小説『都市伝説.com』
作者:海猫()

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 私の母は、黒曜一族でも末端に当たる遠縁の血筋だ。さらに母の祖母はドイツ人で、私にも、隔世遺伝で、その血は受け継がれていた。

 そう。私は日本人とは瞳の色が違う。日本人を含めたアジア系民族は、黒系か茶系の瞳が一般的だけど、私の瞳はドイツ人の曾祖母の血を受け継いで、緑色だった。

 濃い血筋を重視する黒曜一族が、直系の血に他国の血が混ざるのを黙認するわけがない。

 それでも、正統なる直系である父が当主を務めていれば、さほど風当たりは強くなかった。

 遠縁で、異国の血を持つ母は、当然黒曜一族直系の方々には嫌われている。

 ここにいる御影と碧玉の両親も例外ではない。

 特に私の叔母に当たる二人の母親と祖母は、母に辛く当たっていた。

 祖母は父を溺愛し、黒曜一族を率いる当主として、厳しく育てていた。妹である叔母も、そんな父を尊敬し、兄として慕っていた。

 祖母の命令は、どんなことでも従っていた父が唯一逆らったのが、妻に選んだ女だった。

 両親は、この黒曜学園で出会ったらしい。

 末端の遠縁である母は、黒曜一族の集まりに参加することも許されず、当然直系の方々に会ったこともなかった。

 だからこそ、母はこの学園に賭けたのだ。

 ここで父と知り合った母は、賭けに勝った。

 父を魅了し、遠縁でありながら黒曜一族当主の妻の座を手に入れたのだ。

 父は母を心から愛し、祖母や叔母の嫌がらせから守ってくれていた。当主が絶対である黒曜一族では、父の意向が全てだ。祖母と叔母も黙っているしかない。

 だが、それは三年前に、あっけなく終わった。

 私が中等部二年の時に、庇護してくれていた父が病死した。当初は、祖母が叔母夫婦に当主の権限を移行させようとしていたけど、父が残した遺言書が見つかり、そこには母を次の当主に指名する旨が書かれていた。

 さらに母は、この遺言書の存在を知っていたかのように、祖母と叔母夫婦以外の黒曜一族を掌握していた。

 結果、現在の黒曜一族は、遠縁の血筋である母が、異例の当主として就いているのだ。

 祖母は、それでも母を引き摺り下ろしてやろうと、色々画策していたけれど、父が亡くなって半年後、力尽きたかのように病死した。

 残った叔母夫婦は、母の地位が揺るがせないものになってしまったので、代わりに攻撃の対象を私に移行した。

 男系である黒曜一族は、嫡男を跡継ぎとして重視している。

 私が女であることを理由に、叔母夫婦は御影を次代の当主に推したのだ。

 だが、皮肉なことに、御影に当主になる気など全く無く、その証として私の補佐役に徹している。双子の妹である碧玉まで、それに習ったため、叔母の面目は丸潰れだ。

 おかげで私は大変助かっている。

 だからと言って、油断はできない。叔母は私の隙を狙っているし、黒曜一族当主の娘として、いつも完璧でいなければいけない。

 いつだって、私は次の黒曜一族を背負っていくに、相応しい人間であり続けないといけない。

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