俺がため息をつくと、愛実と斎姫が詰め寄ってきた。
「大体、当事者の癖に傍観してるのが間違いなのよ。私か、斎姫か、はっきり選びなさいよ!」
「そうよ。宝楽がはっきりすれば済む話よ。愛実にはっきり迷惑だって言ってあげたら?」
待て。何かまた話が妙な方向へ行きだしてないか?
俺の疑問は口に出されること無く、二人は睨み合った。
「何で迷惑なのよ! 宝楽は一度だって嫌だなんて言ってないわよ!」
「宝楽のお人好しに付け込んでるんでしょ。勝手やりたいなら一人でやってなさいよ」
「宝楽は共犯者になってくれるって言ったわ。ただのお友達が、私たちの間に割り込んでこないで」
「ただのお友達じゃなくて親友よ。強制させてる関係と一緒にしないで」
何だ? 何かまずい口論な気がするぞ。
これ、端(はた)から聞けば、俺が騙して二股かけてたみたいな話になってねえか?
俺の不安を他所に、愛実と斎姫が再び顔を近づけてくる。
「さあ、宝楽! 斎姫なんかと親友止めるって言いなさい!」
「宝楽! 愛実に、もう振り回すなってはっきり言ってやりなさい!」
いやいや、おかしいだろ! 何で三角関係の泥沼みたいな会話になってんの!?
何か、背後からも視線を感じるし、何だこれ!? 俺、どっちか選ばないといけないわけ!?
追い詰められていると、教室のドアが開く気配がした。
「どうしたのですか? 授業始めますよ」
教室の異様な雰囲気に気づいたのか、入って来た女教師が首をかしげている。黒髪を結った穏やかそうな教師だ。
英語の明留(あくる)先生の参上で、愛実と斎姫は諦めたように席に戻った。すると、クラスメイトたちも、それぞれの席へ戻って行った。
俺も机から教科書を取り出した。
あー、危ないトコだった。
大体、何でどちらか選ばなきゃなんねえんだよ。斎姫は親友だし、愛実は………何だ?
ヤバイ、今更だが、どういう関係か、わからねえぞ。言葉にできない。友達、ではないし、同好会仲間なわけがない。俺は都市伝説に一切興味ねえんだから。
だからって、斎姫が言うみたいに、強制されてるわけじゃない。拒否権はなかったが、選べなかったわけじゃない。強く拒絶すれば、愛実も他の人間を探しただろう。
そう。愛実は俺じゃなくても良かったんだ。
それが嫌だった。
平凡な毎日を俺なりに楽しんでいたし、不満なんて無かった。だが、愛実の飛び抜けた様子から、こいつの見ている世界を見たいと思ったのだ。
その感情が何かなんてわからない。
単純に愛実のそばで、愛実が見ている世界を見たいのだ。