ゴオッ!
剣護は全身からオーラによる波動を出して2人を吹き飛ばし、『灼熱の邪聖剣(デスカリバー・イグニッション)』を振るって炎の津波を出現させる
ゼノヴィアとイリナは炎の津波に飲み込まれ、全身を焼かれてしまう
路面や倒壊した建造物の破片に炎が燃え移り、辺り一面が火の海と化す
炎の中で佇む禁手(バランス・ブレイカー)ドラゴン――――神代剣護はズンズンとゼノヴィアのもとへ歩み寄り、彼女の焼け焦げた背中を踏みつけた
「分かったか?ゼノヴィア、イリナ。俺は自分の為に強さを手に入れた。俺が神に成り代わって腐りきったこの世界を変えてやる。強い存在を常に崇め、大いに称える世界にな。その目的を果たす為なら俺の両腕両足も犠牲にする。そして……神になる俺に跪かない異端者は全員殺す。これこそが未だに死んだ神を信仰しているお前らの望んでた世界だろ?」
グリグリとゼノヴィアの背中を痛めつける剣護
ゼノヴィアとイリナは歯を食い縛って体を起こし、歪み過ぎた考えを持つ剣護に猛反論した
「違う……違うッ!剣護さんはただ……あなたが認められる世界を作ろうとしているだけだ!自分の意に背く者を殺して、自分が満足する世界を作ると言う自己顕示欲を満たそうとしているだけだ!」
「自分勝手な思いで神にならないで……!信仰心を無くした上、大勢の人々を巻き込んだあなたにそんな資格は無いわ!」
「ハッ!力の無い奴が何を言っても説得力に欠けるぜ。アーシア・アルジェントを異端者扱いした上に、斬り殺そうとした奴がよぉ。知ってるぜ?ディオドラ・アスタロトって悪魔を治癒したから『魔女』や『異端者』って烙印を押され、更に闇人に殺されてから悪魔に転生したんだってな?そしてエクスカリバーの件で駒王学園に行き、未だ信仰心を捨ててないその『異端者』を蔑み、挙げ句殺そうとした。お前らも今の俺と同じ様な事をしてんじゃねぇか」
ゼノヴィアとイリナは自分達が駒王学園でアーシアにしようとした行為を掘り返されグゥの音も出なくなってしまう
事実だけに否定は出来ず、かつての自分達も他の者逹同様にアーシアを異端者扱いして殺そうとした
同じ穴のムジナと言っても過言ではない……
「まぁ、神に成り代わる俺にとっちゃ不要なんだけどな。お前らを灰にした後でさっきの場所に戻り……お前らが殺そうとしたアーシア・アルジェントを俺が殺してやるよ。悪魔のくせに神を信仰する奴は異端者なんだろ?だったら――――ちゃんと断罪してやらねぇとな」
「「―――――ッ!」」
剣護の台詞を聞いてゼノヴィアとイリナの中に耐え難い怒りが沸き上がってくる
得物を地に突き刺し、それを杖代わりにして体を起こそうとする
剣護は起きようとしたゼノヴィアを蹴り飛ばすが、それでも彼女は体を奮わせて立ち上がった
「アーシアに……私達の友達に手を出すなッ!たとえ剣護さんでも許さないッ!」
「友達?信仰心にそんな物はいらないんじゃなかったのか?呆れた奴らだ」
「今の剣護さんには分からないわ!友達と、仲間と一緒に進んできたから私達はあなたに追いつく事が出来たのよ!その想いを踏みにじるようなら……私もあなたを許さないッ!」
「必要無い物をいらないと言って何がおかしい?やはり俺が神に成り代わる世界に――――お前らもいらないな」
剣護は『灼熱の邪聖剣(デスカリバー・イグニッション)』にありったけの力を注ぎ、刀身から放たれるオーラと熱量が更にアップする
黒い火柱が立ち上ぼり、渦を描きながら下降する様に全ての火力とオーラが邪聖剣の刀身に吸収されていく
灼熱を帯びた『灼熱の邪聖剣(デスカリバー・イグニッション)』の切っ先がゼノヴィアとイリナに向けられる
「コイツでトドメだ。ゼノヴィア、イリナ。黒き太陽の力で滅びろ」
一歩一歩2人に近付いていく禁手(バランス・ブレイカー)ドラゴン
邪聖剣から揺らめく熱気が地を溶かし、建物や公共物も溶かす
ゼノヴィアとイリナも得物を構えるが、力の差は歴然
それでもやらなければならない……
「「剣護さん!あなたを止めてみせるッ!」」
ゼノヴィアのエクス・デュランダル、イリナの量産型聖魔剣から聖なるオーラが勢い良く噴出され、2人は両翼を広げながら前に飛び出した
「正面からか。元上司のよしみだ。お前らの最期を盛大に飾ってやるよォッ!」
「死ぬ気は無い!私達は生きてあなたに勝つ!部長逹のもとに、仲間逹のもとに帰るッ!」
「仲間逹が待ってるから――――私達は負けられないッ!」
ガキィィィンッ!
鈍い金属音が鳴り響く
ゼノヴィアとイリナは剣護の遥か後方を飛び、2人のいる方角を向いた剣護の腹には一筋の傷が付いた
しかし、それは致命傷には至らず……剣護は炎のカマイタチを複数放った
「この禁手(バランス・ブレイカー)の鱗に傷を付けたか。だが、こんなもんじゃ殺られねぇよ。それに――――」
ブシュゥッ!
ゼノヴィアとイリナの肩から鮮血が迸り、2人は痛みに顔を歪めて傷口を押さえる
ぶつかり合う瞬間に斬りつけたのだろう
「お前らの攻撃なんざ防御する必要も無い。邪聖剣と言えど元は聖剣、特に悪魔となったゼノヴィアには大敵になるってこった。痛みは増していき……やがて死ぬ」
「し、死ぬつもりは無いと言った筈だ……ッ!」
2人は再び滑空しながら剣護に斬りかかっていく
肉体の限界までスピードを上げ、周りを飛び交いながら堅牢な鱗を攻撃する
剣護の邪聖剣を回避するも、何度かは攻撃を食らってしまい体中に痛みが走る
しかし、ゼノヴィアとイリナは恐れず、怯まず、絶え間無く剣護に立ち向かっていった
「……ッ!な、何なんだコイツら!攻撃する度に威圧感が増してやがる……!?俺の邪聖剣を食らっている筈だぞ!何故こんなに動けるんだ!?あんな無駄に動けば体力と気力が著しく低下していくってのに……何故だ!?」
剣護に初めて焦りが生じ、同時に2人の剣撃によって付けられた亀裂も次第に広がっていく
ゼノヴィアとイリナは確実に剣護を追い詰めている
待っている仲間逹のもとに帰る為、眼前の元上司を止める為……そして超える為
様々な想いの交差がゼノヴィアとイリナを前に前に進ませている
天涯孤独かつ道を外れた剣護には決して理解出来ない力が――――今の2人にはある
ふとゼノヴィアとイリナの目に涙が浮かび始める
「剣護さん、小さい頃の私達はあなたの背中ばかり見て……あなたを追い掛けてきました」
「あなたが行方不明になってから……私達は誰をお手本に強くなっていこうと考えました」
「いつか、いつかあなたと再会した時に……私達は胸を張って言える様にしてきました」
「強くなって、友達を、仲間を作れて……」
「「私達はここまで成長し、あなたに追いつく事が出来ましたと――――!」」
ゼノヴィアとイリナの剣撃に弾かれ、後方に大きく下がる剣護
怒りに体を震わせ、天に向かって大きく咆哮を上げた
「黙れ!黙れ!黙れ黙れ黙れッ!黙れェェェェェェェェェェェェェェェッ!何が仲間だッ!お前らはそんなもん必要無いって言ってただろうが!」
「確かに昔はそうでした!でも、新やイッセー、部長、アーシア逹と出会って変われたんです!」
「一緒に戦って、一緒に笑って、一緒に泣いて、友達や仲間が本当は素晴らしい物だって、かけがえの無い物だって痛感しました!だから、私達はそれを守りたい!剣護さん、あなたにはいますか?一緒に笑ってくれるヒトが!一緒に助け合ってくれる仲間が!」
「強い力がある奴に――――そんな物は必要無い!いたとしても邪魔なだけだ!神に成り代わる俺に……仲間なんざ必要ねぇんだよッ!この『灼熱の邪聖剣(デスカリバー・イグニッション)』で跡形も無く消え失せろォォォォォォォォォォォォォッ!」
咆哮を上げる剣護は2人に向かって飛び出していき、ゼノヴィアとイリナも前に飛び出していった
振り下ろされる3本の剣
それぞれがぶつかり合い、巨大な火花、閃光、衝撃を生み出した
ゼノヴィアとイリナは得物を握る両手に全力を注ぎ、聖なるオーラを更に高める
やがてオーラは戦場一帯を包み込み、他者からは何も視認出来ないような状況を作った
ビキ……ッ
亀裂音……剣護の『灼熱の邪聖剣(デスカリバー・イグニッション)』にとうとうヒビが入ってきた
それを見た剣護は絶句、傷口のヒビも広がっていく
「バ、バカな……ッ!『灼熱の邪聖剣(デスカリバー・イグニッション)』が!外法を使った禁手(バランス・ブレイカー)が!俺の力が!何故だ!?何故俺の力が負けようとしているんだ!?俺は神に成り代わる男だ!こんな奴らに殺られるなんて事は――――あってはならねぇんだァァァァァァァァァァァァァッ!」
剣護は必死に邪聖剣と全身に力を入れるが、それは亀裂を無駄に広げるだけだった
ゼノヴィアとイリナの剣が少しずつ押していき――――
「「今のあなたでは――――神になれませんッ!」」
『灼熱の邪聖剣(デスカリバー・イグニッション)』ごと禁手(バランス・ブレイカー)ドラゴンにして自分逹の元上司――――神代剣護を斬り払った
『灼熱の邪聖剣(デスカリバー・イグニッション)』は砕け、剣護の体の全面に2つの刀傷が付けられ、禁手(バランス・ブレイカー)が強制的に解除される……
口と傷から血が飛び散り、剣護は荒れ果てた路面に倒れた
「…………ここまで、強くなったのかよ。ゼノヴィア……イリナ……」