「承認、してほしいっスね」
俺が言うと、ベッキー先輩は楽しそうに笑って、未だ交渉らしきものを続けている愛実と会長に近づいた。
「翡翠さん、愛実ちゃん、ちょっといいですか?」
「ベッキー先輩からも何か言ってくださいよ。翡翠先輩、ケチなんです!」
「誰がケチよ!? 何、碧玉? くだらない用なら殴るわよ?」
「うわ。翡翠さんの横暴! 生徒会長が役員に暴力振るっていいの!?」
ベッキー先輩が叫ぶと、会長は呆れたような眼差しを先輩に送った。
「何?」
もう一度会長が問いかけると、ベッキー先輩はニコニコと笑みを浮かべながら言う。
「その『CLF会』、承認してあげたらどうですか?」
ベッキー先輩の言葉に、愛実は満面の笑みを浮かべて、会長は露骨に眉を寄せた。
「その理由は?」
「ここで承認してもしなくても、愛実ちゃんの行動は変わらないですよ。だったら、同好会として承認してあげて、報告義務をつけた方が都合良くないですか?」
童顔で口調が幼いから勘違いしていたが、この先輩も役員の一人なんだと感心した。彼女の言葉に、矛盾もないし、正論だ。
ベッキー先輩の説得に、会長も思うところがあったらしい。
額に手をやって悩んでいたかと思うと、大きくため息をついた。
「わかったわ。承認しましょう」
会長の結論に、愛実が嬉しそうに笑う。
「先輩、ありがとう! 大好き!」
「ただし! 何かやる時は必ず報告すること。あと、どんな都市伝説を流すかも、事前に報告しなさい。その二つが守られなかった場合は、即効で廃止させるから」
「わかりました」
会長の条件にうなずいた愛実は、隣のベッキー先輩に抱きついた。
「ベッキー先輩、ありがとう」
「お礼なら、あたしじゃなくて、宝楽君に言ってあげて」
ベッキー先輩の言葉を聞いた愛実は、何故か急に不機嫌そうに眉を寄せた。
挨拶もそこそこに俺の腕を乱暴に掴んだと思ったら、生徒会室から連れ出された。
何故か、無言の威圧感を感じる愛実に、俺は黙ってしまった。何故、こんなに気まずい気分にならないといけないんだ?
生徒会室から随分離れてから、愛実が突然立ち止まる。
振り返った愛実は、俺を見上げて睨み付けた。
そして、強烈な暴言を吐く。
「女たらし。」
「……何だ、その脈絡の無い暴言は?」
何でいきなりそんなことを言われなきゃいけないんだ?
しかし、愛実の中には脈絡はあるらしい。腕を組んで、不機嫌そうに俺を見上げている。
「ベッキー先輩に何を言ったのよ。私が交渉してる間に、先輩をナンパだなんて、いい御身分ね。何様のつもり?」
「してねえ。」
何がどうなって、俺がベッキー先輩をナンパした流れになってんだ?
てーか、何でこんな不機嫌そうなんだよ?