≪神風超魔身≫
「あのオーフィスですら、サマエルの前では何も出来ないじゃないか。サマエルだけがオーフィスにとっての天敵だった。俺達の読みは当たってたって事だ」
赤龍帝、白龍皇、堕天使総督、闇皇と4人の強者を退けた曹操は槍を肩に乗せて言う
オーフィスを包んでいる黒い塊は、未だにオーフィスから何かを吸い上げている様子だった
「えーと、これであと何人だ。赤龍帝、闇皇、白龍皇、アザゼル総督を倒した今、大きな脅威は無くなったかな。あとは聖魔剣の木場祐斗、ミカエルの天使とルフェイ、『チェス』の1人と言ったところか?」
曹操は残りの敵に視線を移していくが、唯一気になったのが『初代キング』が動かずにいる事だった
何かを企んでいるのか、サマエルを前に手を出せないのか……曹操は警戒していた
一方、ルフェイは曹操の圧倒的な力にどう出ていいか分からず、イリナは光の剣を構えたまま怒りの涙を流す
「……よくも!ゼノヴィアを!イッセーくんを!私の仲間をッ!」
「ダメよ、イリナ!闇雲に出れば殺される!」
リアスが今にも飛び出していきそうなイリナを押さえた
「あの七宝と言う物をどうにかしなければ、攻撃は全てカウンターとしてこちらに返ってくるわ。7つの球体はどれも同じ大きさと形をしているから、何が飛んでくるか読みにくい上に複数で来られたら対応も極めて難しくなる。能力を同時に発動されたら……。次の手がここまで読みにくい能力に出会ったのは初めてだわ。それらを意図して能力を発現させたとしたら恐ろしいまでの鬼才。――――イッセー達をあれだけ軽々と屠れる相手よ。気がおかしくなるぐらいに私達を研究し尽くしてきた強敵だわ……ッ!」
「……………………ッ!」
体を震わせ、両足と腹の痛みに耐えながら再び曹操に剣を向ける新
歯軋りを強め、傷と出血を顧みずに立ち上がる
ゼノヴィアの回復を終えたアーシアが一誠に駆け寄るが、一誠は重傷の黒歌を治す様に告げる
アーシアは一瞬当惑したが、コクリと頷いて黒歌の所に行く
曹操は勝利を確信したのか、追撃をしようとしなかった
「そ、曹操……ッ!」
「おや、まだ戦えると思っているのか?闇皇」
「勝てるなんて贅沢はしねぇよ……ッ!ただ、一太刀でも与えてやらねぇと、仲間をやられた憤りは治まらねぇんだ……ッ!」
新が斬り掛かっていくと、祐斗とダイアンもそれぞれの得物で曹操に向かって飛び出す
闇皇剣、聖魔剣、仕込み刀の斬撃を曹操は聖槍で難なく受け止める
「あなたは強過ぎる!しかし、一太刀ぐらい入れたいのが剣士としての心情だっ!」
「俺も同じDA!俺の親友をやりやがっTE!」
「良い剣だ、2人とも。木場祐斗はジークフリートに届きうる才能か。正直言うと、俺との相性で一番無難に戦えるのはキミだ。強大なパワーは無いが、どんな状況でも臨機応変に振る舞える聖魔剣は特性を突き詰めれば非常に厄介になる。――――だが、成長途中の今のキミなら難なく倒せるさ」
曹操が聖槍を横薙ぎに振るい、3人は直ぐに後方に飛び退いた
祐斗は聖魔剣を聖剣にシフトチェンジし、龍騎士団を出現させて曹操の方に向かわせた
「新しい禁手(バランス・ブレイカー)か!是非見せてくれ!良いデータとなる!」
狂喜する曹操は7つの球体を自在に操って龍騎士団を破壊していく
ダイアンはその隙に仕込み刀を三ツ俣の槍に収納して、再び居合い――――『牙流転生』の構えを取る
ただし……今度は1回だけじゃなく、何度も何度も抜刀した上に飛ばした刀身の軌道を変えながら
ホーミング力を増した刀身は縦横無尽に飛び回り、曹操に襲い掛かる
質より量、先程の攻撃を転移させる七宝を使わせないように多方面からの斬撃に切り替えた
曹操もその事を察知し、球体群を駆使して飛来してくる無数の刀身を砕く
そこで新はトンでもない攻撃方法を実行した
―――自ら刃の群れに飛び込み、そのまま曹操のもとに直進していく―――
闇皇の行動に誰もが驚愕し、リアスと朱乃は叫んだ
「新!闇雲に出れば殺されるって、さっき言ったじゃない!無謀よ!」
「新さん!そんな無茶をしたら、ますます傷が!」
「そんな事は覚悟してるし、現状じゃあ少しでも無茶しねぇと――――この男には届かねぇんだよッ!」
全身の至る箇所に刀身が掠(かす)るのも意に介さず、新は曹操に一撃を与えると言う目的を脳裏に刻み込んで直進を続ける
曹操も闇皇の策に気付いたのは良いが、次々と降り掛かってくる刀身の対処で手が回らない
距離を詰めた新が決死の斬撃を繰り出した
「――――――ッ!」
ドゴッ!
刹那――――球体の1つが背中に食い込み、強烈な衝撃が走る
前のめりに倒れそうになる新……しかし、当人は一歩強く踏んで曹操に剣を突き立てようとした
「なっ!」
ザシュ……ッ!
闇皇剣で突いた新
しかし、決死の突きは曹操の頬を掠めただけと言う非常に残念な結果しか果たせなかった……
曹操は直前で躱したものの、背中に冷や汗が滲む
「……少ししか、届ねぇってか……ッ。くそったれ……!」
今の自分の不甲斐無さを呪う新の腹に曹操の蹴りが打ち込まれた
ダイアンも連続で『牙流転生』を放った消費は凄まじく、激しい息切れを起こして攻撃の手が止まる
祐斗は再び龍騎士団を具現化して曹操の注意を逸らし、重傷の新を回収させた
まともに動ける強者は祐斗だけ……
「……玉砕覚悟の攻撃か。闇皇から今までに無い気迫を感じ取れたよ。流石に冷や汗をかいてしまったが、平静じゃなかったのが仇となった」
曹操は唯一戦えそうな祐斗に向けて槍を構えるが……直ぐに頭を振って槍を下ろした
「――――やるまでもないか。直ぐに特性は理解出来た。速度はともかく、技術は反映出来ていない状態だろう?良い技だ。そっちの闇人もなかなかの剣技だったよ。お互い、もっと高めると良いさ」
そう断ずる曹操に、祐斗とダイアンは屈辱にまみれた憤怒の形相となる
仲間を死守するつもりで剣を構えたのに、相手はそれを意にも介さない
剣士としての誇りを泥だらけの足で踏みにじられた屈辱と心中は計り知れないモノだ
床に突っ伏している一誠も、友をバカにされた事に心中でキレた
「どれだけ取れた?」
「4分の3強程だろうな。大半と言える。これ以上はサマエルを現世に繋ぎ止められないな」
そう漏らすゲオルクの後方でサマエルを出現させている魔方陣が徐々に輝きを失っていく
ゲオルクの報告を聞いて曹操は頷いた
「上出来だ。充分だよ」
曹操が指を打ち鳴らした途端、オーフィスを包んでいた塊が四散していき、繋がっていた舌もサマエルの口に戻る
究極の龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)は苦悶に満ちた呻き声を発しながら魔方陣の中へ消えていった
一方、塊から解放されたオーフィスは以前と変わらぬ姿でいる
オーフィスは曹操に視線を向けた
「我の力、奪われた。これが曹操の目的?」
その言葉に全員は驚愕、曹操は愉快そうに笑む
「ああ、そうだ。オーフィス。俺達はあなたを支配下に置き、その力を利用したかった。だが、あなたを俺達の思い通りにするのは至難だ。そこで俺達は考えを変えた。あなたの力を頂き、新しい『ウロボロス』を創り出す」
曹操が聖槍の切っ先を天に向けて言い、意図を察した神風が笑う
血を吐きながらアザゼルが曹操の意図を述べた
「――――ッ!……そうか!サマエルを使ってオーフィスの力を削ぎ落とし、手に入れた分を使って生み出す――――。……新たなオーフィスか」
「その通りですよ、総督。我々は自分達に都合の良いウロボロスを欲したわけだ。グレートレッドは正直、俺達にとってそこまで重要な存在でもなくてね。それを餌にご機嫌取りをするのにもウンザリしたのがこの計画の発端です。そして、『無限の存在は倒し得るのか?』と言う英雄派の超常の存在に挑む理念も試す事が出来た」
「キヒヒッ。お見事だね♪無限の存在をこういう形で消したんだ〜?」
「いや、これは消し去るのとはまた違う。やはり、力を集める為の象徴は必要だ。オーフィスはその点では優れていた。あれだけの集団を作り上げる程に力を呼び込むプロパガンダになったわけだからね。――――だが、考え方の読めない異質な龍神は傀儡にするには不向きだ」
「……人間らしいな。実に人間らしい嫌らしい考え方だ」
「お褒めいただき光栄の至りです。堕天使の総督殿。――――人間ですよ、俺は」
曹操はアザゼルの言葉に笑みを見せ、ゲオルクが満身創痍の新達に視線を移す
「曹操、今ならヴァーリと兵藤一誠、竜崎新をやれるけど?」
「そうだな。やれる内にやった方が良いんだが……。三者ともあり得ない方向に力を高めているからな。将来的にオーフィス以上に厄介なドラゴンとなるだろう。だが、最近勿体無いと思えてなぁ……。各勢力のトップから二天龍と闇皇を見守りたいと言う意見が出ているのも頷ける。――――今世に限って、成長の仕方があまりに異質過ぎるから。それは彼らに関わる者も含めてなんだが……データとしては極めて稀な存在だ。神器(セイクリッド・ギア)に秘められた部分を全て発揮させるのは案外俺達じゃないのかもしれない」
曹操はそこまで言って禁手(バランス・ブレイカー)を解除した
「やっぱり止めだ。ゲオルク、サマエルが奪ったオーフィスの力は何処に転送される予定だ?」
「本部の研究施設に流すよう召喚する際に術式を組んでおいたよ、曹操」
「そうか。なら次は闇人の手並みを拝見させてもらおうか」
踵を返して下がろうとする曹操に、ヴァーリが血を流しながらも問う
「……曹操、何故俺を……俺達を殺さない……?禁手(バランス・ブレイカー)のお前ならばここにいる全員を全滅出来た筈だ……。女の異能を封じる七宝でアーシア・アルジェントの能力を止めればそれでグレモリーチームはほぼ詰みだった」
「作戦を進めると共に殺さず御する縛りも入れてみた……では納得出来ないか?正直話すと聖槍の禁手(バランス・ブレイカー)はまだ調整が大きく必要なんだよ。だから、この状況を利用して長所と短所を見極めようってね」
「……舐めきってくれるな」
「ヴァーリ、それはお互い様だろう?キミもそんな事をするのが大好きじゃないか」
曹操が自身に親指を指し示して言う
「赤龍帝の兵藤一誠、闇皇の竜崎新。何年掛かっても良い。俺と戦える位置まで来てくれ。将来的に俺と神器(セイクリッド・ギア)の究極戦が出来るのはキミ達2人とヴァーリを含めて数人もいないだろう。――――いつだって英雄が決戦に挑むのは魔王か伝説のドラゴンだ」
曹操のあまりに堂々とした挑戦状に、新と一誠は必ず追い付く事を決意した
曹操がゲオルクに言う
「ゲオルク、死神(グリムリッパー)の一行さまをお呼びしてくれ。ハーデスは絞りカスのオーフィスの方をご所望だからな。……それと、ヴァーリチームの者がやってみせた入れ替え転移、あれをやってみてくれ。俺とジークフリートを入れ替えで転移出来るか?あとはジークフリートに任せる」
「一度見ただけだから、上手くいくか分からないが、試してみよう」
「流石はあの伝説の悪魔メフィスト・フェレスと契約したゲオルク・ファウスト博士の子孫だ」
「……先祖が偉大過ぎて、この名にプレッシャーを感じるけども。まあ、了解だ。曹操……それとさっき入ってきた情報なんだが……」
ゲオルクが何やら険しい表情で曹操に紙切れを渡し、それを見た曹操の目が細くなっていく