小説『ハイスクールD×D〜闇皇の蝙蝠〜(第二部)』
作者:サドマヨ()

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ズンッ!

祐斗の持つ聖剣アスカロンと魔帝剣グラムが正面からジークフリートに突き刺さり、ジークフリートの口から血の塊が吐き出された

『……この僕が……殺られる……?』

ジークフリートは自身を裏切ったグラムをそっと撫でるが、魔帝剣は拒絶するように手を焦がし、それを見た彼は自嘲した

「勝ったよ、イッセーくん、新くん」

ジークフリートの体から引き抜かれる2本の剣

一方、2本の龍殺し(ドラゴンスレイヤー)を受けたジークフリートはその効果で徐々に崩壊していく

体の至るトコロにヒビが走り、煙を上げながら崩れていく最中、ジークフリートは目を細めて小さく笑った

『……ははっ……兵藤一誠と竜崎新は、殺しても戦い続ける……ッ!』

ジークフリートは祐斗とリアス達を見据える

既に顔にも崩壊の裂傷が生まれていた

ここで祐斗は1つの疑問が生じたので、崩れていくジークフリートに訊く

「どうしてフェニックスの涙を使用しないんだい?キミ達英雄派は独自のルートで入手出来るんだろう?」

そう、英雄派は京都での一戦でフェニックスの涙を使用したので、英雄派メンバーが所持していてもおかしくない

しかし、肉体が崩壊していく現状でもジークフリートは使う素振りすら見せない……それを祐斗は不自然に感じてしまった

ジークフリートは首を横に振る

『……この状態になると、フェニックスの涙での回復を受け付けなくなってしまう……理由は未だに不明だけどね……』

どうやら『魔人化(カオス・ブレイク)』による強化状態『業魔人(カオス・ドライブ)』には相応のデメリットがあるようで、極度のパワーアップは出来るが回復は望めないと言う事だ

英雄派との戦いに関して有力な情報を手に入れた

『……やっぱりそうさ。……あの戦士育成機関で育った教会の戦士は……まともな生き方をしないのさ……』

それだけを言い残し、ジークフリートは崩れ去っていった

ジークフリートを倒したグレモリー眷属は次に背後の敵――――アドラスに視線を移した

アスカロンの龍殺し(ドラゴンスレイヤー)で苦しんでいたアドラスは怒り心頭の形相で祐斗達を睨む

「ふざけんなよ、ふざけんなよコラァッ!この俺が!蒸発のアドラスがテメェらクソ悪魔なんかに殺られる訳がねぇだろォッ!」

アドラスは二対の円盤を前方に寄せ、巨大な円を描く様な軌道で高速回転させる

「――――ッ。あれは京都で新くんに放った技……!」

祐斗は直ぐに技を得心してアスカロンとグラムを構える

祐斗の隣にリアスと朱乃が並び、滅びと雷光を一気に高めていく

「祐斗、私達が相殺させるから決めなさい」

「今の私達なら、どんな物が来ようと吹き飛ばせますわ」

「部長、朱乃さん。お願いしますッ!」

祐斗は出撃に備えてアスカロンとグラムを握る両手に力を入れ、リアスと朱乃が手をアドラスに向けた

「全員まとめて蒸発しちまえェェェェッ!サラマンダーキャノォォォォォォォォンッ!」

ギュバアァァァァァァァァァァァァァァッ!

高速回転する円盤から極大サイズの黒い熱線が放射され、リアスと朱乃も極大の一撃を放った

3つの力が真っ正面から衝突し、大爆発を生み出して霧散する

それを見てアドラスは仰天した

「……ッ!バ、バカな……ッ!俺様の最大技と互角だとぉ!?」

「これで――――終わりだッ!」

祐斗は瞬時に駆け出してアドラスの前まで距離を詰め、アスカロンとグラムをX状に振り下ろす

オーラを高めた2本の龍殺し(ドラゴンスレイヤー)はアドラスを見事に切り裂き、その肉体が4つのパーツに分離した

「……何なんだよこいつら……ッ!ブラックウィドーズ使っても勝てねぇとか、洒落になんねぇだろぉ……ッ」

自分が斬られた現状を信じ切れないまま、サラマンダーの闇人は龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の効果で完全崩壊

三つ巴の初戦は、幾重もの窮地に立たされたグレモリー眷属が制した


―――――――――


旧魔王派、ジークフリート、アドラスを倒し、リアスは改めて一誠の駒と担架で昏睡している新を見てもらった

先程アスカロンに変化した駒は役目を終えた後、再び駒へと戻っている

一誠が駒に残した何かとアスカロンの残留オーラが祐斗達の想いに呼応して、変化を起こしたのではないかとアジュカ・ベルゼブブは語る

テーブルの上にチェス盤が置かれ、アジュカ・ベルゼブブは『兵士(ポーン)』の初期位置に一誠の駒を7つ置いた

小型の魔方陣を展開して駒の内部を調べていくと、アジュカ・ベルゼブブは興味深そうに息を漏らす

「ほう、これは……」

「何か分かりましたか?」

「7つ中、4つの駒が『変異の駒(ミューテーション・ピース)』になっている。1つ1つの価値にばらつきこそあるが……恐ろしい事だ。例のトリアイナの分と真紅の鎧がこれらを現しているのだろうか。兵藤一誠が引き出した天龍と『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の組み合わせ――――調和のスペックは想像を遥かに超える物の様だね。あの時に調整した甲斐があったと言うものだ。先程の現象も実に興味深かった。……彼の意志が駒にダイレクトに反映されているのか。そして闇皇の彼にもその波動が届き、意識が戻りかけたと言う訳か」

なんと一誠の駒は7つの内、4つも『変異の駒(ミューテーション・ピース)』に変化していた

一誠を転生する際に使った『兵士(ポーン)』の駒は全て通常の駒で、『変異の駒(ミューテーション・ピース)』はギャスパーと新に使用した

一誠の中で起きた予想外過ぎる変化に皆は驚愕せざるを得ない

更に昏睡している新にも強い想いが届き、右手のみだが新を動かしたのだろう

「それで、その駒から他に分かった事は……?」

リアスが再度訊き、グレモリー眷属全員がアジュカ・ベルゼブブの言葉に真剣に耳を傾け、アジュカ・ベルゼブブはハッキリと言った

「この駒から俺が言える答えはこうだ。――――どんな状態になっているかは分からないが、彼が次元の狭間で生きている可能性は高いだろうね。この駒の最後の記録情報が『死』ではないからだ。それと赤龍帝ドライグの魂も神器(セイクリッド・ギア)として、まだ残っているようだね。兵藤一誠と『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』は共にあるのだろう。そして、この駒も機能が停止しておらず、まだ使用出来る。この駒に刻まれた登録上、彼限定にだけどね。いや、『兵藤一誠に戻せる』と言った方が適切か。次に竜崎新、彼も数時間経たない内に目覚める傾向が高いな。彼の『変異の駒(ミューテーション・ピース)』と融合したドラゴンの残留思念、先程話した儀式のお陰で『闇』が調和しつつある」

言葉にならない感情が全身を駆け巡る

全員が言葉を失った中、アジュカ・ベルゼブブは説明を続ける

「この駒を受け入れた器――――つまり、魂と肉体が不安定な状態になっている事だけは確かだろう。サマエルの毒を受けたのなら肉体は助からないだろうね。それはこの駒からの情報でも確認出来る。しかし、次にサマエルの呪いを受けそうな魂が、これを調べる限り消滅してはいないのだよ。肉体が滅びれば直ぐに魂にまで毒牙は迫るのだが……。肉体がダメになってから魂が消えるであろう時間が経過しても魂が無事だったとこの駒が教えてくれている。魂だけではどういう状態か把握しづらいが、アザゼル総督サイドからあのオーフィスが彼に同伴しているかもしれないと聞いている、何が起こっても不思議ではない。たとえどんな形であれ、魂だけで生きていてもね」

「魂が無事だったとして、滅んだ肉体は……どうすれば良いのでしょうか?」

祐斗がアジュカ・ベルゼブブに問う

「ふむ。彼のご両親は健在かな?もしくは彼の部屋にあるDNA情報――――抜けた体毛の類などでも良い」

「ご両親は健在です。…………体毛も探せば彼の自室にあるとは思いますが」

「ならば、まず魂が帰還した後に彼のご両親か、その体毛からDNAを検出して出来るだけ近しい体を新たに構築する必要がある。グリゴリが運営する研究施設でそれが出来るのではないだろうか。再現自体は可能だろう。クローン技術の応用でね」

「……問題は他にあると?」

「新しい体に魂が定着するのかと言う点と、その体が神器(セイクリッド・ギア)――――『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を受け入れられるのか。この二点が問題だろうね。前者は仮に拒絶反応を示しても、投薬やその他魔法、魔力による治療で何とかなるだろう。ただし、一生治療が必要になるかもしれないが。一番の問題は後者だ。――――神器(セイクリッド・ギア)は繊細だ、特に神滅具(ロンギヌス)はね。神器(セイクリッド・ギア)を取り出して、移植する技術は堕天使によって確立してはいるが、新しい体に『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』が移ったとしてもその後にどんな後遺症やらが出るか全く予測出来ない。とにかく、その新しい体を得た後で魂を定着させて、戻ってきた『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を使用すれば再びキミの眷属として生きられる筈だ。駒でも拒絶反応が起これば、まあ、そこは俺が微調整するので心配しなくても良い。駒がサマエルの呪いにやられていなくて幸いだったね」

つまり、一誠が仮に新しい体を得て魂と神器(セイクリッド・ギア)を移植しても、後遺症や能力消失は否めないが……復活出来ないと言う訳ではない

「『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』が機能を停止しておらず、魂と神器(セイクリッド・ギア)が残っていればこれだけの再生は可能だ。逆に言えばこれらが消えてしまったら、流石に手も足も出なかったけれども。しかし、神器(セイクリッド・ギア)と共にある……?そうか、『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』の例があったね。案外あの様な例に漏れず、神器(セイクリッド・ギア)その物だけが残り、そこに魂が留まっているのかもしれない。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の中に魂があれば次元の狭間にいようと、暫くは耐えられるだろう。今世の神滅具(ロンギヌス)は全て異例の進化を遂げつつあると話には聞いているから、彼もその恩恵に預かっているのだろうね。――――例に無い状況であり強運とも言える」

「うえぇぇぇぇぇぇぇんっ!イッセーさぁぁぁぁんっ!」

その答えにアーシアは歓喜して泣き、他の皆も大粒の涙を流した

絶望の状況の中、大きな希望を得られたグレモリー眷属

リアスも顔を両手で覆い、喜びの涙を流していた

「……イッセー、生きているのね……。そうよね、彼が死ぬ筈無いもの!」

「そうですわ。新さんだって、こうして生きているから……イッセーくんもちゃんと生きていますわ」

アジュカ・ベルゼブブは調べ終わった駒をリアスに渡し、椅子から腰を上げた

「さて、俺はここから眷属に命令して例の巨大怪獣討伐を指揮するつもりだ。対抗策ぐらいはどうにかしよう。だが、最後に決めるのはキミ達現悪魔とサーゼクス眷属であるべきだ。それでこそ冥界は保たれる」

アジュカ・ベルゼブブが手を前に出すと転移魔方陣が展開された

「キミ達も行くと良い。冥界は今、力のある若手悪魔の協力が必要な時だろう。なに、彼なら来るだろうね。それはキミ達が一番よく知っていると思う。そういう悪魔なのだろう、彼は」

――――生きているのなら、生きてさえいれば一誠は必ず帰ってくる。新も生きているから必ず目を覚ます――――

ここにいる誰もがそれを信じて疑わなかった

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