黒曜学園は、俺みたいに高等部から入学する生徒が多いらしく、そういう生徒は外部組と呼ばれているそうだ。逆にずっと黒曜学園に通い続けて、進学した生徒は内部組と呼ばれている。
さらに面白いことに、この学園では四月になると、入学式ではなく、入学・進学式というのが行われる。
入学するのは外部組であって、それまで幼等部、初等部、中等部、高等部に通っていれば、入学ではなく進学という意味になる。
ちなみに内部組も入試と同等レベルの進学試験を受けるそうだ。それに合格できなければ、進学は認められないらしい。
まあ、とにかく新入生代表に選ばれるのは、入試と進学試験で最高の成績を修めた生徒が選ばれる。
つまり、そいつはそれだけ頭が良いということだ。
新入生代表に選ばれたそいつの名は、黒冴(くろさえ)愛実(めぐみ)。
名前を呼ばれて立ち上がったそいつを見て、俺は唖然とした。いや、唖然としたのは俺だけじゃない。俺と同じ外部組の奴らは、性別なんて関係なく、そいつに見惚(みと)れた。
腰まである漆黒の髪に、雪みたいな白い肌、意志の強そうな灰色の瞳をした所謂(いわゆる)美少女と呼ばれる生き物だ。
今までだって、クラスで可愛い女の子とか見てきたけど、愛実は別格だった。
性別関係なく、相手を見惚れさせる美少女など、俺は見たことが無い。
愛実という女は、それほど美人だった。
さらに愛実と同じクラスになった俺は、幸先のいいスタートだと、この時は思っていた。
実際、五十音の席順で近くに愛実が座った時は、ガッツポーズしたほどだ。
だが、それはすぐに間違いだったと知る。
新しいクラスになれば、当然自己紹介があるのは、どこの学校も同じ通例行事だ。
そして、愛実の番になった時、立ち上がった彼女は、わざわざ教壇まで出ると、勢い良く教卓を叩いた。
「全員、よく聞きなさい! この中で、奇妙な体験、不思議な体験をした人間は、私に語りに来なさい!
その話を脚色して、私が立派な都市伝説にして語ってあげるわ!
それ以外の人間は、面倒だから話しかけないで! 以上!」
その滅茶苦茶な自己紹介? のようなものに、外部組は唖然とした。
だが、それでも愛実の見た目は魅力的だったらしく、外部組の何人かが愛実に声をかけ、無視されていた。
「何だ、あいつは」
思わず呟いてしまうと、近くにいたクラスメイトが声をかけてきた。
「黒冴は見た目は美人だけど、中身があれだからな。さっさと幻滅して関わらないのが、正解だよ」
そんな忠告をされた。
まあ、実際、関わるつもりはなかったけど。
そう。俺は愛実には近づかなかったし、愛実も都市伝説のネタになるような話を持ってこない奴には、クラスメイトだろうが、興味を持たなかった。
つまり、俺と愛実には接点など無い。無いのだが……