「だから、警察に捕まってほしくないんです。だって、犯人が逮捕されたら、都市伝説にならないじゃないですか」
いやいや、そういう問題じゃないだろ?
何だ、この状況?
どうしたらいいんだ?
「こういった猟奇的な都市伝説の犯人は、捕まったら終わりなんです。未解決のまま、犯人がいなくなる。それがベストなんですよ。ほら、『ベッド下の斧男』が良い例でしょ」
……『ベッド下の斧男』?
って、まさか……!
「だから、先生をここまで誘導したんですよ」
ああ、やっぱり。ここにあいつがいることを、知ってやがったな、こいつ!
そこで、ようやく明留は、気配に気づいたらしい。
ってーか、息遣いが俺たちのところまで聞こえるってことは、明留にだって、当然聞こえてるよな?
ずっと近くにいる明留(あくる)は、その恐怖に怯えている。歯をカチカチと鳴らしながら、涙目になって、振り返った。
その瞬間を狙って、斧を振り上げた大男が、容赦なくそれを振り下ろした。
「ぐぎゃっ!?」
妙な悲鳴を上げて、明留の頭に斧が減り込む。
二メートル近くあるスキンヘッドの大男は、シューシューと妙な呼吸音を鳴らしながら、動かなくなった明留の足を掴むと、血に塗(まみ)れた斧を担いで、住宅街を歩いて行った。
言葉もなく、それを見送った後、俺は愛実に視線を移した。
まあ、当然ながら、楽しそうに笑っている。
「なあ、愛実……」
「何?」
「あれ、何だ?」
「さっき話したじゃない。『ベッドタウンの斧男』よ」
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
「えーっと、実在したのか?」
「偶然、あいつを見つけた時はラッキーだと思ったわ。交渉して、新たな都市伝説になるようにお願いしたの」
「明留はどうなるんだ?」
「さあ? 死体は見つかりさえしなければ、どう処理してもいいって言ってあるし」
愛実は話しながら歩いていく。まだ混乱している俺も、彼女の後をついて行く。
「どこ行くんだ?」
「もう着くわ」
そう言って、着いた場所は、先ほど明留を追い詰めたところだった。黒い鞄だけが放置されている。