「それで、何なんだよ?」
「今並べたのが、私の家族よ」
そう言うと、愛実は歩き出した。
俺は後を追いかけて、愛実の肩を掴んだ。
「何?」
「お前の家族って……! いや、それより春妃と夏妃って、朝霞美羽の子供なのか?」
結婚してたのは知ってるけど、子供も芸能人というのは知らない。
混乱している俺に愛実が説明を続ける。
「春妃も夏妃も、自分の実力を試したいって言って、隠してるからね。親の七光りじゃなくて、実力でトップアイドルになりたいんだって」
確か、春妃と夏妃って、俺より二つ下だったよな? ってことは、愛実の妹に当たるのか。
だが、有名大女優の娘か。なるほど、愛実が美人なのも納得だ。
言われて見れば、春妃と夏妃にも似ているような気もする。
「両親だけが、芸能人なら家を出ようなんて思わなかったんだけどね。
妹たちまで芸能界に興味を持って、私だけ全然興味を持てなかった。
家族が気にしないのはわかってるんだけど、それでも自分だけ異質な気がして、高等部進学を機に一人暮らしさせてもらうことにしたの。
その条件が、進学試験全科目満点だったんだけどね」
それって、親は取れないと思って出した条件なのか、それとも出せると思ったのか、何とも言えなかった。
愛実は俺を見上げた。
「だから、うるさく言ってくる人間は誰もいないし、邪魔もされないわ。活動場所としては最適でしょ」
どうやら、同好会の活動場所に相応しいという説明の一環として、家族の話をしたらしい。
まあ、確かに活動場所としては、文句は無いだろうが……
「それ、俺って男として見られてない……?」
思わず呟いていた。
女の一人暮らしに招いても、安心な男に見られてるって、どうなんだ、それ?
いや、別に何かするつもりはないけどさ。少しは警戒してくれてもいいとか思うんだけど……
「何、ボケッとしてるのよ。早く来なさい」
いつの間にか、先へ歩き出していた愛実を追って、俺は納得できない気分になっていた。
愛実が案内したのは、学園から近くの高層マンションだった。たぶん、家賃だけで百万単位の高級マンションだと思う。そのぐらい立派な作りをしていた。うちのマンションとは大違いだ。
大体、エントランスにコンシェルジュのいるマンションって……