それを無視して、愛実と会長は話を進めている。
「確定じゃなくて、まだ予想です。会長、確定したら、私の方で処理していいですか?」
「……止めたって聞かないんでしょうし、いいわよ。自由にして。その代わり――」
会長の視線が、未だ咽(むせ)ている俺に向けられた。
「宝楽君まで巻き込んで、被害者を増やさないように」
それ、どんな注意なんだ?
いやいや、犯人って、猟奇殺人の犯人だよな?
学園関係者? はあ!? 教師とか生徒に犯人がいるってことか!?
また混乱しかけた俺に、会長が声をかけてきた。
「ねえ、宝楽君、嫌なことは嫌って言っていいのよ。愛実はともかく、あなたは私の生徒だからね。会長として、あなたを守る義務はあるのよ」
「あっ! 先輩といい、斎姫といい、何で宝楽を盗ろうとするんですか! 宝楽は私のです!」
「盗ろうとなんてしてないわ。高等部は私の領域(テリトリー)よ。言わば群れのリーダーなの。
ボスが子分を守るのは、当然の義務。
いい? 愛実が高等部の生徒で、私が会長でいる限りは、あなたも私の子分よ。
ボスの責任として守ってあげるから、私に従うこと」
……その言い分だと、高等部自体が巨大なサル山に見えてきたぞ?
まあ、会長をボスザルと称するには、美人過ぎるとは思うけど。
それにしても、会長って結構お人好しだよな。愛実の尻拭いはしないって言ってたくせに、結局会長の義務として守ってやるって言ってるんだし。
もっと厳しい人かと思ったんだが、そうでもないんだな。
俺が会長に好印象を抱いていると、突然愛実に腕を掴まれた。
「愛実?」
「鼻の下伸ばしてんじゃないわよ。先輩は高嶺の花なの。
あんたなんか、すぐにポイ捨てされちゃうんだから」
「何で、俺が会長を狙ってる方向なんだよ? それ、俺の意思も、会長の意思も、ガン無視だろ」
俺が呆れたように言うと、愛実は何故か不機嫌そうに頬を膨らませている。
疲れたようにため息をついて、俺は会長を見た。そして、少し驚く。何故か、会長は目を丸くしてこちらを見ていた。
俺が首をかしげると、会長はハッとして、御影先輩に目配せをした。すると、御影先輩が愛実に近づいた。