祐斗に戦おうと言う意志はあるものの、傷だらけの体と――――いる筈の存在がいない現状に心が折れかけていた
いつも共に戦っていた新と一誠
一誠はこの場におらず、新は未だ目覚めない
仲間と共に戦えない厳しさとツラさ、祐斗は今その苦境に立たされ無様に膝をついている
『兵藤一誠は無駄死にをしたよ。出涸らしとなったオーフィスを救う為に1人あの空間に残り、シャルバと相討ちになったんだろう?あれからシャルバの気配が消えたからね。生きていれば僕達に堂々と宣戦布告して、冥界にも旧魔王派の力を宣言しているトコロだろうから。あのまま兵藤一誠がオーフィスを放置して帰還すれば、今頃態勢を整えて再出撃出来ただろうに。オーフィスはともかく、シャルバは後で討てた筈だよ。自分の後先を考えないで行動するのは赤龍帝の良くないトコロだった』
「違ぇねぇな!そこで無様に寝てる闇皇も同じだぜ。偽物と化した『初代キング』を助けるとは、ただのバカだ。そんなくだらねぇ事をする暇があんのかよ?」
「――――っ」
ジークフリートとアドラスの台詞を聞いた祐斗は一瞬思考が真っ白になり、次の瞬間にはドス黒い感情が腹の底から沸き上がってきた
――――ヒョウドウイッセイ ハ ムダジニ シタヨ
――――ブザマニ ネテル ヤミオウ クダラネェ
「……ふざけるな。……ふざけるなよ……ッ!」
祐斗の心を支配するのは悔しさと悲しみ、そして一誠と約束した事だった
両足を情けなく震わせながら立ち上がり、喉まで昇ってきたモノを遠慮無しで天に向かって解き放った
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
自分でも信じられない程の声量
腹の底、心の底から沸き上がって噴き出した
脳裏に蘇る親友の声
『木場、俺達はグレモリー眷属の男子だ』
『だから、どんな時でも立ち上がって皆と共に戦おうぜ』
「……まだだ」
祐斗は再び聖魔剣を手元に創り、震える両足に力を注ぎ込む
「まだ戦えるッ!僕は立たないといけないッ!あの男達のようにッ!グレモリー眷属の兵藤一誠と竜崎新はどんな時でも、どんな相手でも決して臆せずに立ち向かったッ!こんな所で倒れてしまったら、僕は彼らに合わす顔が無い……ッ!赤龍帝と闇皇はあなた達が貶していい男じゃないッ!僕の親友をバカにするなッ!」
涙混じりの咆哮を上げる祐斗
しかし、ジークフリートとアドラスはキッパリと断ずる
『無駄だっ!あの赤龍帝と闇皇の様にいこうとも、キミでは限界がある!ただの人からの転生者では、いくら才能があろうとも肉体の限界が――――ダメージがキミを止める!』
「口先だけなら誰だってそう言うんだよ、クソ剣士がぁッ!所詮テメェには力が足りねぇから勝てねぇんだよ!虚勢を張っても虚しいだけだぜ!」
「……分かっているさ。もう、僕の肉体は限界だ。剣を握る力すら満足に無い。けど……だけど!イッセーくんと新くんはそれでも立ち向かえる筈だ!宿れ、少しでも良いから宿ってくれ!兵藤一誠と竜崎新を突き動かしていた意地と気合よ!どうか、少しでも僕に宿ってくれ!」
「死人とくっちゃべってる暇があんのかッ!死ねよ!クソ剣士がぁッ!」
後方からアドラスが右手ドラゴンの口を開かせて飛び出していこうとした時だった
突如紅い閃光が映り込み、視線をそちらに移す
「――――イッセーの駒が」
リアスが握るイッセーの駒が紅い光を発していた
リアスの手から1つの『兵士(ポーン)』の駒が宙に浮かび、輝きを増して深夜の暗闇を紅く照らしていく
直後、その駒がアドラスを横切って祐斗のもとに飛来、弾けるように光を深めた
あまりの光量に一瞬だけ目を伏せるが……次に目にしたのは宙に浮かぶ1本の聖剣――――アスカロンだった
「……イッセーくんの駒が……アスカロンに……?」
――――行こうぜ、ダチ公
一瞬だけ聞こえた友の声
祐斗は涙を溢れさせた
「キミはなんてお人好しなんだろう。たとえ駒だけでも、キミは仲間を……僕を……ッ!」
駒が答えると言う奇跡を目の当たりにした矢先、またも奇跡が起こった
「……ッ!あ、新さん……?」
朱乃の素っ頓狂な声に反応し、振り返ってみると――――なんと昏睡している新がゆっくりと右手を動かし、親指を立てていた……
何があってこんな事が起きたのか理解出来なかったが、祐斗は更に涙を溢れさせて宙に浮かぶアスカロンを握り締めた
「そうだね、イッセーくん、新くん。行こうよ!キミ達となら、僕は何処までも強くなれるんだからさッ!キミ達が力を貸してくれるならッ!どんな相手だろうと――――切り刻めるッ!」
2人の友から伝わる勇気を感じ取り、祐斗の足は自然と震えを治めた
体の底から活力が沸き上がり、アスカロンを握る手にも力が入る
「調子こいてんじゃねぇぞ!たった1本の剣を手にしたぐれぇで何が変わるってんだァッ!」
アドラスが右手に灼熱の炎を纏わせながら祐斗に殴り掛かるが、祐斗は正面からアスカロンで受け止める
その直後、アスカロンからオーラが解き放たれ、アドラスの右手を焦がしていく
「なっ!?何だと!?サラマンダーの俺が、俺の体が焼けていく……ッ!?」
『……ッ!バカな……ッ!血をあれだけ失えば自慢の足も動かなくなる筈だ……ッ!』
「行けってさ。立てってさ。この剣を通してイッセーくんが僕に無茶を言うんだ。じゃあ、行かなきゃダメじゃないか……ッ!」
祐斗はアドラスを振り払い、瞬時にジークフリートに斬り掛かった
アドラスは焼け焦げた右手を押さえながら呻き声を上げる
ジークフリートもアスカロンを魔剣で受け止めるが、アスカロンの膨大なオーラのせいで体から煙を上げ、表情も苦痛に歪んでいく
『……なんだ、その聖剣から感じる……力は……ッ!』
『魔人化(カオス・ブレイク)』でグラムの力に対応出来ても、アスカロンに対しては別らしい
祐斗が勝てると思い始めた時だった
ジークフリートの持つグラムが輝きだす
祐斗は危険を感じて後方に飛び退こうとするが――――グラムは輝きを祐斗に向けていた
しかも、攻撃的な輝きではなく、まるで祐斗を迎え入れるかの様な輝きを見せた……
『――――っ!グラムが!魔帝剣が呼応している!?――――木場祐斗に!?まさか、「魔人化(カオス・ブレイク)」の弊害なのか!?』
仰天するジークフリート
もしかしてと思い、祐斗はグラムに向かって叫んだ
「――――来い、グラム!僕を選ぶと言うのなら、僕はキミを受け入れよう!」
その言葉を受けたグラムがより強い輝きを解き放ち、持ち主だったジークフリートを拒絶するかの様に手を焦がしていく
グラムは宙に飛び出し、祐斗の眼前の地面に突き刺さった
魔帝剣グラムは――――この土壇場で持ち主をジークフリートから祐斗に選び直した
それを見てジークフリートは首を横に振り、目の前で起きた現象を信じられないように言う
『こんな事が……ッ!こんな事があり得るのか!?駒だけでも赤龍帝はッ!闇皇はッ!戦うと言うのか!?この男を立たせると言うのか!?』
祐斗はグラムの持ち主に選び直されたと言うのに、片腕だけでは扱えない――――そう思っているとアーシア、小猫、レイヴェルが近付いてきた
小猫が切り落とされた祐斗の腕を持って肩口に当て、アーシアが手から淡い緑色のオーラを放出し、レイヴェルが祐斗の体をしっかりと支える
腕は徐々に繋がり機能を回復させていく
「……イッセーさんが『アーシアも戦え』って、駒を通して言ってくれた様な気がしたんです」
「……新先輩が『祐斗を助けてやってくれ』って、言ったような気がします」
「私にも聞こえた気がしましたわ。新さまの声が……『皆を支えてくれ』と。本当、あの様な状態で、眷属でもない私にまで……」
皆が涙を拭い去り、微笑みを見せる
「――――『皆と共に戦ってください』、か。そうよね。あの2人なら、そう言うに決まってるわ」
リアスが一誠の駒を手にして前に立ち、瞳に火を灯した
「さあ、私の可愛い下僕悪魔達!グレモリー眷属として、目の前の敵を消し飛ばしてあげましょうッ!」
リアスが本調子に戻り、いつもの口上を解き放った
アーシアのお陰で切り落とされた祐斗の左腕が繋がり、眼前に突き刺さったグラムを抜き放つ
魔帝剣グラムが持つ龍殺し(ドラゴンスレイヤー)とアスカロンの龍殺し(ドラゴンスレイヤー)を同時に繰り出していけば、強化されたジークフリートとアドラスを倒す事が出来る
祐斗は2本の剣を構えて足に力を注ぐ
「さあ、もう一度戦おうか。けれど、さっきとは違う。――――こちらは僕だけじゃなく、グレモリー眷属だっ!」
リアス、アーシア、小猫、レイヴェルはジークフリートを鋭く見据え、リアスが強大な滅びの魔力を解き放ち、それと同時に祐斗も前方へ飛び出していった
『まだだよ!それでも僕は、英雄の子孫として――――』
言いかけたジークフリートの頭上で稲光が閃き、夜空を裂くような極大の雷光が周囲ごとジークフリートを飲み込んだ
宙に視線を向けると、6枚にも及ぶ堕天使の黒い翼を広げる朱乃がいた
複数の翼を生やすその姿はまさに上位クラスの堕天使のようだった
「――――これが私の最後の手。堕天使化ですわ。父とアザゼルに頼んで、『雷光』の血を高めてもらったの」
朱乃の両手首には魔術文字が刻まれたブレスレットが光を放ち、魔術文字が金色に輝いて浮かび上がっていた
恐らく本来眠っていた堕天使の血が、ブレスレットによって解放されたのだろう
「新さんが……私の手を優しく握り返してくれましたわ。『いつもの笑顔を見せてくれ』と――――私に言ってくれた様な気がしました……っ!もう大丈夫ですわ。私も戦えます!」
朱乃が決意に満ちた眼差しで戦線復帰を宣言し、グレモリー眷属の「二大お姉さま」が復活を遂げた
特大の雷撃をまともに食らったジークフリートの全身は黒焦げと化し、至る箇所から煙を上げている
『魔人化(カオス・ブレイク)』で堅牢になったジークフリートに多大なダメージを与えた辺り、朱乃の雷光は更に威力を増したと言う事だ
そこへ追撃と言わんばかりにリアスが放った滅びの一撃が襲い掛かり、肥大化していた龍の腕が全て弾け飛び消滅していく
「――――これがトドメだよ、ジークフリートッ!」