「ヤキモチ? ――あでっ!」
すぐに思いついた結論を口に出したら、愛実に腹を殴られた。
「何で私があんたにヤキモチなんて焼かなくちゃいけないのよ! バカ? バカなの? 一遍死ねば?」
「何で、そこまで言われなきゃなんねえんだよ?」
口喧嘩する気にもなれず、俺がうなだれて言うと、眉を寄せていた愛実が俺の頭に手をやってきた。
顔を上げると、愛実が少し不服そうに言う。
「一応、お礼は言うわ。ベッキー先輩を説得してくれてありがとう。私は頭を落とせば、攻略できるって思ってたけど、そうよね。外堀から埋めることも、時には必要だわ」
自分で言っていて、納得したのか、不服そうだった愛実の顔に笑みが浮かぶ。
「私たち、いいコンビになれそうね」
我ながら現金だと思うが、こういう顔は可愛いと思ってしまう。単純とか思われたくない。綺麗な顔をしてるこいつの方が性質(タチ)が悪い。――はずだ、たぶん。
こうして、都市伝説を捏造する同好会、『CLF会』は発足したのだった。
俺と愛実が組んで、同好会を立ち上げたという話はすぐに広まった。
クラスメイトの外部組の何人かには、どうやって愛実に取り入ったのか責められたし、内部組からは同情的な視線を送られた。
「それで、結局、その同好会って何をするの?」
俺の前の席に座ってた女生徒が振り返って聞いてくる。
派手な銀灰色の髪をポニーテールにした美人だ。こいつの名は嵯峨(さが)斎姫(いつき)。出席番号が前後で、入学当初からよく話す外部組だ。
「何って、愛実が自己紹介で言ってたろ。都市伝説を作るって」
俺の返事に、斎姫は苦笑した。
「それで、宝楽も一緒に都市伝説を作るの?」
「押されるままに巻き込まれた」
「確かに、宝楽って押しに弱そうよね」
余計なお世話だ。
俺が黙ってると、不意に影がさした。顔を上げると、腕を組んで不機嫌そうに立っている愛実の姿があった。
「随分楽しそうね。何の話?」
「愛実って、押しが強そうで、宝楽が可哀想ねって話よ」
おいおい、喧嘩売るなよ。
斎姫の返事に、愛実の機嫌はわかりやすく急降下している。
「気安く名前を呼ばないでよ」
「そっちは呼び捨てにするくせに、自分はダメって何様? 宝楽、友達は選んだ方がいいわよ」
うわ。飛び火してきやがったぞ。
斎姫の視線がこっちに向くと同時に、愛実の視線もこっちに向いた。
えー、この場合、どっちの味方に付いても、俺が袋叩きになる気がする。
「……頼むから、お前ら二人喧嘩するなよ」
ダメ元で、そう言ってみる。
すると、愛実と斎姫は顔を見合わせて、不服そうに眉を寄せた。だが、二人とも俺に視線を移すと、何故か笑みを浮かべた。