小説『ハイスクールD×D〜闇皇の蝙蝠〜(第二部)』
作者:サドマヨ()

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相手の魔力が直撃する刹那、寸前で魔力の波動が全て軌道を外してあらぬ方向に飛んでいった

その現象を見て旧魔王派の悪魔達が仰天する

「俺の能力の事は大体把握してここに赴いているのだろう?まさか、自分の魔力だけは問題無く通るとでも思ったのだろうか?それとも強化してきて、この結果だった事に驚いているのか……、どちらにしてもあなた方では無理だ」

アジュカの苦笑に顔をひくつかせる旧魔王派

実は過去の前魔王政府とのいざこざでサーゼクス・ルシファーとアジュカ・ベルゼブブは反魔王派のエースとして最前線で活躍していた

謂わば歴戦の英雄で、この2人の武勇伝は冥界でも広く伝えられている

サーゼクス・ルシファーは全てを滅ぼす絶大な消滅魔力を有し、アジュカ・ベルゼブブは全ての現象を数式および方程式で操る絶技を持っていると言われていた

それらを承知の上で旧魔王派も少なからず強化してきたのだろうが、アジュカ・ベルゼブブには全く通用しなかった

旧魔王派の攻撃を自身の魔力でズラした

「俺から言わせればこの世で起こるあらゆる現象、異能は大概法則性などが決まっていてね。数式や方程式に当てはめて答えを導きだす事が出来る。俺は幼い頃から計算が好きだったんだ。自然に魔力もそちら方面に特化した。ほら、だからこういう事も出来る」

アジュカが空を見上げる

怪訝に思い旧魔王派の者や祐斗達も視線を上に向けると、少しずつ風を切るような音が大きくなっていく

空から迫ってくるのは先程軌道をズラされて飛んでいった魔力の波動

上空から降り注ぐ魔力の波動が旧魔王派を襲い――――

「――――っ」

1人は絶叫を上げる暇も無く一撃で消滅していった

当たる直前で避けた者達のもとに魔力の波動が追撃を始め、その波動を見て彼らは驚愕する

「我らの攻撃を操ったか!」

「こうする事も出来る」

アジュカは魔方陣に刻まれた数式と悪魔文字を更に速く動かし続ける

旧魔王派を追撃する魔力の波動が弾けて散弾と化し、他の波動は細かく枝分かれして逃げる旧魔王派を執拗に追い掛ける

アジュカは旧魔王派が放った魔力をそのまま操り、その形式までも容易且つ高速で変えた

更に散弾波動と枝分かれした波動は追尾速度を上げていく

操るだけでなく、能力までも向上させていた

「お、おのれぇぇぇぇっ!」

避けきれないと分かった旧魔王派は手元を煌めかせて攻撃のオーラを解き放つ

先程の一撃以上の威力を放ったが、アジュカが操る波動はそれらを軽々と打ち砕き、旧魔王派の者達の体を貫く或いは散弾と化した魔力の波動でいくつもの穴を開けていった

向かってくる攻撃の軌道をズラし、術式を乗っ取って操り、更に形式の変更を加えて速度と威力を向上させた……

「……これがこの男の『覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラ)』か……」

「軽く動かしてこれとは……いったい、貴様とサーゼクスはどれだけの力を持って……」

旧魔王派の悪魔達はそれだけ言い残して無念を抱いた表情で絶命

その言葉通り、現魔王アジュカ・ベルゼブブは殆ど実力を出さずに襲撃を収めた

驚嘆を通り過ぎた畏怖する程の力量を見せつけられ、改めてサーゼクス・ルシファーとアジュカ・ベルゼブブが規格外の悪魔だと言う事を認知する

アジュカ・ベルゼブブの視線が残ったジークフリートと旧魔王派の骸を見てケラケラ笑うアドラスに向けられた

「さて、残るは英雄派のジークフリートくんと闇人のアドラスとやらか。どうするかな?」

ジークフリートは肩をすくめ、アドラスは首を左右に捻ってゴキゴキと音を鳴らす

「まだ切り札は残っているので、撤退はそれを使ってからにしてみようと思っているよ」

「俺様は戦いたくてウズウズしてるぜ?京都じゃ仕留め損ねたからなぁ。誰でも良いからかかってこいよ」

祐斗はジークフリートの嫌みを含めた笑みとアドラスのあからさまに挑発的な態度を見て、体の底から湧き立つ激情を感じた

「切り札、か。それは興味深い。――――だが」

アジュカ・ベルゼブブの視線が祐斗に送られる

「そちらのグレモリー眷属の『騎士(ナイト)』くん。さっきから彼らに良い殺気を送ってくれていたね 」

アジュカ・ベルゼブブは祐斗の戦意に気付き、ジークフリートとアドラスに指を示しながら言った

「どうだろうか、彼らはキミが相手をしてみては?見たところ、この英雄派の彼とサラマンダーの闇人とは面識はあるようだ。このビルと屋上庭園は特別に手を掛けていてね。かなりの堅牢さを持ち合わせているよ。多少威力のある攻撃をしても崩壊する事は無い」

願ってもない申し出……

全身を駆け巡る抑えようの無い感情を秘めながら、祐斗は一歩前に出ていく

「……祐斗?」

「……部長、僕は行きます。もし、共に戦ってくださるのであれば、その時はよろしくお願いします」

そう伝えた祐斗は歩きながら手元に聖魔剣を一振り創り出し、脳裏にトレーニングをしていたある日の会話を過らせた



――――なあ、木場。俺とと新お前、もし誰かが死んだら、その分だけ皆の為に戦うと約束しないか?

『何を言っているんだよ。3人とも生き残ってこそじゃないか』

――――分かっているさ。俺だって死ぬつもりは毛頭無い。けどさ、俺達ただでさえ強敵ばかりと遭遇してる。死んでもおかしくなかった戦闘だってあった

――――だからこそ、これからどうなるか分からないだろう?そうなった時の一応の約束をしておこうと思ってよ。3人の内誰かが死んだら、その分だけ皆の為に戦う

――――あ!重ねて言うけどな、俺は死ぬつもりなんて無いぜ!まだ好きな女を抱いていないんだからな!

――――それにお前や新にだって死んでもらっちゃ困る。ダチが死んだら、嫌だからな



『ああ、そうだね。ダチが死んだら、嫌さ。イッセーくん、いつだって無事に帰ってくるって言っていたのに。キミは帰ってこなかった。キミを失って、僕は僕なりに眷属を支えようとした。きっと、彼女達はキミと新くんを失う事で心の均衡を保てなくなると予想は出来ていたから。僕だけは1人でも冷静に感情を押し込めて動こうと思ったんだ。キミとの約束だったから――――。でも、ちょっとだけ限界なんだ。憎い程の相手が目の前に現れたら、抑える事なんて出来やしない……!こいつらのくだらない計画とやらで僕は大事な友達を失ったのだから……ッ!生まれて初めて出来た僕の親友。それを彼らは奪った――――。許せる筈が無いッ!だから、イッセーくん。少しだけ私情を吐き出させて欲しい』

聖魔剣を構えた祐斗は憎悪の瞳で怨敵ジークフリートとアドラスを交互に捉える

「ジークフリート、アドラス、悪いが僕のこの抑えられない激情をぶつけさせてもらう。あなた方のせいで僕の親友は帰ってこられなかった。――――あなた方が死ぬには充分な理由だ」

祐斗の殺気に当てられジークフリートは口の端を愉快そうに吊り上げ、アドラスは牙を剥き出して嘲笑する

「ケッ!テメェごときが俺様を殺すだぁ?笑わせるぜ」

「キミから嘗て無い程の重圧が滲み出ているね……。面白い。しかし、キミ達グレモリー眷属とは驚く程に縁があるようだ。この様な所でも出会うだなんて流石に想像は出来なかった。まあ、良いか。――――さあ、決着をつけようか、赤龍帝と闇皇の無二の親友ナイトくん」

ジークフリートの背中に龍の腕が4本出現する

禁手(バランス・ブレイカー)を展開して帯剣している魔剣+光の剣を全て抜き放ち、4本ある龍の手に握らせていく

前方にジークフリート、後方にアドラス

祐斗は聖魔剣に龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の力を付与させて、その場を駆け出した

それと同時にアドラスが異形の円盤から複数の炎弾を放つ

祐斗は後ろから追撃してくる炎弾を躱しながら、ジークフリートに一太刀繰り出す

ジークフリートは軽々と魔剣の一振りで受け止めた

祐斗の動きを完全に捉えており、長期戦は不利なので短期戦で勝負を着けるしかない

祐斗の一撃を防いだジークフリートは目を細めて何かを考え込む

その様子を訝しげに見ていると、ジークフリートは1つだけ頷いて息を吐いた

「現状でキミと戦い、勝ったとしても深手は否めないだろうね。それ程までにキミの実力は向上している。キミに勝利したとしても、その後に闇人やリアス・グレモリー、姫島朱乃の攻撃を貰えば僕は確実に命を落とす。このまま逃げるのも悪くはないんだけど……アジュカ・ベルゼブブとの交渉に失敗して、グレモリー眷属と闇人を相手に何もせずに逃げたとあっては仲間や下の者に示しがつかない、か。難しい立ち位置だね。特にヘラクレスとジャンヌに笑われるのは面白くないんだ」

独り言を言いながらジークフリートは懐を探り、取り出したのは拳銃――――ではなく、先端に鋭い針を持ったピストル型の注射器だった

ジークフリートは針を自分の首筋に突き立てようとする構えとなり、皮肉げな笑みを浮かべる

「これは旧魔王シャルバ・ベルゼブブと神風の協力により完成に至った物。謂わばドーピング剤だ。――――神器(セイクリッド・ギア)のね」

「神器(セイクリッド・ギア)能力を強化すると言う事か」

祐斗の問いにジークフリートは頷き語る

「聖書に記されし神が生み出した神器(セイクリッド・ギア)に、宿敵である真の魔王の血を加工して注入した場合、どの様な結果を生み出すか。それが研究のテーマだった。かなりの犠牲と膨大なデータ蓄積の末に神聖なアイテムと深淵の魔性は融合を果たしたのさ」

次にジークフリートは自らの手に握られた魔剣グラムに視線を向ける

「本来ならばこの魔帝剣グラムの力を出し切ればキミや竜の闇人を倒せたのだろうが……残念ながら僕はこの剣に選ばれながらも呪われていると言って言い。木場祐斗、キミならその意味を理解出来るだろう?」

―――魔帝剣グラムに選ばれながらも呪われている―――

祐斗はその意味を容易く理解出来た

伝承によると魔帝剣グラムは凄まじい切れ味――――攻撃的なオーラを纏い、如何なる物を断ち切る鋭利さを持ち合わせている

簡潔に解釈するならばデュランダルの魔剣版

そしてもう1つの特性――――龍殺し(ドラゴンスレイヤー)を持っている

かの五大龍王『黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)』ファーブニルを一度滅ぼしたのもグラムが持つ龍殺し(ドラゴンスレイヤー)が決め手だった

つまり、凶悪な切れ味と強力な龍殺し(ドラゴンスレイヤー)と言う2つの特性を有しているのが魔帝剣グラム

デュランダル+アスカロンの特性を持った魔剣なのだ

これらの特性を踏まえた上で持ち主――――ジークフリートの特徴を考えると、実に皮肉過ぎる答えが生じてくる

ジークフリートの神器(セイクリッド・ギア)は『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』の亜種、禁手(バランス・ブレイカー)も亜種

この様な神器(セイクリッド・ギア)はドラゴン系神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれ、名前の通りドラゴンの性質を持ち合わせている

通常の『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』を発現している程度ならグラムを存分に振るえるのだが……能力が格段に上昇する禁手(バランス・ブレイカー)になれば、ジークフリートは魔帝剣グラムとの相性が最悪となる

『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』――――ドラゴンの能力を解放すればグラムの龍殺し(ドラゴンスレイヤー)を受け、自ら身を滅ぼす結果となってしまう

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