小説『ハイスクールD×D〜闇皇の蝙蝠〜(第二部)』
作者:サドマヨ()

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「ま、死神がここに来たって事は、ある程度オーフィスの抵抗を想定しての事だろう。それに今のオーフィスは無限じゃない。有限だ。あちらはサマエル以外でオーフィス封じの策があるだろうさ。俺達が依然として慎重になるのは当然だな。ルフェイ、お前さんは黒歌と同様、空間に関する魔法に秀でていたな?どうにかして外に助けを呼ぶ術は無いものか?もしくは少人数だけでもここから抜け出させる事の出来る方法とかよ」

「ある事はあります。――――ですが、黒歌さんが倒れた今、私だけでは限界があります。私と共にこの空間を抜け出る魔法がありますが……共にこの場から離れられるのは3人が限界だと思われます。一度ヴァーリ様とフェンリルちゃんの入れ替え転移をしたので、あれからここの結界は強固になっているでしょうから。入れ替え転移をもう一度行うのも恐らく無理でしょう。ゲオルク様はこちらの術式をある程度把握したと思われますので。とっておきの転移魔法をしたとしても、チャンスはあと一度だけです」

脱出はできるが、ルフェイを4人且つチャンスは一度のみと難易度が高かった

一誠は「死神と戦いながらオーフィスを逃がすんですか?」と問うが、アザゼルは首を横に振る

「それは無理だ。さっきのオーフィスの話ではこの空間はオーフィスを捕らえる特別な結界のようだ。どうやって生み出したか是非ともご教授願いたいところだが、オーフィスだけは脱出できないだろうな。結界をどうにかして破壊して共に脱出するしか無い」

「それと死神は想像以上に危険じゃ。死神の持つ鎌に斬られるとダメージを受けるだけではなく、生命力まで刈り取られるぞ。攻撃を受け続ければ、いずれ寿命が尽きて死ぬ」

「それにオーフィスだって今は有限だ。鎌に斬られ続ければ弱ってしまうだろう。オーフィスは死守しなければならない。『初代キング』もだ。あの神風ってガキが何しでかすか分からん。こいつらの力をこれ以上他に流出させたら、問題はもっと肥大化する。特に相手があのハーデスならな。かと言って、外に助けを呼びに行くメンバーは出した方が良い」

結界を破壊するにしても脱出するにしても死神に気を付け、更にオーフィスを奪われないようにしなければならない

アザゼルの視線がイリナとダイアンを捉える

「――――イリナ、ダイアン、お前らだけは先に行け。行ってそれぞれサーゼクスと天界、『二代目キング』に英雄派の真意とハーデス、神風のクーデターを伝えろ」

「OK。『二代目キング』と『二代目クイーン』にも救援を頼んでくるZE。ある程度予測していたらしいかRA、今は準備を整えている筈DA」

「で、でも!先に出るのはレイヴェルさんの方が良いと思います!」

食い下がろうとするイリナにアザゼルは間髪入れずに告げる

「レイヴェルは脱出できたとしても自分を優先しなくても良いとさっき言ってきた。――――俺達の方が基本的に不利だ。あいつらは確実にオーフィスとヴァーリ、そしてイッセーと新を葬りに来る。奴らにとって、龍神と二天龍、闇皇は消しておきたいものなんだよ。こっちのオーフィスをハーデスに悪用されたら、この世界に何が起こるか分からん!」

アザゼルの言葉にイリナは何か言いたげだったが、吐き出しそうになった言葉を飲み込んで頷いた

最後まで一緒に戦いたかったのだろうが、今の自分の立場と役目を理解してくれた様子

次にアザゼルはゼノヴィアに視線を移した

「護衛としてゼノヴィアも連れていけ。エクス・デュランダルの機能をやられてしまったが、デュランダル自体はまだ何とか使えるだろう。結界の外で英雄派の構成員か、死神が待機している可能性があるからな」

アザゼルが言うようにエクス・デュランダルは破壊されており、鞘と化していたエクスカリバーの部分は聖剣の芯を残して砕けた

デュランダルの刀身にも傷が入っていて、この状況下でゼノヴィアは本来の力を出す事が出来ない

それは理解できているが、悔しげな表情を浮かべた

「……護衛か」

「護衛も立派な任務だ。――――それに、そろそろ天界であれの研究が1つの結論を出す頃だ。それも打診してこい。ついでにデュランダルの修理もな。その事もあるからお前を先に脱出させるここの戦いだけで終わりそうにないからな。さっさと直してこい」

アザゼルにそう言われたゼノヴィアは静かに頷く

斯くして、ルフェイと共にゼノヴィア、イリナ、ダイアンがこの疑似空間から先に脱出して外部に危機を知らせる事になった

転移魔方陣の術式構築の為、別室へ移動していく

部屋を出る直前、ルフェイがイリナに鞘に収まった1本の剣を手渡した

「こ、これは!」

驚くイリナにルフェイは微笑む

手渡されたそれはルフェイの兄、アーサー・ペンドラゴンが所持していた『支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)』だった

「これを持っていってください。兄から預かっていたものです。お渡しするタイミングが掴めずにいたのですが、良い機会だと思いましたので。私達にとって、それは既に用が済んだ物なのです」

「良いのか?」

「フェンリルちゃんは手に入れました。制御する為にフェンリルちゃんの力はだいぶ下がってしまいましたが、それでもあれ以上の魔物はいません。――――デュランダルの修理にエクスカリバーを使われても宜しいのではないでしょうか?」

8本中7本のエクスカリバーが揃い、イリナは深々と頭を下げた

「……あ、ありがとうございます!ルフェイさん!英雄の血を引く方って、怖い人ばかりだと思ってましたけど、良い人もいるんですね!」

「ふふふ、恐縮です。兄と共に変人とは言われますけどね」

ルフェイはそう苦笑いし、ゼノヴィア、イリナ、ダイアンと共に脱出魔方陣の術式を組む為に別室へ移動

アザゼルが膝を叩く

「さて、リアス。脱出作戦を構築するぞ。オーフィスを連れて全員生き残るのが目的だ」

「ええ、当然よね」

策士2人が不敵に笑んで作戦タイムが始まる

その間、新は黒歌の部屋、一誠はヴァーリの部屋に見舞いに行く

「……どうだ?様子は」

新がベッドで横になっている黒歌に問う

部屋の中には看病をするレイヴェルもいた

「あらん、リューくん。お見舞いに来てくれるなんて優しいにゃん」

「当たり前だろ。仲間を――――小猫を助けてくれたんだからな」

「たまたまにゃん」

妹の名前を叫んでの行動をたまたまとは思えない

ベッドの横には俯き気味の小猫が椅子に座っていた

「……どうしてですか?」

小猫は最初に小さく呟くが、途端に立ち上がって叫んだ

「どうして私を助けたんですか!?姉さまにとって私は道具になる程度の認識だった筈です!」

「さーてね。よく分からないにゃん」

「茶化さないでください!あの時、私を置いて行ったのに。その後、私がどれだけ周りのヒト達に酷い事を言われたか……。冥界でのパーティの時だって、無理矢理私を連れて行こうとしました……。私には姉さまが分かりません……ッ!」

自分の中で溜まっていたモノを吐き出した小猫は部屋を飛び出し、「ご安心を。私が追いますわ」とレイヴェルが小猫のあとを追う

新は小猫が座っていた椅子に腰を下ろした

「黒歌、前の主んトコで何があったんだ?」

「別に。嫌な奴だから殺しただけにゃん」

そう言った直後、黒歌は笑みを止めて真面目な表情になる

「猫しょうの……私達の力に興味を持ち過ぎたから目障りになったのよ。私はともかく、当時の白音じゃ、私の元バカマスターに仙術を使うよう言われたら断らずに使用して、そのまま暴走しちゃっただろうし。――――あの子、正直だから。あいつは眷属の能力向上を目指して、無理矢理な事をしまくってたわね。眷属ならまだしもその身内――――血縁者にも無茶な強化を強要したにゃ」

黒歌の目が少しだけ優しげに見える

黒歌がお尋ね者になったのは自分のマスターを殺したから

何故その様な事になってしまったのか、新は今までの話を聞いて理解出来た

「……なるほど。そいつから小猫を守ったんだな?冥界で俺達から無理矢理連れて行こうとしたのも、その『力』から離そうとしたのか。……俺が、俺達が力を引き寄せる闇皇と赤龍帝だから」

新の意見に黒歌はカラカラと笑うだけだった

「……イタズラは生来好きよ?力の使い方も大好き。面白い事も大好き。所詮、私は野良猫ちゃん。自由気ままに気の合った仲間達と放浪しながら生きた方が良いだろうし?でも、白音は逆。飼い猫の方が合ってるにゃん。だからさ、リューくん。力の塊になっても良いから、キミもヴァーリみたいにバカ正直なヒトになって欲しいのよ。そうすれば、あの子もバカ正直なまま幸せになれるだろうしね」

黒歌は真っ直ぐな瞳で新に言った

仙術に飲み込まれて力に酔えど、イタズラや戦いも好きなれど……それと同じぐらい妹を――――小猫を大事にしたかったのだろう

不器用な姉猫の思いやりを知った

「……お前、不器用な姉猫だな。俺よりも不器用なんじゃないか?」

「これでも『僧侶(ビショップ)』の駒2つ消費の生粋のウィザードタイプよん?――――ま、この話はもういっか。寝るにゃん。それとも、このまま私と子作りしちゃう?またあの時みたいに激しくされたら、今度こそリューくんの感触に溺れきっちゃうにゃ♪」

「バーカ。怪我した女を無理矢理抱くのは俺の主義に反するわ。しっかり養生してろ。……ま、小猫に関しては礼をさせてもらうぜ」

新は椅子から腰を上げ、黒歌の頬に軽く唇を付ける

軽めのキスをした後、そのまま部屋を退室する新

その背中を黒歌は見つめていた

「……あんがとね、リューくん」

-7-
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