が無いと確信していた

祐斗だけでなく、誰もがそれを信じ切っている

信じ切っているのだが……どれだけ調べても一誠の死を拭い去るモノが出てこない

尚、一誠の死は一部の者にしか伝えられておらず、祐斗達も簡単に受け入れられなかった

更なる追い討ち、新は龍門(ドラゴン・ゲート)の召喚に応じたにも拘わらず、「闇」に全身を犯され――――再起不能とも言える状態となっていた

今は別室で『初代クイーン』オリヴィアが新に最善の治療を施している

『……闇皇がこうなってしまったのは私の責任じゃ。せめて、出来る限りの償いをさせて欲しい……頼む……ッ』

涙ながらにそう懇願してきたらしい

彼女にはまだ『初代キング』としての力は残っているものの、分離させられた時に力の大半が『邪』の部分へ流れてしまったので、今はそこそこの強さぐらいしかない

現在施している治療術も無意味に終わってしまう可能性が極端に高く、このまま再起不能になってしまうのも否めなかった

無論、新の現状も簡単に受け入れられる訳が無い……

「痛み入ります。――――部長に会う事は出来ましたか?」

何とか頭を切り替えた祐斗がライザーに問うが、ライザーは首を横に振った

「無理だったな。部屋のドアを開けてくれなかったぜ。呼んでも反応もなかった。……ま、会える状況でもないだろう。愛した男がああいう形になってしまったんだからな」

「……お茶、どうぞ」

テーブルにティーカップを置く小猫

いつもと変わらぬ表情の彼女はお茶を置くと、フロアの隅にある椅子に座った

「いいかね、レイヴェル。とにかく元気を出すのだよ?」

フロアに更に2名が姿を現す

1人は男性で、もう1人はレイヴェルだった

男性の方はフェニックス家の長兄にして次期当主のルヴァル・フェニックス

レーティングゲームでトップ10内に入った事もある人物で、近々最上級悪魔に昇格するとも噂されていた

「リアスさんの『騎士(ナイト)』か。このような状況だ。キミで良いだろう」

ルヴァル・フェニックスは祐斗に近付き、懐から小瓶を数個取り出して渡した

それはフェニックスの涙だった

「これをキミ達に渡すついでに妹とリアスさんの様子も見に来たのだよ。こんな非常時だ、涙も各迎撃部隊のもとに出回りこれしか用意出来なかった。有望な若手であるキミ達に大変申し訳なく思う。――――もうすぐ私は愚弟を連れて魔獣迎撃に出るつもりでね」

「……愚弟で悪かったな」

ルヴァル・フェニックスの言葉にライザーは口を尖らせる

不死身のフェニックスが迎撃に出るならば心強い戦力となるだろう

「リアスさんもリアスさんの『女王(クイーン)』も赤龍帝くんの死と闇皇くんの再起不能で酷く落ち込んでいる。こんな時に冷静であるべきは恐らくキミだろうね。情愛の深い眷属でありながら、仲間の死に耐える――――。見事だよ」

「ありがとうございます」

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