小説『ハイスクールD×D〜闇皇の蝙蝠〜(第二部)』
作者:サドマヨ()

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≪闇皇、光帝、蛇神皇≫


『ぼく、怖くない?』

『へいきだよ!だって、あんなモンスター、おっぱいドラゴンとこうもりこーていがきてたおしてくれるもん!』

祐斗がフロアに戻ってくると丁度テレビには首都の様子が映し出されていた

避難が続き、大勢の人々が冥界の兵隊によって安全な場所に導かれていく

レポーターの女性が1人の子供に尋ねると、子供は笑顔で答えた

満面の笑顔で答えた子供の手には『おっぱいドラゴン』と『蝙蝠皇帝』を模した人形が握られていた

『そうだよ!おっぱいドラゴンとこうもりこーていがたおしてくれるよ!』

『おっぱい!おっぱい!』

『はやくきて、おっぱいドラゴン!こうもりこーてい!』

不安な顔1つ見せない子供達

祐斗は画面に映る子供達の姿を見て口元を押さえ、必死に込み上げてくるものを堪えた

2人のヒーローを待ち望む子供達

心の底から新と一誠が助けてくれると信じ切っていた

「俺達が思っている以上に冥界の子供達は強い」

「――――っ。あなたは!」

「兵藤一誠と竜崎新はとてつもなく大きなものを冥界の子供達に宿したのだな。――――久しいな、木場祐斗。リアスに会いに来た」

祐斗の隣にいたのは赤龍帝と闇皇に真っ向から拳を打ち合った漢(おとこ)――――サイラオーグ・バアルだった



―――――――――



ソーナに呼ばれたと言うサイラオーグは祐斗を連れてリアスの部屋の前に到着し、「入るぞ、リアス」と言って堂々と部屋に入っていく

室内を進むとベッドの上で体育座りをしているリアスの姿があった

表情は朱乃以上に虚ろで、目元はずっと泣いていたかのように赤く腫れ上がっていた

サイラオーグは近付くなり、つまらなさそうに嘆息する

「情けない姿を見せてくれるものだな、リアス」

サイラオーグの態度を見たリアスは不機嫌な表情と口調で訊く

「……サイラオーグ。何をしに来たの……?」

「ソーナ・シトリーから連絡を貰ってな。安心しろ、プライベート回線だ。大王側にあの男達が現在どの様な状態か一切漏れてはいない」

大王側の政治家に新の再起不能と一誠の死が伝われば、如何なる手段で魔王の政権に非難を浴びせるか分かったものじゃない

2人は既に冥界にとって大きな存在となっており、サイラオーグはその点を弁えていた

いずれ知られてしまうのは時間の問題だが、それでもその厚意は嬉しい限り

サイラオーグはリアスに真っ正面から言い放つ

「――――行くぞ。冥界の危機だ。強力な眷属を率いるお前がこの局面に立たずにしてどうする?俺とお前は若手の最有力として後続の者に手本を見せねばならない。それに今まで俺達を見守ってくださった上層部の方々――――魔王さまの恩に報いるまたと無い機会ではないか」

サイラオーグは尤(もっと)もな意見を口にする

普段のリアスならそれを聞いたら奮起するが、彼女は顔を背けた

「……知らないわ」

「……自分の男が行方知れずと言うだけでここまで堕ちるか、リアス。お前はもっと良い女だった筈だ」

サイラオーグの一言を聞いたリアスは枕を投げつけて激昂する

「彼がいない世界なんてッ!イッセーがいない世界なんてもうどうでもいいのよッ!……私にとって彼は、あのヒトは……誰よりも大切なものだった。私の気持ちを理解してくれた新も……大切だった。あのヒト無しで生きるなんて私には……」

リアスは一誠と新を失った悲しみに再び涙を浮かべて表情を落ち込ませようとするが――――サイラオーグが大きく言い放った

「あの男が……赤龍帝の兵藤一誠が愛した女は、闇皇の竜崎新が認めた女は、この程度の女ではなかった筈だッ!あの男達はお前の想いに応える為、お前の夢に殉ずる覚悟で誰よりも勇ましく前に出ていく強者だったではないかッ!主のお前が、あの男が愛したお前が、その程度の度量と器量で何とする!?」

サイラオーグの一喝を聞いてリアスは驚き、サイラオーグは言葉を続ける

「立て、リアス。あの男達はどんな時でも立ち上がったぞ?前に出た。ただ、前に出た。この俺を真っ正面から殴り倒した男達を、お前は誰よりも知っている筈だッ!」

好敵手(ライバル)だからこそ分かるモノがある

サイラオーグはレーティングゲームの激戦の中、新と一誠の拳を通して誰よりも2人の生き様を認識したのだろう

「それにお前はあの男達が本当に死んだと思っているのか?」

サイラオーグの問いにリアスだけでなく、祐斗も一瞬言葉を失った

2人の反応を見たサイラオーグは苦笑する

「それこそ滑稽だ。あの男達が死ぬ筈が無い。1つ訊こう。お前はあの男達に抱かれたか?」

「……イッセーには抱いてもらえなかったわ。……新だけよ」

祐斗はリアスが新に抱かれた事実を聞いて目を丸くし、サイラオーグは――――

「ハハハハハハハッ!」

声を上げて笑った

一際笑った後、サイラオーグは強い眼差しを持って言う

「なら、やはりあの男達は死んでいない。お前を、愛した女を、そして周りであの好いていた女達がいるのに兵藤一誠が死ぬものか。奴は誰よりもお前を抱きたかった筈だ。お前を抱かずに死ぬ訳があるまい?竜崎新もそうだ。抱いた女達を放って死ぬなどあり得ん」

確固たる根拠の無い事だが、サイラオーグの言葉は他の何よりも説得力があるように感じた

「それが『おっぱいドラゴン』と『エロ蝙蝠』だろう?」

それだけ言うとサイラオーグは踵を返し――――

「俺は先に戦場で待つ。――――必ず来い、リアス。そしてグレモリー眷属!あの男達が守ろうとしている冥界の子供達を守らずして何が『おっぱいドラゴン』と『エロ蝙蝠』の仲間かッ!」

それだけ言い残して去っていった

ソーナが言ってた「打ってつけの相手」とはこういう意味だった

『……そうだ、イッセーくんが生きている可能性を、新くんが復活する可能性をもっともっと模索しても良いじゃないか。駒だけになったとしても復活を探す事をしても良いじゃないか!どうして、そんな簡単で分かりやすい事に僕は――――僕達は辿り着けなかったんだろう』

リアスの瞳に少しだけ光が戻り、祐斗の心中にも希望が戻ってきた

拳だけで戦い抜く男だからこそ分かるモノがある

それが確かに伝わった瞬間だった



――――――――――



城内にある人物が姿を現したと聞いた祐斗は直ぐにその場所に歩みを進めた

城内地下の表立たない一室にヴァーリチームがいた

疑似空間での一戦後、リーダーのヴァーリがサマエルの呪いで不調な事もあるからか、グレモリー当主はサーゼクスとアザゼルの進言でヴァーリチームを秘密裏に匿っていた

テロリストであるヴァーリチームを城に置くのは大問題だが、リアス達を助けた事を聞いて一時的な保護を決めた

英雄派に裏切り者として認定されたヴァーリチームは四面楚歌状態、身を潜めるのにも一苦労だ

ヴァーリが休んでいる部屋に入る祐斗

そこにはヴァーリチームのメンバーと小柄な老人がいた

しわくちゃの顔にサイバー要素を含むデザインのサングラスを掛け、煙管をくわえていたその人物は――――初代孫悟空だった

祐斗が会いたかったのは初代孫悟空で、地下室に来たのも訊きたい事があるからそうだ

初代孫悟空はヴァーリの体に手を当て、仙術の気を流している

白く発光する闘気に満ちた手を腹部→胸→首→口元の順に移していき、ヴァーリの口から黒い塊が吐き出された

初代孫悟空はそれを透明な容器に入れて蓋を閉め、その上から呪符を貼って封印を施した

吐き出されたのはヴァーリの体に巣食っていたサマエルの毒だろう

初代孫悟空が口元を笑ます

「身に潜んでおった主な呪いは仙術で取り出せたわい。これで体も楽になるだろうよぃ。全く、大馬鹿もんの美猴が珍しく連絡なぞ寄越したと思ったら、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』の面倒を見ろとはのぉ」

「うるせぃ、クソジジイ。――――で、ヴァーリは治るんかよ?」

「ま、こやつ自身が規格外の魔力の持ち主だからのぉ。儂が切っ掛けを与えりゃ充分だろうて」

「……礼を言う、初代殿。これで戦えそうだ」

ヴァーリが初代孫悟空に敬意を払って礼を口にする

どうやら今の治療で快復出来るようになったらしい

初代孫悟空が美猴の頭を叩きながら言う

「呪いが解けて直ぐに戦いの事を考えるなんぞ、全くどうして、どうしようも無い戦闘狂じゃい。――――さての、儂もそろそろ出掛けさせてもらうぜぃ。バカの顔も見られた事だしのぅ」

「ジジイ、どっか行くのか?」

「そりゃ、儂はこれでも天帝んところの先兵じゃからのぉ。ちょいと冥界にお遣いじゃわい。――――テロリストと闇人駆除ってやつよ。年寄り使いの荒い天帝じゃしのぉ」

初代孫悟空も今回の一件に力を貸してくれるらしく、とても心強い申し出だが……引っ掛かるモノもある

祐斗の心中をヴァーリが代弁した

「……初代殿、天帝は曹操と繋がっているのだろう?京都の一件――――妖怪と帝釈天側の会談を邪魔した曹操と言う図式は天帝の中ではどういう位置付けになっている?」

「さーての。儂はあくまで天帝の先兵兼自由なジジイじゃてな。あの坊主頭の武神が何処まで裏で企んでいるかなんて興味も無いわい。ただのぅ、天帝は暴れんと思うぜぃ?これから先の事は分からんがねぃ。どちらかと言うと、高みの見物だろうよぃ。ま、今回はハーデスがやり過ぎて、神風ってガキが煽ったんだろうぜぃ」

やはりハーデスが今回の一件を操作し、神風がそれを利用したと見て間違いないようだ

ヴァーリ達と初代孫悟空の話が一段落ついたトコロで祐斗は切り出す

「初代、おひとつお訊きしたい事があってここに来ました」

「なんだい、聖魔剣の。このジジイで良ければ答えられる範囲で答えてやるぜぃ?」

「今サマエルの呪いに触れたあなたに訊きたいのです。――――この呪いを受けたドラゴンが生き残るとしたら、どのような状況なのかを」

「肉体はまず助からねぇだろうねぃ。この呪いの濃度じゃ最初に肉体が滅ぶ。次に魂だ。肉体と言う器を無くした魂ほど脆い物はねぇやねぃ。こいつもちっとの時間で呪いに蝕まれて消滅しちまうだろうよ。さて、問題はここからだぜぃ。――――じゃあ、なんで魂と連結しているであろう『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』は呪いを受けてなかったか?赤龍帝の事はこのジジイの耳にも入ってるぜぃ。主のもとに駒だけは戻ってきたんだろぉ?」

「はい、駒だけが召喚に応じました」

「その駒からサマエルの呪いは検出されたんかぃ?」

「いいえ、検出されませんでした。サマエルのオーラを感じ取れたのは龍門(ドラゴン・ゲート)からのみです。彼の駒はサマエルの呪いに掛かっていませんでした」

一誠の駒が帰還してすぐ、アザゼルがその駒を調査したがサマエルの呪いは掛かっていなかった

それを知ったアザゼルは目を細め、そのままグリゴリ本部に戻っていったと言う

祐斗の答えを聞いた初代孫悟空は煙管を吹かし、口の端を吊り上げた

「――――て事はだ、魂は少なくとも無事な可能性があるって事だぜぃ。今あのエロ坊主がどんな状況になっているかは分からんけどねぃ、案外次元の狭間の何処かでひょっこり漂っているかもしれんぜ」

祐斗は初代孫悟空の言葉を聞いて内側から湧き上がる感情を懸命に抑えた

今はまだ歓喜する時じゃないが、一誠が生きている可能性がある

初代孫悟空は打ち震える祐斗の表情を見て微笑んだ後、踵を返した

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