小説『ハイスクールD×D〜闇皇の蝙蝠〜(第二部)』
作者:サドマヨ()

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≪深淵の闇と英雄(ヒーロー)の予感≫


サイラオーグと大牙がヘラクレス、メタルの両者を倒し、朱乃・渉・祐希那がジャンヌと戦っている中――――残る相手は『絶霧(ディメンション・ロスト)』を使うゲオルクだけとなっていた

遠目で極大の雷光と氷柱、魔力が高層ビル群の間で暴れているのが見え隠れする

未だにジャンヌとの交戦は続いているようで、その理由はジャンヌが『魔人化(カオス・ブレイク)』を使用したからであろう

予想以上の長期戦となっていた

一方で祐斗側はサイラオーグ、大牙も加わって相当な戦力

ゲオルクが『魔人化(カオス・ブレイク)』を使用したとしても勝機は充分にある

ゲオルクがメタルによって捨てられ倒れているヘラクレスを一瞥して笑む

「強い。これが現若手悪魔と闇人の『二代目キング』か。バアルのサイラオーグ、蛇神皇の蛟大牙、そしてリアス・グレモリーが率いるグレモリー眷属。まさか、先日会ったばかりなのに力を増してくるだなんて……。この調子では、そちらの猫又やヴァンパイアも得ている情報通りにはいかないか」

小猫とギャスパーに視線を送るゲオルク

先日の疑似空間の戦いから小猫は特に目立った強化は無かったが、これから姉の黒歌より仙術と妖術を習う

今まで軋轢があった姉から教わる程なので、小猫の決意は強く揺るがないモノである

一方、ゲオルクから視線を向けられたギャスパーは表情を青ざめさせていた

「……ギャスパー、どうかしたの?」

ギャスパーの様子に気付いたリアスは怪訝そうにしていると、ギャスパーは次第に表情を崩していき、ポロポロと涙を流し始めた

「……すみません、皆さん。……僕……僕!グリゴリの研究施設に行っても……強くなれなかったんです!」

ギャスパーの告白にこの場にいる全員が驚いた

ギャスパーは嗚咽を漏らしながら自分の現状を吐露する

「皆さんのお役に立ちたかったから……強くなりなかったのに!……今のままではこれ以上は、強くなれないって言われて……僕は女の子も守れない……グレモリー眷属男子の恥なんです……っ!」

グリゴリでも強化に至れず、その場で泣き崩れるギャスパー

そんなギャスパーを見てゲオルクがつまらなさそうに息を吐く

「亡き赤龍帝もこの後輩の情けない姿を見たら浮かばれないだろう」

ゲオルクが発した一言を聞いたギャスパーは顔だけ上げ、キョトンとした様子で呟いた

「……亡き……赤龍帝?」

一誠がここにいない理由を知らないギャスパーは周囲を見渡す

「……イッセー先輩は……?イッセー先輩がここにいないのは、あの大きな怪物を止めに行っているからじゃないんですか……?」

「ギャスパー、イッセーは――――」

真相を知らないギャスパーにリアスは告げようとするが、サイラオーグが視線を配らせて首を横に振った

リアスもそれを確認して言いかけた口を閉ざす

敢えて真実(一誠は実は死んでいない)を教えないと言う態度に祐斗は目を細め、そのやり取りに気付いていないゲオルクは口元を笑ましてギャスパーに話し始めた

「そうか。キミはまだ知らなかったのか。赤龍帝は旧魔王の――――いや、今更言い訳をしても仕方無い。俺達『禍の団(カオス・ブリゲード)』と戦い、戦死した。究極の龍殺し(ドラゴンスレイヤー)とされるサマエルの毒を受けて、だろう。まあ、俺達もその場にいた訳ではないから詳しい死因は分からないが、あの赤龍帝が死んだとするなら、それだ」

意気揚々と話しているが、英雄派はまだ一誠が次元の狭間で魂のみの状態で存在する事を知らない

普通ならサマエルの毒をくらったドラゴンは死ぬ――――それを前提に踏まえている

ゲオルクの言葉は続き、それを聞けば聞く程ギャスパーの表情が死んでいく

「悔やむ事は無い。あのオーフィスと白龍皇ヴァーリですらサマエルに打倒されたのだから。如何に赤龍帝だろうと、あの呪いには打ち勝てない」

そう告げた後にせせら笑うゲオルク

「……イッセー先輩が……死んだ……?」

呆然とするギャスパーの頬を一筋の涙が伝う

全身が震え、視線も朧気になり、顔を伏して沈黙を続けた

少し前の祐斗達と同じ感情――――絶望がギャスパーを襲っている

あまりの光景にいたたまれなくなり、同期の小猫が近寄ろうとした時だった……

ギャスパーはふらついた体と伏せていた顔を徐々に上げるが、表情は感情が宿っておらず抜け殻の様な状態だった

ゾクリ……

祐斗の背筋に冷たい何かが駆け抜ける

ギャスパーは小さく口を開き、一言だけ呟く

それは低く、この世のモノとは思えない呪詛めいた一言だった

(――――死ね)

その瞬間、一瞬で今いる区域全てが暗黒に包まれた

地面、空、景色、その全てが暗闇に包まれていく

暗く、冷たく、一筋の光さえ見えない程の闇……

ギャスパーの体から滲み出た暗黒が周囲を全て黒く染め上げていった

「……何だ、これは……ッ!」

突然の現象にゲオルクは驚き、周囲を見渡すが……周りにいる者以外の全ては漆黒の闇に変貌していた

「……暴走?禁手(バランス・ブレイカー)……?いえ、これは違う!ヴァンパイアの力……?でも、これはあまりにも……桁違いな……ッ!」

魔法に秀でているロスヴァイセも、この光景に驚くばかり……

誰も今までこんな現象は見た事無い上に、禁手(バランス・ブレイカー)ではない事も理解出来る

暗黒の領域と化した中央で闇に包まれた人型が異様な動きをしながらゲオルクに近づいていく

首をあらぬ方向に折り曲げ、肩を痙攣させ、足を引き摺りながらゲオルクとの間合いを詰めていく

人型の双眸(そうぼう)は不気味に赤く鈍く輝いていた……

(コロシテヤル……ッ!オマエラ全員、僕ガ殺シ尽クシテヤル……ッ!)

発された声はギャスパーの声ではなく、呪詛、怨嗟、怨念と言ったモノが全て含まれた危険な声だった

サイラオーグが目を見開いて言う

「……赤龍帝の死と言う切っ掛けがあれば化けるのではないかと踏んでいた。ギャスパー・ヴラディが屈辱に塗(まみ)れる男の目をしていたからだ。何か吹っ切れる事柄が被さればグリゴリでも解放出来なかった物が解き放たれると思ったのだ。あの総督の組織が単純に力を目覚めさせられなかったと言うのは考えられないからな」

サイラオーグの言う通り、数々の研究を行い、成果を出しているグリゴリが何も出来なかったと言うのは信じ難いモノ

何かに目覚めつつあるが、その切っ掛けが見つからなかった――――そして、たった今切っ掛けが見つかり、ギャスパーの真価が爆発した

サイラオーグは眉間を険しくしながらリアスに言った

「リアス、ギャスパー・ヴラディの内に眠っていた物は――――俺達の想像を遥かに超える物だったようだ。これは――――バケモノの類だ。……お前は、いったい何を眷属にした……?」

「ヴァンパイアの名門ヴラディ家がギャスパーを蔑ろにしていたのは停止の邪眼ではなく、これを知っていたから……?恐怖から……城と離れさせた……?」

リアスは声を震わせながらそう漏らす

黒い闇の化身となったギャスパーが手らしきものを突き出した

ゲオルクが直ぐに反応して魔方陣を展開するが――――その魔方陣は闇に喰われていく

「……ッ!何だ、これは!魔法でもない!神器(セイクリッド・ギア)の力でもない!どうやって我が魔方陣を打ち消した!?」

闇の威力に驚愕するゲオルクは距離を取って無数の攻撃魔方陣を宙に展開した

あらゆる属性と魔法術式が入り乱れたフルバーストがギャスパーに降り注ぐ

まともに受ければ大ダメージは必須だが……暗黒の世界に無数の眼が縦横無尽に出現して妖しい輝きを放った

その瞬間、撃ち出された無数の攻撃魔法は全て空中で停止する

ギャスパーが持つ停止の邪眼で魔法は軽々と停められ、闇に喰われていく

ゲオルクはその結果に驚き、徐々に顔色が恐怖に支配されていく

歩みを再開した暗黒の化身

現世の生物とは思えない異様な存在感と動きで少しずつゲオルクに近づいていく

ゲオルクは手元に霧を集めていった

神滅具(ロンギヌス)『絶霧(ディメンション・ロスト)』の力で切り抜けようとするつもりだろう

ゲオルクの操る霧がギャスパーを包み込もうとするが、その霧も闇に喰われていった

(……喰う……くう……クウ……喰ってヤッた……おマエの霧モ魔法も……効かナイぞ……。全部、クッてやっタぞ……)

もはや口調すら一致しておらず、別次元の存在と化したギャスパー

上位神滅具(ロンギヌス)の霧でも制する事が――――否、既に相手にすらなっていないと言った方が正しい

これだけのスペックがギャスパーの中に隠されていた

バアル戦での一戦が劇的に変え、一誠の死と言う情報が引き金となって溢れた闇の化身

『……イッセーくん、もしかしたら、グレモリー眷属の男子で一番の成長株はギャスパーくんかもしれないよ……。これは……この姿は常軌を逸していると言うレベルではない……』

祐斗も畏怖する中、ゲオルクは思いつく限りの魔法と霧の能力をギャスパーに放つが、それらも闇に喰われたり、無数の眼によって停止されていく

霧で結界空間を作ろうとしても悉く闇に喰われて成形が失敗に終わる

ゲオルクの周囲の闇が蠢き、獣のようなモノに形作られていく

しかし、闇から生まれた獣達はどれも正しい姿をしていなかった……

1つ目の狼、5枚の翼を持つ巨鳥、顔に口が2つ付いているドラゴン、足が20本以上ある蜘蛛と――――生来の生物を逸脱したフォルムだった

「くっ!我が霧が……ッ!魔法が効かぬ……ッ!何だ、こいつは!いったい、何だと言うんだ!?」

ゲオルクの表情は既に絶望一色しかなかった

戦いはどう見てもギャスパーの圧勝――――否、もう勝負とは言えない圧倒的な蹂躙だった……

「……これがギャーくんの本当の力……」

小猫は呆然と眺め、ただそう絞り出すしかなかった

「くっ……一時引くしかない!」

ギャスパーの闇の正体とスペックを測りきれず諦めたゲオルクは転移用魔方陣を足下に出現させる

ゲオルクの体が魔方陣の輝きに包まれ飛ぼうとする瞬間、黒い炎が現れ絡みつく

祐斗がふいに倒れていた匙の方に振り返る

匙は意識を取り戻し、上半身だけ起こしてゲオルクを睨み付けていた

「……逃がさねぇよ。お前ら、俺のダチを殺ったんだ。――――ただで済む訳ねぇだろ!」

ドスの利いた声音で手を突き出す匙

黒い炎が大蛇のシルエットを作りながらゲオルクを包み込んでいく

黒き龍王ヴリトラの黒炎は相手の命が尽きるまで燃え盛り絡み付くと言われている

ゲオルクは懐からフェニックスの涙が入った小瓶を取り出したが、その小瓶も呪いの黒炎に飲み込まれていく

「……ヴリトラの……呪いか……ッ!」

解呪に成功したと思われた黒炎は消えておらず、声を絞り出すゲオルク

そのゲオルクに闇から生み出された異様な獣達が襲いかかっていく……

上位神滅具(ロンギヌス)を所有する絶大な魔法使いは――――闇に静かに喰われていった

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