小説『【完結】Blue Scraper』
作者:bard(Minstrelsy)

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何故か、駅には僕を含めて三人の待ち人。
僕と、自称美術部の彼女と、そして僕の女友達。
「ああもう最っ低! 何であたしが電車に乗り遅れんのよ!!」
大人しい彼女と比べ、この子はとてつもなく騒がしい。
まぁ、目の前でドアが閉まれば、叫びたくなるのも解る。
「乗り遅れるなんて珍しいな」
「全くよ!」
彼女とこの子は対照的だ。
如何にも文化系な彼女に比べ、この子は体育会系の部活に入っている。
女子バレー部員が、何故部活を休んでまで補習を受けているのか。
「赤点取ったから補習って言われたー……」
補習初日の一言がこれだった。
僕としては、不謹慎ながら歓迎すべき事態だった。
と、いうのも、少しばかりこの子との関係を進展させたいからだ。
つまり、一夏の何とやら。
ついでに、隣の席にもなった。炎天下の中、この面倒な補習をサボらない理由の一つでもある。
「そういえばさ、部活良いの?」
「えー? そんなの顧問から言われたよ。赤点取る子はお勉強しなさーいってさ」
そういって口を尖らせた。
「ま、次期部長が馬鹿じゃあねぇ……」
「あんたまでそう言うこと言う!?」
ぐいっと耳を引っ張られる。痛い上に熱い。
「そりゃあさー……勉強頑張んないと。部活辞めたくないし」
女子バレー部の次期部長と言われるこの子。
すらりとした肢体、小麦色の肌。
一応日焼け止めは塗っているらしいが、それでも焼けると愚痴をこぼしている。
明るい快活な性格と相まって、結構魅力的だ。
少々短めのスカートと、第二ボタンまで開けたブラウスから覗く白い肌。
目のやり場に困って、何となく空を見上げる。
高々度を行く旅客機。遅れて小さく音が聞こえる。
「ここって飛行機すんごく飛んでくるよね」
「え、あぁ、うん」
「嫌いじゃないけど、好きでもないなぁ。たまに話とか聞こえないし」
「それはあるね」
美術部の彼女は、旅客機に興味は無いらしい。
時折、僕らを気にしているようだったが、別に声をかけてきたりはしなかった。
「ねぇ」
「何?」
「あっちの子、知り合い?」
僕が彼女の方を伺ったのを見られたらしい。
「いや、名前も知らない。たまたま電車に乗り遅れて、一緒に待ってるだけだよ」
「ふぅん」
彼女は自分のことが話に上るとは思っていなかったらしい。明らかに、緊張している。
多分、この子みたいな体育会系の女子は苦手なのだろう。
猫に構いながらそれとなく距離を置く。
そんな様子を見ていたこの子は、ちょっと考えてからこう言った。
「案外、あんたと気が合うかも」
「へ?」
「いやいや、良いカップルになるかもよってことよ」
暑さのせいとは違う嫌な汗が背中を濡らす。
よりにもよって、この子に言われるとは思わなかった。
「え、あ、ほら、僕は明るい子が好きだから」
「今は大人しいけど、仲良くなると明るくなるかもよ?」
今までとは少し違う言い方に戸惑う。
何故そんなことを言うのだろう。答えに窮する。
水を打ったような静けさ。うるさいほどに蝉が鳴いていると言うのに。
耳が痛いほどに蝉が鳴いているというのに。
暑ささえも、感じられない静けさ。
沈黙を破ったのは、僕だった。
「来週さ、土曜日、花火大会あるんだけど…良かったら行かない? ほら、補習も終わってるし」
「う、うん……そうね。考えとく。部活あるかもしれないし……」
一応土日だけは顔出すのよ、と付け加える。
「暇があれば遊ぼうかなってだけだから」
「そうねぇ。予定、確認しとくよ。明日か明後日くらいにならないと解らないし」
「まぁ、何人かで行っても良いしね」
本当は二人で、と言いたいところだったけれど、敢えてそう誤魔化す。冗談でも言いづらい。
電車到着のアナウンスが流れる。
「あー……やっと来たかぁ」
「そお? 僕はもう慣れたけど」
半分は、この子と居られたせいだろう。
いつもは待ち遠しい到着時間だったが、今日ばかりは少し恨めしい。
「あんたって大変ねえ」
「よく言われるよ」
「じゃ、また明日ね」
「ん、また明日」
互いに別の電車に乗り込む。
窓から手を振る姿が見える。僕も応じて振り返した。
小麦色の肌が遠ざかる。
ふっと駅を振り返る。
あの彼女は、まだ駅に残っていた。


「え、美術部で戦闘機に詳しくてカメラを持ち歩いてる女子生徒ぉ?」
「しッ、声がデカい」
「そんな強烈な女子、一度見たら忘れないと思うけど」
「俺も知らんなぁ。第一、美術部に友達居ないし」
「そっかぁ」
翌日の休み時間、件の彼女について友人達に聞いてみた。
「まぁ、美術部員ってそう目立つ存在じゃないし」
「言っちゃ悪いが、確かにな」
言われてみれば、僕の友達にも美術部員は居ない。
帰宅部も多いし、一目で何部か解るのは大体体育会系の部員だ。
後は、楽器を持ち歩くブラスバンド部員くらいか。
あの彼女についての情報は得られなかった。
授業が始まる直前、僕ら話を聞いていたらしいあの子が話しかけてきた。
「なぁに? 気になってんの?」
にやっと笑ってそう囁く。
「違うって。昨日そっちに言われたからどんな子かなって思っただけだよ」
「まったまたぁ〜。照れちゃって」
「だから違うって」
本命の子にそう思われるのは心外だ。早いところ何とかしないといけない。
(いきなり告白ってのは無いよなぁ……)
とりあえず、好きな子が居るかどうか。
まずそこから聞いてみることにしよう。
勝負は今日の帰り。
どう転んでも、二日は顔を合わせることは無い。

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