小説『都市伝説.com』
作者:海猫()

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「そして、中には気づく人もいるんです」

「気づく?」

「はい。『クラウさん』の正体に」

 俺は何故か、生徒会室での会話を思い出した。

 会長は猟奇殺人の犯人が、学園関係者にいるのかと言っていた。『クラウさん』の正体って、殺人事件の犯人ってことだよな?

 愛実は楽しそうに言葉を続ける。

「すごく単純で、わかりやすいアナグラムですよ。『クラウ』をローマ字に変えて、並び替えると、ある人の名前になるんです」

 愛実の声に、子供らしい無邪気な悪意がこもった気がした。

「犯人がわかりやすい、珍しい名前でよかったです。ねえ、明留鈴子(すずこ)先生」

 それで、ようやく気づいた。

『KURAU』を並び替えると、確かに『AKURU』になる。だが、確かニュースでは、あの事件の犯人は男である可能性が高いとか言ってなかったか?

 何でこいつは明留先生が犯人だって気づいたんだ?

 明留先生も同じ疑問に行き着いたらしい。

「おかしな話ね。警察は、犯人は男と断定しているのに、どうして私が犯人だとわかったの?」

 いつもの穏やかな敬語口調ではなく、たぶん地の喋り方なのだろう。

 その言葉だけで、先生が犯人なのだと認めたとわかった。

 わかったけど、いやいや、嘘だろ?

 だって、学校での先生って、いつも穏やかで優しいって印象だったし、あんな殺して体の一部を持って帰るような頭のおかしい殺人犯のイメージなど無い。

 だが、愛実は楽しそうに笑って答える。

「最初の授業から怪しいと思っていましたよ。穏やかで優しい先生なんて言われているけど、よく観察すると、暗い闇みたいのが見え隠れしてました。確信したのは斎姫(いつき)への態度ですね。先生が斎姫の手を見ている時に、どこかうっとりとした眼差しを送っていたのを見ちゃったんです。まあ、一瞬だったので、気づいたのは私だけでしょうけど」

 こいつ、周りに興味ないって顔して、実はしっかり観察してるんだな。

 斎姫の手を褒めてるのは聞いたが、そんな眼差しなんて、気づいたこと無いぞ。たぶん見られていた斎姫本人だって、気づいてないはずだ。

「ああ。確かに嵯峨の手はとても美しいから、そんな視線を送ってしまったかもしれないわね」

 さらりと認めて見せた明留(あくる)先生は、うっとりと夢でも見るかのように目を細めた。

「本当に綺麗な手。白くて、細長い指に形のいい爪。あんな綺麗な手で、竹刀を振り回すなんてとんでもないわ。だから、切り落として、私が大事に鑑賞してあげようって思ったのに……!」

 何だ、これ。狂ってる。

 そこには教壇に立っていた英語教師の姿は無い。ただの狂った殺人鬼しかいなかった。

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