小説『都市伝説.com』
作者:海猫()

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 俺の素直な感想に御影先輩はおかしそうに笑った。

「その程度の覚悟なら、本当に愛実さんと関わるのは止めた方がいいですよ」

 穏やかな口調、優しい笑顔で、痛烈なことを言われた。

 確かに今なら、逃げられるかもしれない。たぶんこれが最後のチャンスだ。愛実と関わらなければ、俺は今まで通り平凡な生活を送れるだろう。

 ……それは嫌だった。

「えっと、若いうちにたくさん後悔した方がいいと思うので、その、逃げるつもりはありません」

 だから、気づけばそう答えていた。

 御影先輩は俺を見て、穏やかに笑みを浮かべた。

「そうですね。若いうちに後悔と挫折は経験した方がいいかもしれません。愛実さんと一緒にいれば、きっと望み通り、たくさんの後悔と挫折を経験できると思いますよ」

 すみません。そこまでは望んでないです。

 そう思ったが、当然口になど出せるわけが無い。

 俺は、この人を敵に回してはいけないという言葉を実感していた。

「あらあら、みーちゃん、あまり脅しちゃダメよ?」

 反対側から声をかけられた。

 そこには黒髪の小柄で童顔な女生徒が立っていた。御影先輩の双子の妹で、黒曜碧玉先輩だ。

 碧玉先輩は、俺を見上げて笑みを浮かべた。

「ごめんね、宝楽君。でも、みーちゃんは君を心配して、ちょっと厳しいことを言っちゃったんだよ?」

「いえ、逆に腹を決めることができましたから」

「ならいいんだけど。あたしも愛実ちゃんのこと、嫌いじゃないから、悪い男の子だったら、何が何でも引き離さなきゃって思ってたの」

「はあ。碧玉先輩の判定は合格でしょうか?」

 俺の質問に、碧玉先輩は少女のような可愛いらしい笑顔を浮かべた。

「あたしの名前って言い辛いでしょ? 『ベッキー』って呼んでいいよ」

「おや。よかったですね、宝楽君。妹が愛称を呼んでいいと言う時は、相手を相当気に入った証拠ですよ」

「それは光栄なんですかね?」

 首をかしげた俺に、双子の兄妹は似たような穏やかな笑みを浮かべている。

「えーっと、まあ、よろしくお願いします。えー……ベッキー、先輩?」

 俺がそう呼ぶと、ベッキー先輩は嬉しそうに笑った。俺の腕にしがみついて、楽しそうに聞いて来る。

「それで宝楽君は、『CLF会』だっけ? それを承認して欲しいの?」

「えーっと……」

 俺は、未だに説得を続けている愛実を見た。

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