そして、放課後、俺は愛実に連行されていた。
放課後付き合えと言うから、てっきり学園内で何かするのかと思ったが、地下鉄で正門へ向かい、学園の外へ出始めた。
さすがに正門を出たところで、愛実の背に声をかける。
「なあ、どこへ行くんだ?」
「私の家よ」
「は?」
思わず聞き返した俺を振り返って、愛実は腰に手をやった。
「たった二人の同好会じゃ部室なんてもらえないのよ。だから、私の家を活動場所にするわよ」
「親は何も言わねえのかよ」
「一人暮らしだからね」
さらりと言って、愛実は歩き出した。
一人暮らしって、色んな可能性があるよな。単純に仕事で海外行ってるとか、地方から親元を離れてるとか、親がいないとか……
でも、愛実は幼等部からずっと黒曜学園に通ってるって、内部組が言ってたよな。ってことは、親が仕事で海外に行ってるか、社会勉強のため一人暮らしさせてるか、下世話な可能性として社会的地位のある人間の愛人の子とか?
俺が黙ってると、愛実が先を行きながら声をかけてきた。
「今、何か失礼なこと考えてなかった?」
エスパーか、こいつは。
「いいや、何も」
一応、否定はしておく。
「ねえ、あんたさ。朝霞(あさか)美羽(みはね)って知ってる?」
「……大女優だろ?」
日本アカデミー賞主演女優賞を過去五回受賞し、最近では海外にも進出している日本が誇る大女優だ。
「じゃあ、『Gemini(ジェミニ)』って知ってる?」
「双子の姉妹のアイドルユニットだよな。名前は春妃(はるひ)と夏妃(なつひ)だっけ? 中学ん時、ファンの奴がいて、CDとかグッズとか、買い漁ってたよ」
何でそんな話をするのかわからないが、一応質問には答えておく。
「じゃあ、最後。黒冴(くろさえ)正影(まさかげ)って知ってる?」
「黒冴……?」
愛実と同じ苗字なのは気になったが、パッとは出てこなかった。
立ち止まった愛実が振り返って、呆れたような視線を向けてくる。
「カンヌとかでも受賞している映画監督よ。そのぐらい知っておきなさい」
う………女優やアイドルは知ってても映画監督までってのは難しいだろ。
余程露出するような監督でなければ、知っているわけがない。