小説『ハイスクールD×D〜闇皇の蝙蝠〜(第二部)』
作者:サドマヨ()

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≪アジュカ・ベルゼブブの拠点≫


深夜、担架に乗せた新を連れていく祐斗、リアス、朱乃、アーシア、小猫、レイヴェルはグレイフィアから渡されたメモ書きに記される場所に到達していた

リアス達に事の顛末を伝えて連れ出す事に成功し、新に早期復活の可能性がある事を知らされた朱乃はしばらくの間、涙を止める事が出来なかった

あくまでアジュカ・ベルゼブブに見せれば可能性が出てくるかもしれないと言う不確定な真実だが、全員が藁にもすがる思いでここに辿り着いた

そこは人間界で住んでいる町から電車で8駅ほど離れた市街

人気の無い町外れに存在する廃棄ビル、そこがアジュカ・ベルゼブブが人間界で使用している隠れ家の1つである

廃ビルに足を踏み入れる

一階ロビーには若い男女がいくつかのグループに分かれて話し合いをしている光景が見られた

魔力を一切感じ取れないが、異様な気配を醸し出している

彼らは悪魔じゃなく、異能を人間達の集まりだった

1つのグループが祐斗達に気付き、携帯を取り出して向ける

「……あいつら、悪魔だぜ。しかも何だ、この異様な『レベル』と『ランク』は……っ!」

1人の男が発した言葉を切っ掛けにロビー内の全員が携帯を取り出して祐斗達を捉えた

携帯の画面を食い入るように見つめ、表情を険しくする

どうやら彼らの携帯は異形を計る機能を有しているようだ

ふいに祐斗の脳裏にアジュカ・ベルゼブブの性質――――趣味が過る

アジュカ・ベルゼブブは人間界で『ゲーム』を開発し、その運営を取り仕切っているらしく、彼らの携帯はその『ゲーム』に関するツールか何かだろう

それを通して祐斗達の正体を把握した

目立つのを避け、足早にアジュカ・ベルゼブブを探した方が良いと思った矢先、ロビーの奥から祐斗達と同じオーラを持つスーツ姿の女性が現れた

その女性は一礼した後、奥のエレベーターに手を向ける

「こちらへ。――――屋上でアジュカさまがお待ちです」

エレベーターに乗って屋上に到着する祐斗達

案内された先は屋上に広がる庭園だった

緑に囲まれた広い場所、芝や草花だけでなく木々も植えられ、水場も設置されていた

女性悪魔が一礼して下がると同時に、祐斗達に話し掛ける者がいた

「グレモリー眷属か。勢揃いでここに来るとはね」

庭園の中央に置かれたテーブルと椅子

その椅子に若い男が座っていた

「アジュカさま」

リアスが一歩前に出て男の名前を呼んだ

今目の前にいる男がアジュカ・ベルゼブブで、彼はテーブルのティーカップを手に取る

「話は聞いている。大変なものに巻き込まれたようだ。いや、キミ達には今更な事か。毎度、その手の襲撃を受けていて有名だからね」

「アジュカさまに見ていただきたいものがあるのです」

リアスはアジュカに歩み寄り、懐から一誠の駒を取り出そうとした時だった

「ほう、見て欲しいもの。――――しかし、それは後になりそうだ。キミ達の他にもお客様が来訪しているようなのでね」

アジュカはリアスを手で制して、庭園の奥へ視線を向ける

その言葉で祐斗達も初めて気配に気付いた

庭園の奥から現れたのは祐斗達と同様の悪魔だった

「人間界のこの様な所にいたとはな。偽りの魔王アジュカ」

強大なオーラを体に漂わせている男数名

どれもが上級悪魔クラスか、それ以上の手練れと見えた

「口調だけで一発で把握出来てしまえるのが旧魔王派の魅力だと俺は思うよ」

「僕もいるんだ」「俺様もいるぜ?」

聞き覚えのある声が2つ、闇夜から聞こえてきた

旧魔王派の影から現れたのは白髪の青年ジークフリート

『禍の団(カオス・ブリゲード)』英雄派だった

もう1人、違う場所から現れたのは神風軍団に属するサラマンダーの竜人アドラス――――だが、京都で会った時と少し様子が違っていた

逆立った髪は本物の炎の様に揺らめき、両目は禍々しく変色していた

アドラスの周りに漂う円盤も凶悪な顔を象った物となっている

ジークフリートは祐斗達を一瞥してすぐにアジュカ・ベルゼブブに視線を戻した

その行為を見て、祐斗は心中で湧き上がる感情を懸命に抑え込んだ

今はまだ出すべきではないと……

「……彼をこんな風にした者達……」

後方で殺気をざわつかせる朱乃

リアス達も怨敵を見て一気に戦意を高めた

唯一アーシアだけが「……どうしてイッセーさんが冥界政府の争いに巻き込まれないといけないんですか……?」と悔しそうに涙を浮かべていた

更に解せない点が浮かび上がる

シャルバの件により英雄派と旧魔王派は現状、敵対関係にいる筈だった

「初めまして、アジュカ・ベルゼブブ。英雄派のジークフリートです。それとこの方々は英雄派に協力してくれている前魔王関係者ですよ」

英雄派に与する旧魔王派もいる……『禍の団(カオス・ブリゲード)』は複雑極まりない構成をしていた

「知っているよ、キミは元教会の戦士だったね、ジークフリートくん。上位ランクに名を連ねていた者だ。協力態勢前は我々にとって脅威だった。二つ名は魔帝(カオスエッジ)ジークだったかな。――――それで、俺に何の用があるのだろうか?先客がいるのでね。用件を聞こうか」

アジュカはテーブルの上で手を組みながら静かに問う

その態度に旧魔王派の悪魔達は体から敵意のオーラを迸らせる

アジュカが一言でも不信を口にすれば、すぐに襲い掛かるだろう一触即発状態だった

「以前より打診していた事ですよ。――――我々と同盟を結ばないだろうか、アジュカ・ベルゼブブ」

ジークフリートの言葉に祐斗達は驚愕に包まれた

現ベルゼブブ相手にテロリスト集団が同盟を持ち掛けるなど想像つく筈も無い

話の内容から悪魔全体ではなく、アジュカ・ベルゼブブ個人との同盟を結ぼうとしているのだろうか……

ジークフリートは淡々と続ける

「あなたは現四大魔王でありながら、あのサーゼクス・ルシファーとは違う思想を持ち、独自の権利すらも有している。そしてその異能に関する研究、技術は他を圧倒し、超越している。ひと度声を掛ければサーゼクス派の議員数に匹敵する協力者を得られると言うではありませんか」

実は現魔王政府の中で魔王派は4つの派閥に分かれており、それぞれの魔王に派閥議員が従っている

その4つの派閥で支持者が多いのがサーゼクス派とアジュカ派

両派閥は現政府の維持と言う面では協力関係にあるが、細かい政治面では対立が多く、冥界のニュースでは技術体系による意見の食い違いでよく報道されている

ジークフリートの言葉を聞いてアジュカが息を吐く

「確かに俺は魔王でありながら、個人的な嗜好で動いている。サーゼクスからの打診も言い付けも悉く破っている。傍から見れば俺がサーゼクスの考えに反対しているように見えるだろう。今運営している『ゲーム』も趣味の一環だからね」

「その趣味のせいで僕達もかなり手痛い目に遭った」

ジークフリートが苦笑する

会話から察すると、アジュカが制作した『ゲーム』は『禍の団(カオス・ブリゲード)』の活動を阻害しているらしい

「それはお互い様だろう」

「我々が一番あなたに魅力を感じているのは――――あのサーゼクス・ルシファーに唯一対応出来る悪魔だからだ。あなたとサーゼクス・ルシファーのお二人は前魔王の血筋から最大級にまで疎まれ、恐れられる程のイレギュラーな悪魔だと聞いている。その一方がこちらに加わってくれればこれ以上の戦力は無い」

ジークフリートの意見を聞いたアジュカは顎に手をやり、少し面白そうに表情を緩和させた

「なるほど、俺がテロリストになって、サーゼクスと敵対するのも面白いかもしれない。あの男の驚く顔を見るだけでもその価値はあるだろう」

「こちらも有している情報と研究の資料を提供します。常に新しい物作りを思慮しているあなたにとって、それらは充分に価値のあるものだと断言出来る」

ジークフリートの更なる甘言にアジュカは頷く

「そうか。『禍の団(カオス・ブリゲード)』が得ている情報と研究資料。うむ、魅力的に思えるね」

冗談なのか本心なのか、全く感じ取れない

アジュカは一度瞑目し……目を開くと同時にハッキリと断じた

「――――だが、いらないな。俺にとってキミ達との同盟は魅力的だが、否定しなければならないものなのでね」

アジュカの否定を聞いてもジークフリートは顔色を変えなかったが、周囲にいる旧魔王派は殺意を一気に高めた

「詳しく訊きたいところだけれど、簡潔にしよう。――――どうしてなのだろうか?」

「俺が趣味に没頭出来るのは、サーゼクスが俺の意志を全て汲んでくれるからだ。彼とは――――いや、あいつとは長い付き合いでね。俺が唯一の友と呼べる存在なのだよ。だから、あいつの事は誰よりも知っているし、あいつも俺の事を誰よりもよく認識している。あいつが魔王になったから、俺も魔王になっているに過ぎない。俺とサーゼクス・ルシファーの関係と言うのはつまりそういう事だ」

アジュカ・ベルゼブブとサーゼクス・ルシファーは旧知の間柄、分かりやすく言えば若い頃からライバル関係だった

2人の間には2人にしか分からないものがあるのだろう

それがアジュカ・ベルゼブブの中で確固たるものであり、テロリストとの同盟を破棄するのも容易くなると言う事だ

ジークフリートは未だ表情を変えずに頷いていた

この答えも予測していたのだろう

「そうですか。『友達』、僕にとっては分からない理由だが、そういう断り方もあると言うのは知っているよ」

ジークフリートの皮肉げな笑みと言葉を受けた旧魔王派の悪魔達が色めき立つ

「だから言ったであろう!この男は!この男とサーゼクスは独善で冥界を支配しているのだ!いくら冥界に多大な技術繁栄をもたらしたと言えど、この様な遊びに興じている魔王を野放しにしておく訳にはいかないのだ!」

「今まさに滅する時ぞ!忌々しい偽りの存在め!我ら真なる魔王の遺志を継ぎし者が貴様を消し去ってみせよう!」

怨恨にまみれた言葉を受けてアジュカは苦笑する

「如何にもな台詞だ。もしかしてあなた方は同様の事を現魔王関係者に言っているのだろうか?怨念に彩られ過ぎた言動には華も無ければ興も無い。――――つまり、つまらないと言う事だな」

「我らを愚弄するか、アジュカッ!」

現ベルゼブブにキッパリと切り捨てられ、旧魔王派は殺気をより濃厚に漂わせる

どう見ても戦闘が始まりそうな雰囲気に祐斗達も構えを取るが……アジュカがテーブルの上で組んでいた手を解き、片手を前に突き出して小さな魔方陣を展開させた

「言っても無駄だとは分かっている。仕方無い、俺も魔王の仕事を久しぶりにしようか。――――あなた方を消そう」

「「「ふざけるなッ!」」」

激昂した旧魔王派の悪魔達が手元から大質量の魔力の波動を放出させた

かなりの質量で、まともに受ければ致命傷に至るぐらいの威力だった

アジュカはその同時攻撃に動じる事無く、手元の小型魔方陣を操作して記された数式や悪魔文字を高速で動かす

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