「やぁね、喧嘩なんてしてないわよ。斎姫がムカつくのは本当だけど」
「そうよ、喧嘩なんてしてないわよ。愛実がムカつくのは本当だけど」
まるで示し合わせたかのように、似たような台詞を聞かされた。さっき顔を見合わせてたのは、一種の台詞合わせのようなものなのか?
何故か、この二人は仲が悪い。今のような口論は、軽い準備運動のようなものだ。その舌戦は、聞いた者の方がダメージを追うという悪質なものだった。
一先ず俺がいるとマシな方らしいので、クラスメイトはこいつらが二人きりになったら、すぐに俺を呼ぶようになっていた。
愛実は機嫌を治したらしく、俺の机に手を置いた。
「宝楽、今日の放課後、付き合いなさい。いいわね」
「はいはい」
「返事は一回でいいわよ」
俺の適当な返事に怒る様子もなく、愛実は笑みを浮かべて斎姫を見た。
「斎姫は今日も部活よね。放課後まで邪魔されなくてよかったわ」
「愛実、必死過ぎて、ちょっと引くわ♪」
ピシッと、その場の空気が凍った気がした。
「宝楽は私のものだって言ってるでしょ! 休み時間に毎回邪魔しないでよ!」
「私は宝楽の親友よ! 友達が一人もいないからって、絡まないでくれる!?」
「友達なんていらないわよ! 宝楽は使えるから、そばに置いてるの!」
「女王様気取り? 宝楽が可哀想とか思わないの!?」
「そういうあんただって、昼休みに宝楽をパシリにしてるじゃない!」
「パシリじゃなくて、勝手に買い物に行ってくれるの! 強制したことなんてないわよ!」
確かに、強制されたことは無いな。女の子に買い物に行かせて、のんびり座ってる男って最低みたいな嫌味は言われたけど。
というか、こいつら、俺を体(てい)のいい下僕として取り合ってるんじゃねえだろうな?
俺が疑いの視線を送っている間に、愛実と斎姫の玩具を取り合う子供のような口喧嘩は、どんどんヒートアップしている。
ふと、何か視線を感じて、周りを見ると、クラスメイトたちがこちらに注目していた。何人かは嫉妬のような鋭い眼差しを送っていて、何人かは生暖かい眼差しを送っている。
嫉妬みたいな視線の理由はわからなくもない。
端(はた)から見れば、俺は、愛実と斎姫というウチのクラスの二大美少女に、どんな形であれ、取り合われている男子生徒だからな。
だが、生暖かい視線は何だ?
「ぐえっ!?」
疑問に思って眉を寄せていると、乱暴にネクタイを引っ張られた。首を絞められて、俺はネクタイを引っ張
った張本人である愛実を睨んだ。
「何だよ!?」
「あんたを巡って喧嘩してるのに、余所見ってどういう身分よ! そんな地味な見た目で、モテ男のつもり!?」
「そんなつもり一切ねえよ! 勝手に人を勘違い野郎にするな!」
「宝楽って、二枚目じゃないけど、憎めない三枚目って感じよね。場合に寄ったら、モテるんじゃない?」
「斎姫、それ、話ずれてる。ってーか、三枚目って言われて、喜ぶ男はいないからな」
確かに俺は容姿も平凡だが、愛実と斎姫と一緒にいるからって、変な勘違いはしねえぞ。そんなの痛いだけだろ。