「愛実さん、少しいいですか?」
「何です?」
「同好会発足前に、愛実さんが流した噂があるでしょう?
その中にいくつか妙なものがあったので、自然発生されたのか、愛実さんが作ったのか、教えていただきたいのですが」
「わかりました」
立ち上がって愛実が、御影先輩に誘導されるままパソコンを覗き込む。
その間に、会長が俺に声をかけてきた。
「妙に思わせてごめんなさいね」
「あ、いえ。その、何に驚いてたんですか?」
「……」
俺の質問に、会長は顎に手をやって、何事か考え込んでいる。
「その、あんな愛実、初めて見たから」
「は?」
失礼とは思ったが、聞き返していた。
「私も愛実と同じで幼等部からずっと学園に通っているんだけど、あの子を認識したのは中等部の時ね。この間も言ったけど、進学して一ヶ月ぐらいで、何を思ったのか、音楽室に火をつけたのよ」
「問題になったんじゃないっスか?」
「なったわね。結果的に警察に通報しない代わりに、停学になったし」
愛実はどんな無茶でもしそうに見えるんだが、そこまでバカなことをやるとは思えなかった。
「まあ、その事件に関しては、何か裏があるって未だに思ってるんだけど。
とにかく、それから、当時生徒会長やってたこともあって、何かと愛実と接触することが増えたの。
その結果、ずっと愛実を見てきたの。だから、あの子が誰かに対して、嫉妬したり拗ねたりして見せるところなんて、見たことが無かったから驚いたの」
言われて見れば、俺と関わる前の愛実は、いつもつまらなそうな顔をしていた。関わってから、あんな風に怒鳴ったり拗ねたりする奴なんだと思っていたんだが、どうやら違うらしい。
そこで、ある疑問に気づいた。
「ん? でも、会長とは交渉の時、言い合いしてませんでした?」
「私たちは、愛実とあそこまでの仲になるまで、一年以上かかったわよ」
想像できなくて、俺は黙ってしまった。
すると、会長が俺の手を掴んできた。予想もしない接触に、俺は驚いて手を引いた。
「ねえ、宝楽君。あなたが今、愛実から離れる気がないなら、責任持ってずっとそばにいなさい。
まあ、今回の件はお試し期間ってトコね。『クラウさん』の件が片付いたら、結論を出しなさい」
俺は何て答えたらいいのか、わからなくて、結局何も言えなかった。
こういう時に格好良いことが言えないから、俺は平凡なんだろうな。