「随分と、C級ホラーテイストな後日譚よね」
頬杖を突きながら、そんな感想を呟く。
黒曜(こくよう)学園高等部生徒会室では、役員たち――と言っても三人しかいないけど――で、書類整理を行っていた。その中休みとして、私はパソコンをいじっていた。
「ああ。斧男の後日譚ですか」
私の感想に、何かとパソコンを覗いてきた御影(みかげ)が、机にティーカップを置きながら言う。
ティーカップからは、湯気と共に、芳醇な香りが漂っていた。今日の茶葉は、アールグレイのようだ。
「あ! 私、それ、知ってます! ヤクザに拷問されちゃった斧男が、ベッドタウンを新しい狩場にするって話ですよね?」
元気良く手を上げながら、そう言ったのは碧玉(へきぎょく)だった。
彼女は御影が淹れた紅茶を右手に、左手にはお茶菓子として用意してくれたスコーンを持っていた。頬に食べかすが付いているので、すでに何個か、たいらげたらしい。
「どうして、その話を調べているのですか?」
御影が、私の机にもスコーンの乗った皿を置きながら、問いかけてきた。
「これも、愛実(めぐみ)が作った話でね。ちょっと曰(いわ)くがあるのよ」
スコーンを一口齧(かじ)って咀嚼(そしゃく)していると、御影と碧玉が、妙な顔をしてこちらを見ていた。
私は笑って誤魔化すと、紅茶を一口飲む。
「ん。今日もすごく美味しいわ。ありがとう、御影」
私が笑いかけると、御影は穏やかに笑みを返してくれた。
「翡翠(ひすい)さんに喜んでいただけるように、茶葉もスコーンも厳選いたしましたから」
「さっすが、みーちゃん! 分け前がもらえるので、私もホクホクです♪」
嬉しそうにスコーンを頬張りながら、碧玉が笑った。御影は呆れたように腰に手をやると、双子の妹に近付いた。
「碧玉。僕は翡翠さんのために用意したと言ったのに、どうしてあなたがほとんど食べてしまってるんですか?」
「みーちゃんお手製のスコーン、すごく美味しいから♪」
「食べてばかりいるから、縦に伸びず、横にばかり伸びていくんですよ」
「にゅあ〜!! みーちゃん、それセクハラ! ううん! パワハラ! モラハラ! むしろドメスティックバイオレンス!!」
「色々間違っていますが、そんなにお望みなら暴力で訴えましょうか?」
「ああっ! 拳鳴らしながら来ないで! ごめんなさいっ! 私が悪かったです!!」
今日も仲の良い二人を見ながら、私は笑顔で見守るのだった。
いつも穏やかな笑みを浮かべた、一見好青年風な黒曜御影と、大きな目が特徴の童顔な黒曜碧玉。双子の兄妹だけど、そこまで似ているわけじゃない。
私の補佐をしてくれている生徒会役員で、心強い味方だ。
黒曜翡翠。それが私の名前。
日本経済に影響を与えるだけでなく、海外にも進出している黒曜一族直系に当たる。だけど、その実、結構複雑だったりする。
今の時代でも、血族結婚という古臭いことを繰り返してきた黒曜一族だけど、私は違う。