普通、特定の友人を作らず、クラスの誰とでも仲が良い生徒というのは、クラスの中心的人物、ムードメーカーとなるのだが、笹塚は違う。
クラスを仕切っているのはクラス委員だし、ムードメーカーは別の生徒だ。
他の教師は気づいていないようだが、私は彼も変わっている生徒と認識していた。
黒冴も彼が自分と同じ変わり者と気づいたのかどうかは知らないが、とにかく笹塚を巻き込んで同好会を作ったらしい。
どんな同好会かは知らないが、その際、申請書を出した時に生徒会と少しもめたらしい。承認されたことから、納得させたようだが、どういうやり取りが成されたのかは少し気になる。
まあ、同好会を設立させても、二人で一緒にいるところをよく見るぐらいで、活動らしい活動はしていないように見える。
そんなある日、女生徒たちが、噂話に花を咲かせているのが聞こえた。
「ねえねえ、クラウさんの噂聞いた?」
「あー、聞いた聞いた。『路地裏の魔王』に比べれば、死体が発見されてるクラウさんの方がヤバイよね」
「現代で魔王はないよねー。イタ過ぎ」
何の話だろうと思い、私は三人の女生徒に声をかけた。
「盛り上がっているみたいですね。何の話ですか?」
「あ。明留(あくる)センセーだ」
「最近流行ってる都市伝説ですよ♪」
「マジでヤバくて怖いですよ」
楽しそうに笑いながら、流行っているという都市伝説を語ってくれた。
『完璧を求めるクラウさん』
『あるところに、自分の美しさに誇りを持っているクラウさんという女性がいました。
クラウさんは自分の美しさを磨くために、努力を怠りませんでした。
しかし、どんなに努力しても、自分より美しい人間が存在します。
誰よりも美しく。誰よりも完璧になりたい。
そう思ったクラウさんは、ある日、妙案を思いつきました。
「そうだ。私より美しい部分があるのなら、それを奪って、私のものにすればいいのよ」
そうして、クラウさんは、自分が完璧になるために、自分より美しい少女を狙い始めたのです。
一人目は、美脚で有名な女の子でした。
クラウさんは自分より美しいその足を切り落として、自分のものと挿(す)げ替えました。
二人目は、細くて白い腕を持った女の子。
クラウさんは自分より美しいその腕を切り落として、自分のものと挿げ替えました。
三人目は、果実のような厚い唇を持った女の子。
クラウさんは自分より魅力的なその唇を切り落として、自分のものと挿げ替えました。
四人目は、白くて愛らしい耳を持った女の子。
クラウさんは自分より愛らしいその耳を切り落として、自分のものと挿げ替えました。
五人目は、高くて魅力的な鼻を持った女の子。
クラウさんは自分より魅力的なその鼻を切り落として、自分のものと挿げ替えました。
六人目は、綺麗な形をした胸を持った女の子。
クラウさんは自分より綺麗なその胸を切り落として、自分のものと挿げ替えました。
七人目は、闇のような美しい黒髪をした女の子。
クラウさんは自分より美しい髪を頭皮ごと削ぎ落として、自分のものと挿げ替えました。
八人目は、魅力的な大きな瞳をした女の子。
クラウさんは自分より魅力的なその眼球を刳(く)り貫(ぬ)いて、自分のものと挿げ替えました。
そうして挿げ替えて、クラウさんは自分が求める完璧な美しさを手に入れていったのです。
しかし、まだまだ求める完璧には程遠いので、クラウさんは今日も自分より美しい少女を求めて、夜の街を彷徨(さまよ)います。
もしあなたが、クラウさんに出会ったら、クラウさん以上に美しい人を見たことが無いと言ってあげて下さい。
運が良ければ、見逃してもらえるでしょう。
でも、運が悪ければ……
クラウさんに体の一部を盗まれてしまうかもしれません。』
話を聞き終わって、私は思わず眉を寄せてしまった。
何て、悪趣味な都市伝説だ。