その数日後、放課後、英語科教室でプリントを作成していたら、すっかり日も落ちてしまった。
正門まで行くと、ちょうど前方を黒冴、笹塚、嵯峨の三人が下校しているところに出くわした。
嵯峨は部活帰りらしく、竹刀の入った袋を背負っていた。
距離もあったので、私は声をかけずに三人の後をついて行った。
笹塚を真ん中に、左右を黒冴と嵯峨が挟んでいる状態だ。見方によっては、美少女を侍(はべ)らす男子高生にも、美少女に取り合われる男子高生にも見える。
私のところまで会話は聞こえなかった。だが、仲良さそうに話に花を咲かせているようだ。
しかし、それはすぐに終わる。
分かれ道で、嵯峨だけ別方向へ行った。彼女の自宅方面なので、ちょうど別れるところだったのだろう。
実際、手を振って、何か言葉を交わしている。
私は嵯峨が曲がった方の道を目指して歩いていた。
道を曲がる前に、背後から声をかけられた。
「明留先生、何をしてるんですか?」
私は驚いて振り返った。
そこには黒冴と笹塚が立っていた。
「何って……私も帰る所ですよ?」
「先生の自宅って、この辺りじゃないですよね? 学園から電車で五駅ほどいったところのはずです。まず歩いて帰れる距離じゃないですよ。しかも、猟奇殺人事件で騒がれているこの辺りじゃ、こんな薄暗くなってから、歩いて帰ろうなんて思わないですよ」
「困りましたね、黒冴さん。教師は寄り道してはいけないのでしょうか?」
「こんな住宅街に?」
微笑んだ黒冴は、何を考えているか予測できなくて、余計薄気味悪かった。
「先生、『完璧を求めるクラウさん』って知ってますか?」
「……生徒たちが噂している怪談ですよね」
「都市伝説って言い方してほしいです。最近作った中では、結構な自信作ですので」
私は黒冴を見つめた。鞄の肩紐を強く掴んで、彼女を見返す。
「あのくだらない噂を広めたのは、あなたですか……悪趣味とは思わなかったんですか?」
「思いませんよ。むしろ秀逸だと自負しています」
反省の色は全く見られない。