コラ。そこに俺の意見を介入させろ。
ふと、会長の視線に軽蔑のようなものが混ざっているのに気づいて、俺は慌てて弁解する。
「ちょっと、会長、何か勘違いしてないっスか? 別に俺、愛実の奴隷になりたいとか、そんな願望ないですよ!? ここにだって無理やり連れて来られたし!」
そんな変な願望を持った生徒だと思われるなんて冗談じゃない!
俺が弁解すると、会長は自分の誤解を認めたらしい。軽蔑の眼差しが和らいだ。
「ならいいけど、だったら、さっさと関わるのを止めた方がいいわよ」
「だから、勝手に話を進めないでください! 宝楽、あんたも生意気に、勝手言ってるんじゃないわよ!」
「人として、当然の主張だろうが」
ため息混じりに言うと、愛実がキッとこちらを睨んで、乱暴にネクタイを掴んできた。
「何よ! 共犯者になってくれるって言ったじゃない! 騙したの!?」
「待て! 言ってねえぞ! 何で俺がお前を騙した方向で話が進んでんだよ!?」
新たにとんでもない誤解を招くわけにはいかなくて、即効で否定する。
「愛実さんを騙したとなれば、学園で最も悪い男の称号を得られますよ?」
おかしそうに笑いながら、紅茶の入ったカップを差し出された。
そちらを見ると、黒髪の男子生徒が穏やかに笑っていた。入学当初内部組から、高等部で喧嘩を売ってはいけないと忠告された黒曜御影先輩だ。
「そんな不名誉な称号はいらないです」
というか、何で入学して一年も経ってないのに、そんな最悪な称号を得なければいけないのだ。
差し出されたティーカップを受け取って、俺はやけに乾いた喉を潤した。
その間に愛実は、会長に無駄な交渉を続けている。
「いいじゃないですか、先輩。高等部内で何かやる時は、先輩にしっかり報告しますから」
「本当に報告するだけでしょう。ダメだって言ったって、何かやらかすのは目に見えてるのに、許可なんかできないわ」
「翡翠先輩のケチ! 中等部時代は一杯面倒見てくれて、尻拭いもしてくれたじゃないですか!」
「だから、その尻拭いが嫌だから、高等部ではもう面倒見ないって決めたのよ」
「だから、高等部では先輩の迷惑にならないように、宝楽を連れて来たんじゃない! 迷惑はかけるかもしれないけど、面倒事は宝楽に押し付けますから」
何か、聞き捨てならないことを言ってるぞ。
「宝楽君は、面倒な子に目を付けられてしまいましたねぇ」
何故か、隣で一緒に様子を見ていた御影先輩が、そんなことを言う。
「正直、まだ何も始まってないのに、もう後悔しそうです」