俺が受付に呆れた視線を送っているのも無視して、愛実はさっさとエレベーターへ向かう。
「そんなに物珍しいの?」
「いや、俺の家ってどっちかって言うと、中流だし、こんなマンション、テレビでしか見たことねえしな。
何か、案内板に足湯とかカフェの文字が見えたんだけど?」
「一階は住人専用の娯楽施設になってるのよ。足湯やカフェ以外に、簡易図書館とかエステとかできるわよ。
インターネット設備は完璧だし、両親は防犯システムが高いから、ここを選んだみたいだけど」
ヤバイ。俺とは別次元の話だ。
こいつが人から外れてるのって、こういう生活もあるんじゃないのか?
いや、それを言ったら、会長とかの方がよっぽど外れた人間ってなっちまうよな。てことは、説としては間違いか。
俺が考え込んでいる間に、目的の階についたらしい。愛実に案内されるままに付いて行く。
愛実の部屋は最上階の角部屋だった。
中も予想を裏切らない広さで、外に面した壁はガラス張りで、ロフト付きのリビングは馬鹿みたいに広い。ロフトには本棚が置かれ、ファイルがびっしり入れられていた。
赤いソファーの置かれた来客用と思われる机に案内された。
奥にあるシステムキッチンへ向かう愛実を見送って、俺は部屋の観察を続けた。
何と言うか、事務所のような印象も受ける。
奥にはパソコンの乗った黒いデスクが置かれ、観葉植物がちょっとした安らぎを与えた。
生活感が全く無いリビングの様子に、俺は妙に思った。本当にあいつ、ここで生活してるのか?
まあ、奥に部屋とかありそうだから、そっちならもっと生活感があるんだろうけど。
紅茶とケーキを持ってきた愛実は、俺に何かプリントのようなものを渡した。
「何だ?」
「今度広めようと思ってる都市伝説の草稿(そうこう)よ」
渡してきたってことは読めばいいんだよな?
俺はプリントに書かれた文字を見た。