それから数日間、俺たち三人は一緒に帰っていた。
斎姫の部活が終わるまでは、俺たちは図書室やネットカフェで過ごしていた。
今日も愛実の都市伝説講座が終わり、待ち合わせていた斎姫と一緒に学園を出た。日も落ち始めた住宅街を歩きながら、愛実がこんな話をする。
「ねえ、『ベッド下の斧男』の後日談『ベッドタウンの斧男』って知ってる?」
「……何だ、その無理やりな名前の後日談は?」
ベッド下の斧男の都市伝説は、定番中の定番だろう。
友人の家に遊びに行くと、ベッドの下に斧を持った男を見つけて、気づかれないように逃げるって話だったはずだ。確か。
そんな話に後日談があるのか?
「警察から逃げたベッド下の斧男は、また懲りずにどこかの家に忍び込んで、ベッドの下に隠れるの。
でも、そこはヤクザが使っている部屋で、見つかってしまった斧男は、敵対する組織の鉄砲玉と勘違いされて、ヤクザから拷問を受けてしまう。
精神的に壊されてしまった斧男は、ヤクザから逃げ出すと、こんな人の気配の無いベッドタウンに忍んで、人間狩りをするようになったのです」
俺は生き生きと語る愛実を見て問いかける。
「その話、お前が広めたんだろ?」
「そうだけど?」
俺が大きくため息をつくと、斎姫が笑いながら答える。
「確かに、ベッドタウンに殺人鬼が潜んでるなんて、在り得そうだけど」
斎姫の言う通り、住宅街だというのに、人の気配が一切無い。薄暗くなっているというのに、電気をつける家は存在していない。
そう思うと、少しゾッとするからおかしいよな。
「あ。じゃあ、ここまででいいよ」
斎姫が俺たちに手を振る。
「家の前まで送るけど?」
俺の言葉に斎姫は明るく笑った。
「遠慮しておくわ。愛実が怒ってるしね」
斎姫に言われて、俺が愛実を振り返ると、灰色の瞳を細めて睨んでいた。
何で拗ねてんだよ、こいつ。
まあ、後が面倒なので、俺は仕方なく手を振ることにした。
「んじゃ、明日学校で」
「ええ。じゃあ、明日ね」
斎姫と別れると、俺と愛実は反対方向へ向かう。