「大体、あの子たちは、自分の価値を理解してないのよ! あんなに綺麗な足や腕なのに、それを酷使するような陸上部やテニス部に所属していたり、魅力的な唇や胸、耳をしているのに、馬鹿な男に好き勝手触らせたり、綺麗な鼻や髪をしているのに、整形や染髪で汚そうとしたり、綺麗な眼球をしているのに、無粋な眼鏡で隠したり……! どうして、綺麗なものをああして壊してしまうような、汚してしまうような真似をするの!? あんなひどいことをするってことは、いらないってことでしょ!? だから、持ち帰ったの! 私の方が本人たち以上に、愛してあげることができるんだもの!!」
気持ち悪い。そんなくだらない理由で八人も女子高生を殺したのか?
明留は、俺の嫌悪など気にせず、まだ気色悪い欲望をぶつけてくる。
「本当はあなたのことも欲しかったのよ。だって、とても綺麗な顔をしているんだもの。首から上全部が欲しいなんて思ったのは初めてよ。だから、次は、あなたにしようって決めていたの。多少順番が変わっても、まあいいわ」
そう言うと、明留は愛実に向かって、金槌(かなづち)を横薙ぎに振るった。いつの間にか下ろしていた鞄に隠していたらしい。
愛実が金槌を避けても、明留は気にせず、もう一度振り上げた。
「大丈夫よ、黒冴(くろさえ)さん。少しぐらい頭の形が崩れたって、あなたは美しいわ。だから、避けないで!」
「愛実!」
俺は愛実の腕を引いた。
ようやく異様な空気から脱した俺は、そのまま愛実を引っ張って逃げ出す。
ここはベッドタウンだから、すぐに住宅街から抜けようとした。しかし、逆に愛実に腕を引かれる。
「こっちよ!」
愛実が誘導したのは住宅街の奥だった。
一瞬、何を考えているのか、怒鳴りそうになったが、こいつが何も考えてないわけがないと、すぐに思ってうなずいた。
愛実が誘導するまま、住宅街の奥へと向かう。結果的に、俺たちはすぐに行き止まりまで、追い詰められてしまう。
「追いかけっこは終わりよ」
教師だった殺人鬼の言葉に、俺と愛実は振り返った。
そして、固まる。
何だ、あれは?
え? ってーか、気づいてないのか? 後ろのあいつに。
何か余裕面で話してるが、そんなの耳に入ってこない。それより、あいつだ。何だ、あれ!?
不意に、愛実が俺の手を握ってきた。
愛実もあいつを見てるはずなのに、怯えた様子もなく笑みを浮かべている。それに、少し俺も落ち着く。
「悪いけど、私も警察に捕まりたくないの」
身勝手な殺人鬼の言葉が聞こえてくる。
愛実が微笑んで答える。
「先生、それ、私も同意見です」
「……は?」
唖然としたのは、俺だけじゃない。明留も唖然としている。
愛実は楽しそうに笑みを零した。