≪出撃の狼煙≫
アジュカ・ベルゼブブの隠れ家からグレモリー城に帰還したグレモリー眷属らは、気持ちを切り替えて首都に向かう準備を整え出していた
少ししてからフロアで天界に行っていたゼノヴィアとイリナに再会する
「悪い、遅くなったな」
いつもの戦闘服に身を包み、ゼノヴィアは布にくるまれた長い得物を携えていた
布には魔術文字と天界の文字が刻まれている
恐らく中身は修復が終わったエクス・デュランダルだろう
イリナも新しい剣を腰に携行しており、その剣から異様で力強いオーラを感じた
「部長、新とイッセーは?ある程度の話は家の方に聞いた。魔王ベルゼブブはなんと?」
「ええ、最悪の事態にはなっていないようだわ。――――イッセーの傍らにオーフィスとドライグがいるようだから、何とか連絡だけでも取れれば良いのだけれど……新の方はもう心配無いみたい。後はいつ目を覚ますかだけど……」
リアスが担架の上で眠っている新に視線を向ける
新は相変わらず昏睡状態だが、時折右手がピクピクと動いたりしているので復活は近い筈
ゼノヴィアは眠っている新に歩み寄り、新の右手を取って自らの胸に当てた
「新、いつまでも寝ていたら私と子作り出来ないじゃないか。私の胸で目を覚ませ。イッセーも生きているんだから、きっと部長の胸を恋しがって帰ってくるだろう。新も負けるな」
ゼノヴィアの胸に反応したのか、右手は答えるようにゆっくりとゼノヴィアの胸を揉み始めた
その様子にリアスと祐斗は目を丸くする
「そうか、私の胸も恋しいか。なら早く起きろ。朱乃さんの胸も揉みたいだろう?起きてこの戦いを終えたら、好きなだけ揉んでくれ」
「……何だか、案外早く目を覚ましそうな気がしてきたよ……」
「それで、これからどうするの?」
イリナがリアスに訊くと、リアスはフロアに備え付けられている大型テレビに電源を入れる
映し出された冥界の各領土で暴れ回る巨大魔獣
時間的にはそろそろ重要拠点に辿り着いた魔獣が出てもおかしくないのだが、目に飛び込んできたのは『豪獣鬼(バンダースナッチ)』相手に善戦する悪魔や同盟関係の戦士達の姿だった
『ご覧ください!魔王アジュカ・ベルゼブブさまを始めとしたベルゼブブ眷属が構築した対抗術式!それによって展開する魔方陣の攻撃が「豪獣鬼(バンダースナッチ)」に効果を与えております!』
上空からヘリコプターで中継するレポーターが嬉々としてその様子を伝える
『豪獣鬼(バンダースナッチ)』の1体が同盟関係の戦士達の攻撃で深いダメージを受けていた
アジュカ・ベルゼブブが魔獣への対処法を確立してから数時間、形勢は優勢に転じ始めた
「……アジュカさまは魔獣が出現して直ぐにファルビウム・アスモデウスさまと連絡を取り合いながら術式構築作業を開始されて、私達が人間界に行った時には術式プログラムを完成させていたと言うわ」
リアスは画面に視線を向けながらそう漏らす
情報によれば各『豪獣鬼(バンダースナッチ)』への攻撃戦術はファルビウム・アスモデウスが構築したそうだ
『大怪獣対レヴィアたんなのよ!』
移り変わったチャンネルに映し出されたのはセラフォルー・レヴィアタン
彼女は冥界の危機に居ても立ってもいられなくなったので、自ら飛び出して『豪獣鬼(バンダースナッチ)』とバトルを開始したらしい
レヴィアタン眷属と共に攻撃を放ち、広大な荒れ地ごと『豪獣鬼(バンダースナッチ)』の半身を凍り漬けにした
他のチャンネルでもタンニーン率いる眷属ドラゴン達が『豪獣鬼(バンダースナッチ)』を追い詰める
『母上!頑張ってくだされー!』
更に違うチャンネルでは九尾の狐――――八坂が『豪獣鬼(バンダースナッチ)』に強大な火炎をくらわせていた
その背には娘の九重が乗っており、多くの妖怪達も大暴れしていた
巨大魔獣達への優勢が功を奏し、混乱に乗じて各地で暴れている旧魔王派と闇人への対抗状況も押し返しつつある
『あーっと!遂に!遂に巨大魔獣「豪獣鬼(バンダースナッチ)」の1体が活動を停止させましたーっ!』
テレビを通して聞こえたレポーターの叫声
最初に『豪獣鬼(バンダースナッチ)』を仕留めたのは皇帝(エンペラー)ベリアル率いる同盟軍で、画面に移る人型『豪獣鬼(バンダースナッチ)』は地に倒れ伏していた
『な、なんと!こちらでも「豪獣鬼(バンダースナッチ)」を追い詰めています!』
別のチャンネルに移し変えたと同時に別のレポーターの叫声が耳に入る
見てみると……『豪獣鬼(バンダースナッチ)』を相手にしている筋骨隆々の老人と見覚えのある獣人が佇んでいた
『ガハハハッ!孫に頼まれて来てみれば、久々に我が輩の血が猛る魔獣に出会えるとはな!白虎の若僧!お主にも久々に会って歓喜が疼きまくりじゃ!』
『ようやく釈放されたと思ったら、いきなり大仕事が待ってるなんてね。まさか綜玄(そうげん)さんが来てくれるとは思わなかったよ。まぁ、あまり派手にやらかさないでくださいよ?メチャクチャになっちゃうから』
『ガハハハッ!力を出したい時に出さなかったら、八代家現当主を名乗れんわ!流塵邪火(りゅうじんじゃっか)ッ!』
綜玄と呼ばれた老人が野太刀を取り出し、その刀身に炎を宿らせて豪快に斬りかかった
『豪獣鬼(バンダースナッチ)』の腕は見事に分断され、苦しみの咆哮を上げる
画面を見た祐斗が驚愕の声音を漏らした
「綜玄って……渉くんが話してた人じゃないか!あの人が渉くんのお爺さん……それに、あそこにいるのは――――総司さん!?」
そう、白虎の獣人は新の父親――――竜崎総司
リュオーガ族との一件が原因で冥界の牢獄に服役していたのだが、恐らくサーゼクス辺りがこの危機の為に釈放したのだろう
白虎と化した総司は闘気を纏い、『豪獣鬼(バンダースナッチ)』の顎に強烈な拳打を入れた
心強過ぎる助っ人の登場に祐斗達は勿論、冥界の住民に安心感が生まれてきた
『なんと!こちらでは「豪獣鬼(バンダースナッチ)」2体が謎の5人に追い詰められています!』
続けざまに『豪獣鬼(バンダースナッチ)』停止寸前吉報が流れてくるが、謎の5人と言うワードに耳を傾ける
画面を見てみると――――またまた見覚えのある……否、忘れる事など出来ない人物の姿があった
『ニャハハハ!サーゼクス・ルシファーやセラフォルー・レヴィアタンが来たから何事かと思えば、こりゃ大変な事になっちゃってるニャ!』
『そうだね。正直言って複雑だが、あのサーゼクス・ルシファーとセラフォルー・レヴィアタンが頭を下げてまで懇願してきたんだ。彼らには借りもあるし、何よりこの魔獣どもが気に入らないからね。我々リュオーガ族の力を思い知らせてやろう』
画面に映ったのはかつて四大魔王を追い詰めたリュオーガ族の筆頭アシュラ・ドレイク、アノン、ギンロウ、ナガミツ・ジュウゾウ、レモネードの5人だった
あのプライド高きリュオーガ族が冥界の危機を助けに来ている……
画面に映る奇跡を見てグレモリー眷属は言葉に表せない喜びに打ち震えた
この優勢状況なら『豪獣鬼(バンダースナッチ)』は半日も経たない内に全て仕留められそうだ
「残る問題は魔王領の首都に向かう『超獣鬼(ジャバウォック)』でしょうね」
聞き覚えのある後方から聞こえてくる
振り返るとそこには故郷の北欧に行っていたロスヴァイセがいた
「ロスヴァイセ!」
「ただいま帰還しました、リアスさん。新さんとイッセーくんの事は先程窺いました。まあ、リアスさんの胸をあそこまで求める彼ならそろそろ帰ってくるでしょう。それに新さんもこのままで終わる筈がありません。まだ私と……デ、デートしてないんですから」
「……ゼノヴィアと同じ事を言われてるよ、イッセーくん、新くん」
しかし、バラバラになっていたグレモリー眷属が揃いつつある
その実感に自信と余裕も戻ってきた
「皆さま!大変ですわ!」
レイヴェルが急いでフロアに駆け寄って来た
何やら険しい表情をしている
「……首都で活動中のシトリー眷属の皆さんが都民の避難を護衛している途中で……『禍の団(カオス・ブリゲード)』の構成員と戦闘に入ったそうです!」
それはグレモリー眷属出陣の狼煙となった
いざ出撃――――しようとした刹那、担架で昏睡している新の手がゼノヴィアの手を強く握ってきた
「……っ?どうしたんだ、新?」
まだ言葉を発する事が出来ない新の真意を手の動きで感じ取るゼノヴィア
手の動きから伝わる新の要望は無謀なモノだった
「……そんなの無茶だ!自分を連れていけなんて!今のお前はまだ戦える状態では――――」
ギュウ……ッ
新はゼノヴィアの制止を顧みず手を握り続ける
目覚めていない状態でもジッとしていられず、冥界の危機を救いたいと言う想いが新を突き動かしているのだろう
しかし、戦線に出れば新は確実に絶好の的となってしまう
そんなリスクが高過ぎる要を呑む訳にはいかなかったのだが……ゼノヴィアは悩みに悩んだ末――――答えを出した
「……分かった、連れていこう。私も部長の『騎士(ナイト)』だ。仲間を――――お前を守ってみせる」
「……本気なの、ゼノヴィア?」
「英雄派との戦いで真っ先にやられてしまった汚名を晴らしてみせます。私も新や木場の様に仲間を守りたいんだ!」
ゼノヴィアが強い眼差しを持って言い、その決意を受けたリアスは瞑目してから頷いた
「――――分かったわ。ゼノヴィア、あなたも新に似てきたわね。さあ、行くわよ!」
改めてグレモリー眷属は出撃の旗を上げた
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魔王領にある冥界(悪魔側)の首都リリス
日本の首都東京とほぼ同じ面積を持ち、高層ビル群が建ち並び交通機関も発達した都会
今その首都は危機に直面していた
その危機とは無論、この首都に向かっている『超獣鬼(ジャバウォック)』だった
もし『超獣鬼(ジャバウォック)』が到達すれば首都は壊滅的打撃を受けて機能を失い、冥界の各所にも影響が出てしまう
現在はルシファー眷属――――グレイフィアを始めとするサーゼクスの眷属達が『超獣鬼(ジャバウォック)』の相手をしていた
悪魔の中でも最強と称される眷属
戦況は今のトコロ五分のようで、足止めには成功している
地形を丸ごと変化させる勢いを持った魔力の波動で『超獣鬼(ジャバウォック)』を静止させていた
しかし、それでも打倒には届かない……
神風のブラックウィドーズと旧魔王シャルバ・ベルゼブブの怨恨が混ざった怪物はそこまでの堅牢さと力を有していた
だが、ルシファー眷属の足止めのお陰で都民の避難はほぼ完了し、シトリー眷属などの若手悪魔は残された人々がいないかどうかを確認する為に派遣され、サイラオーグ・バアルは首都で暴れている旧魔王派と闇人を討伐している
グレモリー眷属とイリナは城の地下にある大型転移魔方陣からジャンプを続けて首都の北西区画に出た
因みにレイヴェルは客分なので戦闘に介入させてはならないらしく、グレモリー城で待機している
ジャンプで辿り着いたのは区域の中で一番高い高層ビルの屋上
そこからシトリー眷属に追いつこうとした時、リアス達を呼び止める者がいた
「み、皆さん!よ、良かった!ここにいれば皆さんが来るって堕天使の方々に言われたんですけど、来なくて寂しかったんですぅ!」
涙目のギャスパーだった
ようやくギャスパーも合流し、グレモリー眷属は一誠を待つだけとなった